そうして変化は訪れる
かつてゲーム好きだった少年は一転して読書好きとなった。
もうゲームをしなくなってどれだけ経ったろう......。
7/11(月) 繰り返し文章になっていたのを修正しました。
気分一新今日も元気にいきましょう。
というわけで神器作成の翌日から既に激闘を繰り広げています。
「ふはははは!軽い!遅い!脆い!それでは今の俺は止められんぞ!今日こそは俺の初勝利で終わるかもな!神器とはただの物事の行程を早めるだけのものと思っていたが、認識が甘かった!剣は斬るもの!盾は守るもの!それぞれの分野に特化した道具というのは扱えればこれほど頼もしいものもない!常識すぎて理解が及ばなかったか!ふはははは!言っておくが俺は神力を解放などしてはおらんぞぉ!」
今までの戦闘訓練が逃走・防御の後ろ向きな内容だったのに対し、今回は迎撃・攻めの前向きな内容になっている。
【竜鎧テンキス】のおかげか、身が軽い。鎧なのだから重くなって鈍足になるものとばかり思っていたがこれは混ぜ込んだ天渡の鱗のおかげか?とにかく今の俺は速い。そう簡単には捕縛されんよ。
【守護盾ミラーネット】は盾としての役目をしっかりと果たしてくれている。天渡の自慢の攻撃も、時々くるイリスの奇襲もこれがあれば恐れるにたらん。一撃一撃の攻撃に重さを感じない。軽すぎる。
【栄光剣ミカエル】は斬るという剣の真髄こそ果たせないものの、ミラの守護結界に叩きつければその衝撃で天渡とイリスは俺との距離が開きなかなかいつもの二人の連携コンボが決まらい。ミラの守護結界無しに今の俺の攻撃を喰らいたくないというのもそれに拍車をかけているんだろう。
『むぅ!にぃに調子に乗ってぇ!!見てろーー!!ミラ!イリス!あれやるよ!!』
あれ?なにか知らんがそう旨い話があるものか。はったりだ!!このまま攻めて、今日こそ勝つっ!!
「わかりました。あれ、ですね。天狗になった我が主にお仕置きです」
「僕はいつでもいけるよー。このまま終わると思うなよ?シ・ノ・ブ」
なんだ?ほんとに何かあるのか?いや今の自分と神器を信じろ!このまま押し切る!!
「聖域展開。天渡とイリスに、勝利の祝福を!」
空気が変わった。だが俺に変化はない、天渡とイリスを対象にしたバフか?一体どれだけの強化がはいった?
「流石に神力で身を固めている主には聖域による敵対認定の能力低下まではかかりませんか。でもこれなら!天具解放!天槍ルペリオよ、敵を穿て!天技ルーペリオン!!」
敵対認定の能力低下?それも聖域の力に含まれてたのか?ってイリスお前なんだそれ!?俺そんなの知らないぞ!!
イリスの槍が穂先に巨大な白銀の刃を生じさせた。避け......られない!?空間が歪んでるのか?ここは盾で、ぐぅ!!重い!!槍をどかせられない、地面に縫い留められた!!
『舐めてるからだよにぃに!集中集中集中集中!!!一点集中限界突破っ!極・白炎拳!!』
今俺は動けない!そこにきてなんだあの膨大なエネルギーの塊は!?それで俺に殴りつけるつもりか!?耐えられるよな?生存に特化してる俺なら耐えられるはずだ。だが......負けだな。舐めてたよ。天渡、お前の言う通りだ。
予想以上の力を発揮する神器に浮かれて気づかなかった。お前たち女性陣が神器の力を甘く見積もるはずがない。敗北の可能性を否定するはずがない。そして敗北を受け入れるはずもない。なかったのだ。
「気づかなかった俺の負け......いや、敗北を受け入れていた俺の負けか」
度重なる戦闘訓練での敗北、その果てに俺の中に生じた想いは、如何にどれだけ耐えきるか。
勝利など既に求めなくなっていたのだ。
天渡の拳に宿る膨大なエネルギーの塊が、最後の抵抗と突き出した俺の腕に激突し、俺は大きく跳ねて地面を転がった。
「さて、主。少々大人げないとは思いましたが、これが私たち三人の今の実力、本気です。神器を手にした主に対抗するには、私たちにも新たな力が必要と判断しました。私は主に勝利を知ってほしい、でも決して天狗になってほしくはなかったんです。主、勝利の可能性は見えましたか?戦いに絶対はないと、気づいて頂けましたか?」
地面に寝転がったまま空を見ていた。イリスが話しかけてくる。
戦いに絶対はない。それは絶対の勝利も絶対の敗北もないと言いたいんだろう。
「神力のコントロールにはイメージが重要です。主に、安易な決めつけで出来ることを狭めてほしくはありません」
