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リピート
「こんな話を知っているか?」
悪友のシンジがいきなり、背後から俺の首に腕を回し、ニヤニヤしながら話し掛けてきた。
「。。。また、何か悪巧みをしてるのか?」
俺は驚く事もなく、呆れながらシンジの腕を退けて、冷たい視線を送ってみた。
「裏山に白いワンピースの女が出ると言う噂だよ」
「あぁ。。。」
「なぁ!なぁ!確認しに行こうぜ!」
「はいはい。勝手に行ってろ」
「俺とお前の関係はそんな淡白なモノだったのか!そんなわけ無いだろ!?」
塩対応の俺に対して、ハイテンションで誘ってこれるコイツはきっと馬鹿なんだ。
「。。。仕方無いなぁ。今夜行くんだろ?」
それでも俺はシンジと一緒に居ることを苦痛と感じる事はなかった。
確かに『うざい』『めんどい』『疲れる』の三拍子が揃っているがそれでもシンジと居るのが楽しいと思った。
「おうよ!やっぱり心霊系は夜に行うのが定番だろ?」
「はいはい」
「よ~し!今夜裏山の入り口で待ち合わせな!」
シンジはハイテンションでそう言い残すと教室から出て行き、どこかに走り出していた。
「あれ?アンタの彼氏、もう行ったの?」
「同性には興味ねぇよ」
「あれ?そうなの?皆そう言ってるわよ?」
からかわれているのを気付かずに天然で聞いているイクエに俺は軽く考えるとイクエの目を見つめた。
「。。。俺はお前が好きだ!」
「ごめんなさい」
即答だった。
俺は頭を抱えながら天井を仰いで、オーバーリアクションをとって見せた。
「失恋した!!!」
毎日のやり取りにさすがにクラスの奴等もこちらを見ていない。
「男として、人としての魅了をアンタに感じないからごめんなさい」
イクエは真剣な表情をしながら、傷口に塩を塗ってくる。
俺はイクエの将来を心配に思いながら、優しくイクエを見つめた。
「まぁ。そんなどうでも良いことはおいといて、何か用事があったんじゃないか?」
「白いワンピースの女の噂をシンジが聞いて回ってるみたいだから釘を刺しにきたのよ」
「あぁ。お疲れ様。残念ながら今夜確認しに行くことになった」
「そう。。。なら、私も行くわ」
「ダメだ!!!」
俺はイクエの提案を思わず声を張り上げて拒否をしてしまった。
俺の声にビックリしたのかクラスの奴等が俺達に視線を向けている。
「なによ?いつもの事でしょ?」
確かにいつもの事である。
シンジが企画し俺が付き合わされてイクエが監視に来る。
「それでも、ダメだ」
俺は無理なのは分かっているが、それでもイクエを同行させたくなかった。
「そう?まぁ。アンタがなんと言おうが私は行くけどね」
「。。。」
こうなる事は分かっている。
それでも、何度拒否してもイクエはどんな事でも着いてきたからだ。
「シンジが何かしでかしたら私に迷惑がかかるの分かる?」
「。。。」
納得していない俺にいつもの常套句をイクエは言った。
沈黙をすることしか出来ない俺にイクエは呆れた顔をしながら、クラスを出ていった。
ゝ
「なんで着いてくるんだよ!」
「何か悪いことするの?」
「しねぇよ!」
「なら、居ても良いじゃない」
待ち合わせの場所に着くとそこにはシンジとイクエが既に待っており、喧嘩をしていた。
「なんで、姉ちゃんにバレてんだよ!」
俺の事を認識したシンジはイクエに指を指しながら不満の声を出している。
そりゃバレるだろ?と言う言葉を呑み込みながら苦笑いしているとイクエはため息を吐いた。
「一緒に住んでてバレないと思う方がおかしいわよ」
「っ!!!」
シンジはイクエの言葉にびっくりしている素振りを見せるが、イクエの発言には間違いがある。
シンジは馬鹿である。
馬鹿だから、基本的にしたい事を我慢出来ずに声に出してしまうのだ。
結果、シンジの行動範囲全域に渡りシンジの今日の予定は筒抜けになっている。
だから、正式には一緒に住んでなくてもシンジの行動は全員が知っている。
「はぁ。。。来るのは良いけど、姉ちゃん邪魔するなよ?」
