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「ブラック家はどこの派閥にも属さない中立派です。確かに財産や権力はそれなりにありますが、この国の中で群を抜いてかと言われると、そうでもありません。……ですが、ブラック家は王家を含め、他の貴族から一目置かれた存在です。なぜか……それは、秘匿にされている能力があるのです……」
モワノの言葉に、ラリー殿下は顔を目を見開く。
表情から、やはり不思議な力を持ってでもして、アリスを殺害したのだろうとでも言いたげでもあった。
「ご存知かどうかはわかりませんが……ブラック家の名前で生まれた子息令嬢は体のどこかに痣があります。それは力を有する証であり、普通の人では知りえない知識を得ることが出来るのです。パトリシア様も能力を有しており、その能力から、アリス・ブレーク様がノートに書き記した”前世のキオク”をと言われる知識をもともと知っておられたのです。しかし、能力には代償が伴います。ブラック家の皆さまは大きな力を有する代償として、恋愛感情がこそげおちた様に全く感じない。感じられないのです。感情が高ぶると、痣がひどく痛みだします。防衛反応でもあるのです。ですから、殿下が誰と恋愛関係を築こうが何をしようが、パトリシア様には関係のないことなのです。ここで、申し上げておきますが、恋愛感情を抱けないだけで、親愛や家族愛などの愛情は抱ける方です」
殿下はわなわなと立ち上がる。
モワノの言葉に、パトリシアとして生きている違和感。特に前世の”ユリ”としての自分と感じ方の差異。その原因についてすとんと理解できるように腹の中に落ち着いた。
確かにそうなのだ。ブラック家の場合、婚姻は全て見合い。恋愛結婚をしたものは誰もいない。
「そんな訳のわからないことを……」
「いや、事実である」
低いテノールの、ここにいた人ではない人の声が聞こえ、そちらを振り返ると――陛下である。扉からゆったりと、ラリー殿下の元に向かう。私はお辞儀をさらに深める。
「父上……」
殿下は驚きのあまり、椅子にもう一度腰を落とした。
「本当のことだ。話に水を差してしまう様で悪いが、そろそろ愚息にも説明するいい機会だと思ってな。ブラック家には偉大な力が宿っている。だから王家として何も動くことは無かった。ブラック家の者は――各々によって、能力は異なる、例えば、彼女の父親は人の感情を読み取る能力を持っている」
「そんな……」
「私の言うことも信じられないのか?」
「いえ、そう言ったことでは」
ラリー殿下は愕然としたように、私と陛下を見比べる。
「お前と、婚約を決めた時も、彼女の父親や『恐らく、殿下がどれほど立派にご成長されても、きっと娘は恋心を抱くことは難しいだろう』と、私に言っていた。それでも、色恋ではない二人の関係を築いて行けるだろう。それが、この国を支える礎となる。また、お前にもそんな色恋だけに執着しない、そんな人間になってほしいと。思っていたのだが、誤算だったのかもしれない」
陛下はそういって、項垂れる。
「失礼致します」
そう言って入って来たのは、レイトン宰相。オルティス様の御父上にあたる方だ。
「これより、ここでの指揮は陛下の命により私がとる。殿下は、自身の権力の乱用。ましてや婚約者である令嬢を自らの法規で断罪しようとしたこと。王族の一員として許されぬ行為です。国として司法を定めているのです。それを軽々しくあつかったのも同然ですから、きっちり反省していただくため、しばらく自室で謹慎していただきます。オルティス」
レイトン宰相は自身の息子を名指しした。
「お前にも、殿下の暴走を止める様に、話をしていたのに、それを阻止できなかったお前にも責任がある。ともかく、殿下を自室までお送りし、部屋の前で待機するように」
「申し訳ございません」
オルティスは立ち上がり、一礼すると、ラリー殿下の元に行き、呆然としている殿下の腕をとって、執務室を出て行った。
「それから、パトリシア嬢」
名前を呼ばれ、レイトン宰相を見た。
「今回の事件の真相について、貴女が尽力していただいた事には心から感謝いたします。貴女のメイドが犯人だと……その事については、しっかりと調査をしなければ、こちらとしても動くことができません。……早くとも三日はかかります。その期間は、ブラック家に謹慎と言うことでご理解いただけないでしょうか?」
なぜ、わざわざ期間を示したのか、ぽかんとしたがレイトン宰相が目を細めたので何を言わんとしてくれているのかがわかり、深くお辞儀をする。
*
ブラック家の帰路の馬車の中。
モワノと私は差し向いに座り、お互いに言葉を発する雰囲気ではなかったが、どうしても聞きたいことがあった。
「本当に貴女が殺害したの?」
モワノは大きく頷く。
「どうして?」
いつも冷静で大人びているモワノがどうしてこんなことをしたのか、それだけが、私の中で疑問だった。
私が“推し”と言う言葉を使っても、彼女は驚く事もなくただ、そのまま受け止めた。
だから、もしかして彼女も前世のキオクを持ち得ているのではないかと気がついた。
それを問いただすと、モワノはそれだけではなく、自分がアリスを殺害したという部分まで認めた。
信じられなかった。
信じたくなかった。しかし、こうなった以上……。
「私にも、亡くなったアリス嬢と一緒で、前世のキオクがあるのは話しましたね? ある時、パトリシア様も同じではないかもしれませんが、私と同じ様な知識を有しているのだと気がつきました。そして、それをなるべく知られないように振る舞っていることも」
「……ええ、言わなくてごめんなさい。でもどうして?」
モワノに気付かれたのだろうか。
「謝ることではありません。パトリシア様は素直な方ですから、あまり言葉にしすぎることも時にはよくないと思いますので。そうですね、気が付いたのは、貴女が『オルティス様が推し』だと、言った時です。推しと言う言葉はこの世界では存在しませんから」
モワノはそう言って笑った。
「でも、どうして貴女はその知識を知っていたの? アリスさんから何か聞いていたの?」
ゆるゆると首を振った。
「畏れ多いので、本当は言わないと思っていたのですが、私の曾祖母が実は、当時のブラック家の当主と、過ちをおか
したことがあって……それで」
「貴女にもブラック家の血が流れているのね」
モワノがどうして、前世のキオクを持っていたのか私は納得して頷いた。




