面倒で面白いもの
はい、不定期更新が戻ってきましよっと。
今回ちょっと長いです。8000文字くらいです。
「さて、いくら天渡が速いといっても大陸に渡るには少し時間がかかるな。お喋りでもしようか」
デルイト島からルールル大陸までおよそ2000kmだとか。イリス曰く。そう考えると確かに俺たちが今までいたデルイト島は絶海の孤島というに相応しいのだろう。
だからこそあの島で採れた薬草や鉱石なんかは高く売れるそうだ。
「でも、まずは何処に降り立つかだよね。竜の形態の天渡は大きいし目立つことは間違いない。かなり上空を飛んでもらって良さそうな場所で人型になって自由落下でいけるかな?今の僕たちなら」
「余裕ですね。私が浮遊の魔法をかけてもいいですし、降り立つ場所選びは私が天眼で決めさせてもらいます。天渡もそれでいいですか?」
イリスの言う天眼は千里眼、透視、読心、看破、などなど色々便利な能力の備わった天に連なる者が持つ特有の眼のことだ。天渡も持ってる。
『うん!それでいいよ!じゃあもっと高く飛ぶね!ミラ守護結界よろしくねぇー!!』
雲よりずっと高い位置を凄い速さで飛んでいるわけだが、ミラが守護結界を展開してくれているおかげで無風状態だ。寒くもない。ミラの守護結界は結界内の気温すら自由自在になったのだ。
「バー王国に行くのは既に決定済みだが、町か村かはたまた都市か。最初に行くところは未だに悩むな。いっそ人里に寄らずデルイト島と異なる自然というものを見て回るか。お前たちはどうしたい?」
『ねぇねまた言ってるのー?それは流れるままに成り行きに任せようって結論でたでしょー?』
む、むぅ。
「しかしだな、気になるではないか。お前だって何処が一番行ってみたいかくらいあるだろう?天渡」
「僕は人里に行きたいなー。自然なんて旅してりゃいくらでも味わえるし、正直飽きたよ。だから人里なんだけど、うーん、見た目エルフとしてはいきなり大きい町とか都市は情報集めてからでもいいかなとは思うよ。ま、穏便に済ませたい優しい僕の慈悲の心さ」
『ミラを変な目で見る奴は私が許さないよ!全部ぼこぼこにして埋めてやる!』
「ふふふ。私たちはなんて慈悲深いんでしょう。それはそうと主。今はいいですが人前では盾と剣を装備しておくと無用な争いは避けられるかもしれません。逆に面倒事が寄ってくる可能性もありますが、それは私たち四人が揃っている時点で同じことでしょう。快適な旅を送るため、威圧、よろしくお願いしますね?」
お、おう。そりゃ全身フルプレートで巨大な剣と盾もってる奴に喧嘩売る馬鹿はおらんわな。
俺は鎧で中身見えないが鎧の上から見てもわかるスタイルの良さだしイリスたち三人は言うまでもなく美人揃いだ。
俺に委縮してナンパ野郎が近づいてこなくなるなら喜んで防波堤になろう。
俺は任せとけと胸を叩く。
それからしばらく経って大陸が見えてくる。
「さて、良さそうな場所はどこでしょう。私の扱いのほうが優れているとはいえ天渡も天眼は持っているんですから一緒に探してくださいね」
『う~ん看破は得意なんだけどなぁ・・・・・・。いいとこいいとこ、おっ?なんか面白そうなの発見したよ!あっちの方角、見て見てイリス!」
面白そうなもの?天渡にとって面白そうなものか・・・・・・。判断はイリスに任せよう。
「どれどれ。はい、見ました。あの襲われてる貴族の馬車ですね?襲っているのは盗賊でしょうか、それにしては服装が統一されていますが」
お?助けに行くのか?貴族とか面倒臭いんだが。
まぁ天渡なら喜々として首を突っ込みたくなるわな。これは決定か。
「行くんだな?俺は別に構わんよ、天渡が楽しめるなら」
「僕もいいよ。守るのは僕の得意とするところだし、怪我人も救えるかもね。僕の慈悲深さを見せつけちゃおっかな。もう死んでる奴まで蘇らせるつもりはないけど」
『流石皆わかってる!ありがとね!もう現場の上空にいるから自由落下始めるよぉー!!』
さて、どれほどの手練れかな?