「デートの?」
「ちげぇーし!!」
この姉弟は揃うとすぐに場所を問わずにコントを始めてしまう。
俺は止めることをせずに特等席でコントを見学することにした。
「でも、皆言ってるわよ?あの二人付き合ってるって。アンタがウケ?でコイツがセメ?かアンタがセメ?でコイツがウケ?で論争が起きてるわよ?」
「姉ちゃん。意味分かってる?」
「さぁ?何かのスポーツかしら?アンタ何もしてないのに不思議よね」
「。。。姉ちゃん。その人達と今すぐ縁を切ってくれ」
「なんで?」
イクエは意味が分からないと言う顔をしながら苦悩するシンジの顔を見つめていた。
一方、シンジは頭を大げさに抱えながら、イクエにどう説明すれば良いかを考えていた。
「お前からも姉ちゃんに何か言ってやってくれ!」
シンジは馬鹿なのである。
すぐに考えるのを止めて救いを俺に求めてきた。
「イクエ、その友達との付き合いは考えた方が良い」
「なんで?」
「友達が言うウケとは受け子でセメとは電話を掛ける奴の事を指しているんだ」
「えっ?」
「そうだ。友達は俺とシンジをオレオレ詐欺師だと吹聴しているんだ」
「そんな、アンタ達そんなことしてたの!?」
「していない。俺達の悪評を広めるつもりで根も葉も無い噂をしているんだ!」
「。。。まさか、真面目な子だと思ってたのに」
俺は心の中で本の少しだけその子達に申し訳ないと。。。いや、全く思わないな。
「じゃ。今日は何してるの?」
「青春を謳歌するんだよ」
「学校はこの時間は空いてないわよ?」
「学生の本分は勉強だが、テレビでも肝試しは学生が多いだろ?」
「。。。そうね?」
イクエは基本的に流行とか世間の流れに疎い。
そして、疎い事を知られていないと思っている。
だが、全員が当たり前のように知っていた。
イクエは良くも悪くも無垢なのだ。
「更に男子は肝試しを学生時代にしてないと、受験も就活も影響があるんだ」
「えっ!?」
「だから、俺とシンジは肝試しを企画したんだ。イクエも知っていたと思うけどな」
「しっ知ってたわよ。ただ、アンタ達を試していただけよ!」
イクエは取り繕うように言うと歩き出してしまった。
ここを集合場所にしている時点で目的地は分かっているんだろうから先に進んでこの話を有耶無耶にしようとしているのだろう。
シンジは目を丸くしながらヒソヒソと俺に訪ねてきた。
「なぁ。。。ウケとセメってそう言う意味だったのか?って今回の企画ってそんなに人生に関わることだったのか?」
シンジは馬鹿なのである。
俺はシンジに可哀想な子を見る目で見つめるとイクエの後を追い掛けた。
「なぁ。教えてくれよ」
俺はシンジの言葉を無視して目的地へと向かった。
〃
古いコテージを目の前にしてみると、迫力が違っていた。
「ここが噂の場所か。。。姉ちゃん!怖いだろうから手を繋いでやろうか?」
「えっ?嫌よ」
嫌悪感を顕にイクエはシンジの提案を即答で拒否していた。
シンジはイクエの反応に項垂れ、俺に視線を向けてきたが、俺は首を横に振ることで拒否の意思を示した。
「行かないの?」
いっこうに入ろうとしない俺達にイクエは不思議そうに声をかけてくる。
シンジは顔をあげると両手で頬を叩き、扉に手をかけた。
「よし!行くぞ!」
ガチャガチャとシンジは扉を開けようとしているが、扉は開くことなく、ガチャガチャと音だけを鳴らしている。
当たり前だが、古いコテージとは言え誰かの所有物であることは間違いないのだ。
となれば、自然と鍵が掛かっているのは誰でも考え付くのだが、シンジにもイクエにもそれが分かってなかった。
「あれ?あれ?」
「アンタ、扉も開けれないの?」
「いや、なんか開かなくて。。。」
「引いてダメなら押してみたら?」
「そうか!」
そうかではない。
鍵が掛かっているのだから開く訳がない。
「ダメだ!姉ちゃん、押しても引いても開かない。。。」
「アンタ!このままじゃ。将来大変な事になるわよ!」
「どうしよう姉ちゃん!」
「う~ん。。。あっ!引き戸!きっと引き戸なのよ!」
