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桜の木の下には××が埋まっている

作者: 馬肉

 春は出会いと別れの季節だと人は言う。卒業式や入学式、クラス替え、配置転換、転勤、例をあげればキリがないほど人々の環境が変わり得る季節だ。

 そしてこの春から晴れて上京し、一人暮らしを始めた俺もその一人である。地元の友人や家族との別れは勿論寂しかったが、今は新しい環境への期待の方が上回っている。


 新しく手に入れた8畳の自分の城は決して快適とは言えないが男子大学生が一人で暮らすのには十分だ。いや、むしろ初めて親元から離れたこの部屋は自立の象徴として誇りにすら思える。

 

 その日、中々寝付けなかった俺は友人に写真でも送ろうと思い一人夜のキャンパスに足を踏み入れた。ちょうど桜が綺麗に咲くころで、昼とはまた違う趣があるその光景は不思議と強烈な印象を俺に与えた。

 

 一通り写真を撮り終え、帰路に着こうと思った時、不思議な音が聞こえてきた。それは土を掘るような音だった。しかしどうにも不可解なことは道具を使っているとは思えないような音なのだ。

 恐怖よりも好奇心の勝った俺は音のする方へと向かっていく。初めは何か野生動物が餌でも埋めているのかと思った。しかしその楽観的な憶測は見事に裏切られることになる。


 暗くて性別すらよくわからないが明らかに人だとわかる影が手で一生懸命に桜の木の下を掘っていた。よほど焦っているのか見られていることに気づきもしない。

 ここにきて恐ろしくなった俺はすぐさま走り出した。部屋へと駆け込んだ後小一時間は茫然とし、何も考えられなかった。

 夜が明けて日が昇ると幾分冷静になった。そして、やはりあれは夢だったのだという結論に辿り着いた。そして今日がオリエンテーションの日だということをすっかり忘れていた俺はその準備に追われて桜のことなどどうでもよくなっていた。

 

 恙なくオリエンテーションも終わり、サークルの熱烈な歓迎を受けた帰り道、ふとまた昨日の桜のことが頭をよぎった。自分の中の仮説を証明するためにもこの目で確認しようと思って桜の前に来た時、俺は猛烈に後悔した。

 明らかに一部の土の色が違う。それは昨晩、確かに誰かがここを掘ったことの証左に他ならない。


 それから講義中でもバイトでもサークルでもずっと桜の木の下のことが頭から離れなくなった。果たしてあの日なにが起こっていたのだろうか。そして何を埋めていたのだろうか。

 

 桜が花びらを落とし、葉を落としてもずっと同じ疑問が頭の中を回り続ける。そしていつも掘り起こすための後一歩が踏み出せない。掘り起こしたら、もう引き返せなくなるという予感が自分を押しとどめていた。

 だが日に日に強くなる気持ちと、自制心との釣り合いをいつまでも取り続けるのは不可能なような気がした。


 また桜が花をつけ始めたある夜、男は遂に耐え切れなくなり家を飛び出し桜の木の下へ駆けて行く。なぜこの夜なのかは本人にしか分からない。男は一心不乱に土を掘りあさる。その形相は明らかに常軌を逸していた。

 その夜偶然にも一人の学生が夜桜鑑賞のために訪れていた。彼か彼女は不思議な音を耳にして、音のする方へと……。

  




 



 桜の木の下には何が埋まっているのだろう

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