◇襲われた貴族令嬢の視点◇
「くっ、舐めるな!【ファイアウォール】!!【ファイアアロー】!!」
また賊だ。近頃街道を移動しているとよく襲撃に遭う。だから護衛は我が家の手練れの騎士を20名も連れていたというのに、こいつらはまたしても襲ってきた。
それに今回は本気ね。本気で私の命を奪おうと戦力を集めてきてる。
統一された装備、賊の練度、そしてこの数。計画的犯行なのは間違いない。一体どこの手の者?
心当たりが複数あって分からないわ。
それにしてもまずいわね、このままじゃ殺られる。
「あの魔道具さえどうにかできればっ!忌々しい!これじゃ初級魔法を使うのが精々よ!どうにかしてあれを――」
その時だった。
『スタッ!』(天渡)
「スタタっ!」(ミラ)
「ドッシンッ」(シノブ)
「・・・・」(イリス)
天から白銀の救いが現れた。
「いっちょやりますか。守護結界」
美しい白銀のエルフの女がそう唱えると、私や護衛、使用人から馬車にまで真っ白な光の膜が包み込む。
(これは、聖力による対象指定の結界?なんて器用な。いえ、それよりどうやって?今この場はあらゆる力を弱める『封力の魔道具』の効果で上手く力を練れないはずなのに)
しかし驚きはそれだけでは終わらなかった。
『ふふふふふ。私たちが君たちに世界の広さを教えてあげよう!どりゃっせーーい!!』
「生け捕りも必要ですね。雷でいきましょう」
「俺がやると全部殺しそうで怖いな。襲い掛かってくる勇気ある者にだけ相手をしてやろう」
賊の体が水を叩いたかのように弾けていく。ポニーテールの小さな真っ白い女の娘の仕業だと思う。速すぎて目で追えない。ただ賊が次々と弾けていく。
雷が飛び交う。槍を持った綺麗な女性の仕業だ。これは見える。だって槍を持ってただ突っ立っているだけなんですもの。彼女の持つ槍の先端から雷が放たれる。その雷に触れた賊は麻痺して動けないようだ。
白銀の騎士が佇む。大きな剣と盾を持って。明らかな強者に挑む者はいない。
そのまま賊はただ一人として逃走も許されず壊滅した。
あっという間だった。いきなり過ぎて私含め誰も反応できずに呆然とその様子を見ていた。
(はっ!しっかりしないと、まずはお礼よ。彼女たちが敵とは思いたくないし、なってほしくもない。ここは公爵家の令嬢として品のある丁寧な対応をとらなくては)
私は圧倒的強者に怯えと緊張を抱きながら言葉を発した。
◇シノブ視点に戻る◇
誰も来なかった。俺だけなにもしてない。この根性無しどもめ!・・・・・・はぁ。
ま、所詮は数に頼って襲ってくるような奴らだ。期待するだけ無駄ってもんか。
『よっわ!よっっわ!!全然楽しくないよぉ~消化不良だよぉ~ねぇね後で戦ってぇ~』
「なにを期待していたんですか天渡。天眼で見てこの者たちの実力が分からなかったのですか?力任せはあなたの美徳でもあり欠点でもありますよ」
「僕の張った守護結界も意味なかったね。でもここから怪我人癒して慈悲深いお姉さんを見せつけていくよ」
旅にでての初めての戦闘は、俺たちにとって戦闘というより作業に等しいものだった。
何か得たものがあるとすればこれから手に入るであろう情報か。
貴族に恩を売れただの報酬が期待できるだのは仮にそうだとしても俺たちの自由が侵されるのであれば全部台無しだ。
さてあちらさんはどんな対応をとってくるか。
「もし、よろしいでしょうか?此度は我らを救って頂いたこと、誠に感謝しております。私はバー王国が公爵令嬢。リーン=カイゼラフと申します。カイゼラフ公爵家の人間として、出来うる限りの謝礼を尽くさてせ頂きますわ」
黒髪ロングに吊り目の赤い瞳の15歳くらいの少女が話しかけてきた。しかし、ほう、公爵か。確か貴族で一番上の階級、だったか?この世界でもそうかは知らんが。
『(ねね、話しかけてきたよ。公爵だって。偉い人なのかな。何か貰う?)』
「(何かって何だい?当家の騎士にしてやるーとか言われても困るんだけど。無難にお金とか?)」
「(私たちはこの大陸にどんなものがあるのか知りませんからね。情報が足りません。まずは情報収集から始めるべきでしょう)」
「(貴族ってめんどーそーだよな。ああいうのなんて言うんだっけ、カーテシー?)」
身を寄せ合ってコソコソお話しする俺たち。天渡が面白そうという理由で乗り込んだはいいものの、その先のことなど考えていなかったのだ。
こういう時はイリスに任せる。俺、天渡、ミラ、三人の心は通じ合っていた。