「さすが!姉ちゃん!」
明らかに引き戸ではない。
俺は笑いを堪えるのに苦労しながら、姉弟コントを楽しんでいた。
「。。。ダメだ!姉ちゃん!開かない!」
「う~ん。。。アンタ、力弱くなったんじゃない?」
「そんな事ねぇよ!」
「でも、こんな古いコテージに鍵なんてついてないのに開かないなんてアンタの力が弱くなったとしか。。。」
「そんな事ねぇよ!見てろよ!せーの!」
俺は目の前で扉を破壊されるのを声を殺して笑いながら見ていた。
「なによ。開いたじゃない」
「錆びて固くなってただけかもな」
鍵は無惨にも執拗なガチャガチャと馬鹿力で破壊され、扉も外れていた。
開いたではなく、ぶち破ったが正解なのだろうが俺は何も言わずに2人の誇らしげな表情を見守っていた。
々
「なんか、以外に普通のコテージね」
「そうだな。そんなに荒れても無いし、血の跡とかも無いしな」
姉弟は自分達が何を言っているのか分かって無いことを確信した俺は2人に聞こえるようにボソッと呟いた。
「ここ、誰か住んでるんじゃないか?」
「「えっ!?」」
2人同時に俺に顔を向けると扉の事を思い出したのだろう。
だんだんと顔から血の気が引いてきていた。
「ど、ど、どうしよう。姉ちゃん」
「おち、落ち着きなさい。壊したのはアナタ!」
「そんな!ひでぇよ。姉ちゃん!」
「とにかく!謝りに行きましょ!大丈夫、見捨てないわよ」
俺はそんな2人のやり取りを眺めながら近くのスイッチをカチカチ音を鳴らした。
「あー。2人ともここ誰も住んでないと思う。電気が来てないからな」
おどおどしていた2人の顔がみるみる明るくなっていく。
反省の色が全く見えないので、一応釘を指しておくことにした。
「でも、古いからって誰かの持ち物じゃないとは限らないからな?」
「「えっ!?」」
この姉弟はダメなのかも知れない。
俺は面白いからこのまま成長してほしいが。。。
ゞ
俺達はコテージの部屋を1つずつ回っていき、最後の1部屋を残すだけになった。
「最後の部屋だな。開けるぞ?」
「シンジ、この部屋は俺が開ける」
「???」
「シンジ。。。頼む」
「まぁ。。。良いけどさ」
シンジが扉から手を離すと俺の後ろに移動した。
俺の背中にはずっと脂汗が流れている。
結局、今回もシンジとイクエはここに来てしまった。
何度も帰れる機会は作った。
何度も逃げる機会は作った。
それでも今回もこの部屋でアイツの前に俺達は立つことになってしまう。
俺はゆっくりと扉を開けると、白いワンピース着たアイツはそこにいた。
シンジもイクエもアイツが人ではない何かであると察したのだろう。
身体を震わせ、身動きを取れないでいた。
「゛また゛来たのね?」
「。。。」
俺達は言葉を出せなかった。
圧倒的な存在感。
圧倒的な威圧感。
息をする事だけでも精一杯になるほどの存在を前に俺達は何も出来なかった。
アイツはゆっくりと俺達に近付くと、俺の顔に触れようとした。
「っ!来んじゃねぇ!」
シンジは俺を庇うように前に出るとアイツはシンジの頭を吹き飛ばした。
イクエはその光景を見て絶叫していたが、その声を黙らせるようにアイツはイクエの首の骨を折った。
「お友達はまた、死んだわね」
俺の頬を優しく撫でている。
「今回は扉を破壊されてイラついたからすぐに殺しちゃった」
優しい瞳が俺を見つめている。
「前回は扉の所まで逃げれたから、扉が無ければと思ったのかしら?」
俺は声を出せない。
「何度も繰り返し、繰り返し、繰り返しお友達の死を見続けるのよ」
俺が犯した過ちが2人を殺し続けてしまう。
「アナタは私を裏切ったのだから当然よね?」
俺は目をつむり、かつての姿を思い浮かべながら絞り出すように声を出した。
「。。。母さん」
「アナタさえ産まれなければ私は幸せに生きていれたのよ!だから、アナタの心が壊れるまで繰り返しなさい。何度も何度も何度も何度も何度も...」
俺の意識は薄れていく。
また、繰り返す友達の死を。。。
リピート
前日も後日も存在しない閉じた世界