イリスはやれやれという雰囲気で令嬢に向かって一歩踏み出す。
「私たちは『自由の白星』を名乗っている旅人です。といっても長い事森の中に籠って修行に明け暮れていたので世俗に疎く、森を出て旅をしようと思い立ったのもつい最近のことでして、分からないことが多いのです。お礼をして下さるというならたくさんお話を聞かせてください」
「自由の白星・・・・・・覚えましたわ。お名前は後程お聞かせくださいな。あなた方は私の命の恩人です。情報がお望みということでしたら当家にいらっしゃいませんこと?ご招待しますわ。当家にはたくさんの蔵書が御座いますの。丁度これから帰宅しようとしていたところですし。馬は殺されてしまいましたが、足の速い騎士を今近くの町まで走らせています。三日ほどで馬と追加の護衛を連れてくるはずですわ。待つ間にも色々お話できると思います。いかがでしょう?」
「そうですね。ではお招きに与るとします。ですが、これだけは最初に申しておきます。私たちは束縛を望みません。私たちは自由の為なら如何なるものにも刃を向ける。お忘れなきよう」
イリスのその言葉に、リーン令嬢一団は揃って息を呑むのであった。
◇
三日の間待つといっても左右を森に挟まれたここではゆっくり休めないということで怪力自慢の騎士によって馬車は開けた場所まで移動させられた。
なお、さきの襲撃で護衛騎士20名のうち12名が死亡。3名が重傷。5名が軽傷といった具合だ。
ミラの慈悲深いお姉さんアピールは既に終わって重傷の3名も軽傷の4名も今ではぴんぴんしている。
傷を癒すときのミラの顔や仕草はまさに聖女といった感じだったが明らかに切り替えた態度なのがバレバレだったので大いに感謝と驚愕こそされそれ以上はない。ミラはご立腹だ。
軽傷の残り1名は怪我の回復も回復薬で済ませ俺たちが喋っている間にリーン嬢に町まで送り出された。
使用人に怪我人はいなかった。もちろんリーン嬢にも怪我はなかった。
「それでは私とミラは馬車の中でリーン嬢とお話してきますので、天渡と主は好きにしていてください。でもくれぐれもやり過ぎないように」
そう言ってイリスたちは馬車の中に入っていった。広さ的には天渡も入れるのだが俺に付き合って、いや天渡の本音は俺で消化不良を発散したくて外に残っている。
『じゃ、やろっか、ねぇね!ほら構えて構えて!』
仕方なく俺は付き合ってやることにする。
盾と剣を近くに投げ捨てる。拳で勝負だ。ミラがいないと剣は危ないし、盾だけでは戦いにくい。
「久しぶりだな、こっちでやるのは」
『ねぇねがにぃにだった頃を思い出すね。格闘術が鈍ってないか、私が確かめたげる!!』
天渡が一直線に間合いを詰めて拳を振り上げてくる。これは天渡のお決まりの戦い方だ。だが流石に白炎は纏ってない。
俺はなるべく天渡の攻撃を受け止めるようにして拳を交えていく。天渡の気が済むようにしてやらんとな。
俺はかつて鍛えた格闘術を思い出すようにどんどんペースを上げていく。
ああ、懐かしい―――。
◇
「そこまでですよ、二人とも。もう日が暮れます。続きは明日にしてください。あとうるさかったですよ。ミラの防音結界で問題はありませんでしたが。地形はそんなに荒れてませんね、主が上手く受け止めていたのですね?流石です。明日もその調子でお願いしますね」
気づいたらこんな時間だ。天渡はこれしきじゃ満足しないだろうな。今までは全力で一ヶ月間ずっと戦闘を続けてきてこともあったんだし。これじゃ生ぬる過ぎる。
正直俺も消化不良になった。
『もうっ!これじゃいつまでたっても満足できないよ!!明日はちょっと遠出してきていい?いいよね!?』
「ダメです。破壊した自然を修復するのは私なんですから言うことを聞いてくださいね」
『う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛』
「ははは。僕もちょっと退屈。情報取集は大事だけどさぁ、お金だけ貰ってあとは町でって思っちゃうね」
「少しの辛抱です。楽しく旅する為ですよ。さ、今日の情報取集の成果を共有しましょう」
イリスとミラが集めてくれた情報で大事なのはこんなとこ。
・この世界のお金は硬貨で単位はベグと呼ばれる。
・1ベグ1円の認識でいい。
・硬貨は白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、鉄貨の八種類。
・鉄貨1ベグ、銅貨10ベグ、大銅貨100ベグ、銀貨1000ベグ、大銀貨一万ベグ、金貨十万ベグ、大金貨百万ベグ、白金貨千万ベグ。
・平民が使うのは大銀貨までが普通。金貨以上は貴族くらいに財がないとまず持たない。白金貨は侯爵以上の貴族が持つレベル。
・貴族は男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵とあり、その上に王族がいる。
・一日は24時間で週七日。一月三十日で一年は12ヶ月。
・バー王国にも四季はある。
・ここバー王国は亜人に対して差別意識はない。
・亜人、人族に問わず奴隷制度はある。だがない国もある。
・300年程前に魔王が復活し時を同じくして勇者も現れたが勇者は魔王を討伐せず人々を束ね亜人も人族も平等な自由国家なる国を建国した。奴隷制度がないのもここ。
・勇者は既に寿命で亡くなっている。
・この大陸の覇権はこの300年で勢いを増し続けるドワーフの国家が握っている。
・現在この大陸の西側に位置する聖王国が魔大陸からの侵略を受けている。
という感じ。因みにどうでもいい話では、
・リーン嬢を襲った賊は何とか公爵か、何とか伯爵か、何とかの悪い組織か、もしくはその全てかららしい。
・リーン嬢ら一行が苦戦していたのは賊の持つ封力の魔道具とかの所為らしい。
・リーン嬢の家は魔法の名家らしい。
・リーン嬢は現在バー王国の学園都市にある魔法学園の中等部に在籍しており今は夏休みで実家に帰省して町々を巡っていたらしい。貴族の勤めだとかなんとか。
・学園都市は楽しいところで腕の立つ護衛もいたらいいなと思ってるらしい。
こんな感じ。どうでもいいわ。
他にもイリスたちは色々と話を聞けたようだが俺はこれだけ覚えてあとは忘れた。
「しかし、300年前この世界に転移してくるとき《管理者》に聞いた話では奴隷制度はなかったはず。勇者が国を興していたのにも驚いたが俺たち転移者がこの世界に齎した変化は大きいのかもな」
現在大陸の覇権を握っているというドワーフの国家、これも時期からして転移者が関わっている可能性は大きい。
『私はそんなのどうでもいいよ、楽しくやれれば。楽しくやれないなら楽しくするまでだしね』
「僕たちは『自由の白星』だからね」
そう、自由。そのために300年間力をつけてきた。もちろんそれすらも楽しかったのだが。
「とりあえず情報共有は済みましたね。あぁ、それと私たちの個人の名前ですが既に私のほうから伝えておきましたので。主が普段鎧を脱がないことも含めて」
そういえば自由の白星とはイリスが名乗ったが個人名は名乗ってなかったな。そんなに深く関わるつもりもなかったし。
とここでメイド服のメイドさんが寄ってくる。
「皆様、お食事の準備が整いました。よろしければ一緒にどうかとお嬢様が申しております」
食事か。食べることにそこまで興味がない。食べなくても生きていける体だから尚更に。
唯一食事が必要だったミラも今はイリスの作る天の実で100年に一回それを食べれば平気になっている。
俺たちの中で食事を娯楽と感じる奴はいない。三度の飯より戦闘が俺たちの日常だった。天渡だけが戦闘狂というわけではないのだ。ぶっちぎりで戦闘狂なのは天渡だが。
『(どうするの?)』
「(僕は食べるなら天の実がいいな)」
「(俺は食事は面倒としか・・・・・・)」
「(食事の席でも得られる情報はあります。今度は全員でいきますよ。食べなくてもいいですから)」
まぁ、そういうことなら。
「ではご馳走になります」
「承知致しました。それではお嬢様のもとまでご案内致します」
メイドさんのあとを四人揃ってついていく。どうやら屋外での食事らしい。馬車は俺が入らないからと気を使ったのだろう。
リーン嬢が立って出迎えてくれている。そのそばのテーブルにはパンにシチューに何かのお肉、それから飲み物として果実水が置いてある。俺たちが来ることが当たり前のように5人分、用意されている。
「お待ちしておりましたわ、イリス様、ミラ様、天渡様、シノブ様。こんなところでは大した食事もお出しできませんがどうぞ召し上がって下さい。ささ、冷めぬうちに」
リーン嬢を正面にその対面がイリス、ミラ。右側に天渡。左側に俺と座る。
「それではご自由にたくさんおかわりして下さいませ」
そう言ってリーン嬢は俺たちを見る。見続ける。……これもしかして俺たちが食べだすの待ってる?
イリスが気づいてパンを口に運ぶ。残りの俺たち三人は動かない。
なんかリーン嬢が冷や汗流してるけど食べる気わかないから構わず食べて。
「リーン嬢、私たちはなにもこの食事が不満で手を付けないわけではありません。ただ食事という行為をもともとしてこなかっただけですので、リーン嬢はお構いなくお食べになって下さい。冷めますよ?」
「食事をせずとも生きていけるのですか?では夕食を共にというのはイリス様方にとって面倒なお誘いでしたか、申し訳ございません。せめて就寝まで目一杯お話させて頂きますわ。少しでも有益な情報を提供できたら良いのですけど」
結局食べるのはイリスとリーン嬢だけ。イリスはリーン嬢が食べやすいように気を使って食べているのだろう。だがリーン嬢は食べながらもお話をしてくれる。それだけで俺たちとしてはここにいる意味がある。そう、食べてるのも話してるのもイリスとリーン嬢だけで俺たち三人は置物に見えていたとしてだ。してもなのだ。
そんなこんなで三日が経ち追加の馬と護衛がやってきた。
「リーン様、ただいま戻りました。ガンの町から追加の馬を8頭と町の衛兵30を連れてまいりました」
「ご苦労様。二時間休憩したら出発します。各員に伝えなさい」
「はっ」
こういうところを見るとリーン嬢も貴族だなと感じる。不快に思うとかはないが。俺たちには関係ないし。
しかし大分減ったがもともとの護衛の騎士たちは無駄にプライドが高いとかはなかった。俺と天渡のお遊びを凄く真剣な顔でずっと見てたが、その様子からは向上心が窺えた。賊に仲間をたくさん殺されて悔しいのかもしれない。お遊び程度しか見せられなかったのが申し訳なくなってきたな。
そんな騎士たちを抱えるカイゼラフ公爵家は悪徳貴族ではなさそうだ。よかった潰すことにならなくて。賊の方が実は正義でしたなんてことだったら「てへぺろ☆(・ω<)」を発動していた。
「それではイリス様、出発になりましたら我が公爵家の治める領都まで共に馬車の中でお寛ぎ下さいませ。ただ、その、シノブ様の盾と剣は入りきらないので荷馬車に積むことになるのですが、よろしいでしょうか?」
よろしいわけないだろ、悪徳貴族め。殺る?殺っちゃうか?
剣の柄に手を当てる。今更顔を青くしたって遅いぞ、お前は俺の逆鱗に触れたのだ、リーン=カイゼラフ。
「いっ、いえ!申し訳ありません!シノブ様!もう何日か頂ければ追加で大きな馬車を―――」
「その必要はありませんよ、リーン嬢。我が主ももとより馬車に乗る気などないのですからこんなことで怒らないでください。冗談が過ぎますよ、こんなに怯えさせて……全くもう」
「これくらい平気かと思ったが随分小心者だな。確かにこの冗談はきつかったか!ははは。すまんすまん許せ」
「え?じょう……だん……?お、驚かせないでくださいまし、今度こそ命はないと思いましたわ。シノブ様は『自由の白星』の皆様の中でも一番強そうに見えるのですから」
「俺が一番強いかどうかは置いといて、騎士さん方、そんなに警戒しなさんな。本気じゃないからよ」
完全にはな。
「ははは、シノブ殿が剣を握ると威圧感が凄まじいですな」
「天渡殿との模擬戦も拳でしたし」
「死を覚悟しましたぞ」
「我らでは敵うわけもないですからな」
ははは、と乾いた笑いを揃ってだす護衛の騎士たち。がちがちに固いな。ここは安心させてやるか。
「安心しろ、盾も剣も収納できる、この通りな。だから荷馬車に積むなんて言われたって別の解決策があるんだから本気で怒ったりしねぇよ」
そう言って盾と剣の収納を実演して見せる。
「「「…………」」」
何故青ざめたり呆然としたり絶望を露わにするんだ?意味が分からん。
『不思議だねぇ、ねぇね』
「ああ、不思議だ」
天渡も疑問に思ったらしい。これはあれだな、情報不足だ。イリスに期待しよう。そのうちこの反応の意味もわかるだろう。
「はぁ……」
何故かイリスからため息が聞こえた気がしたが、スルーしてその後休憩を終えて出発した。
なお、馬車はリーン嬢の他にイリスとミラ、それからリーン嬢御付きのメイド二人が乗り、俺と天渡は馬も使わず徒歩で談笑しながら進んだ。
そうしてガンの町が見えてきたのだった。
(`・ω・´)(`・ω・´)