神力のコントロールの訓練を始めて、最初にイメージが肝心と教えてくれたのは誰だったか。ドラゴン君だったかイリスだったか......どちらにせよその教えは間違いではないはずだ。
これじゃ強くなったのか弱くなったのかわからんな。
『にぃにってさ。自信が持てることには揺るがないけど、自信の持てないことには盲目だよね。にぃにはもっと自分をアピールして、周りを巻き込んじゃっていいと思うな』
「僕がちゃんと支えてあげるよ?天渡やイリスだってそうだ。僕たちが信じられないかい?シノブ」
......それを言いたくて、今まで俺に気付かれないように新技の練習してたのか?俺と別行動の時間なんて、女性陣で湖に水浴びするときくらいしかなかったろうに。
「俺も不器用ならお前らも一緒だよ。次は負けんから覚悟しておけ」
三人の新技には驚かされたし強力であることは認めよう。
だがもう手の内は分かった。まだ何か隠しているかもしれないが、先ほど見たものはしっかり俺の警戒心に刻まれている。
これからだ。あと150年、この島で修行して切磋琢磨していくさ。
「旅に出ても困らないくらいには実力を上げておかないとな」
『あ、それなんだけどさ。にぃに、女にならない?』
......今こいつなんつった?よくわからなかった。
「あ、それは僕も賛成かな。男のシノブもかっこいいんだけどさ、神器を纏って傲慢になられると悪役っぽいっていうか」
あ、悪役?傲慢というのは調子の乗ったセリフを叫びながら襲い掛かっていた時のことか?そういわれると確かに悪者っぽく思えるが、それで女になれって......。
「私の忠誠は主が男であろうと女であろうと揺るぎません。ですからこれはイメージ的な話ですが、いざ私たち四人で旅にでて、主一人だけ図体の大きい男というのも、浮いてしまうというか、なんといいますか。女であれば問題にならなかったり、すぐ解決できることもありますし。えっとつまりは」
『もうっ!イリスも素直じゃないなぁ~。はっきり言っちゃおうよ?私たちは『自由の白星』。イメージカラーは白。その構成は見目麗しい美人揃いのほうが映えるってね!』
ぶっちゃけたなこいつ。でもわかる気もする。
実際問題、出来るか出来ないかでいえば出来る。神力は万能の力を秘めている。
「でも口調や仕草まで女になりきるのはちょっとキツイぞ?見た目は鎧の中まで真っ白にできるが」
「僕としてはそこまで完璧に女になられても困るよ。ちょっとは今の君を残しておかないとね。恋する乙女はとても悩んでいるのです。くふふ」
揶揄しやがって、ミラめ。本当に俺に恋してるかどうかも謎だし、女になったら百合百合になるんだが?
『というわけで第一回!にぃに、ねぇねに変貌会議ぃぃぃ!!議長は私、天渡が務めるよ!!皆でどんなキャラ設定の超絶美人にするか決めよう!!』
またこいつは唐突に......。
「男口調は残してとなると、がさつでワイルドな姉貴系でしょうか?」
「モデル体型で長身。これは外せないね」
『あえてギャップ萌えを狙って普段は鎧を脱がないミステリアス。けど兜を取ったらそこには前髪で目元を隠したロングストレートの文系美女!ってのはどうよ?』
「見た目だけの文系美女ですね。口調や仕草は男なんですし。だからこそのギャップ萌えですか、いいかもしれませんね」
「なら前髪で隠れた目はふとした拍子にチラっと見えて獲物を狙う獣の眼、だったりしたらドキッとするね」
『いいっ!完璧だよぉ~。私がそのポジションなりたいくらい!!』
「では」
「これで」
『いこう!』
俺は空気。議題の中心なのに空気。こういうのに男の俺は混ざれない。女も悪くないか......。
勝手に決まった俺の女性バージョン。神力を使って早速なってみる。
「『「おおおぉぉ」』」
女になった俺であった。
「動きにくいな。慣れるまで暫くかかりそうだ。声もちゃんと女だな......。神器のサイズも自動調整か。楽しくなってきた!」
だんだんわくわくしだす自分がいる。
あぁ、旅の日が楽しみだ......。
◇シノブ女体化から150年◇
今日は旅立ちの日。長く世話になったこのデルイト島ともお別れだ。
旅の資金として金になりそうな木の実や薬草、鉱石などを集めて俺とイリスの収納の天具にしまってある。
戦闘訓練も続けてきたしこの女の身体には十分慣れた。流石に150年もこれで過ごしていればな。今では男の身体に戻った時の方があたふたする事だろう。
いくつかまた新たに覚えた技もあるし、世界がどれだけ過酷でもこの四人ならなんとかできそうな自信がある。
「300年だ。これほどの時を俗世に関わらず生きるとは《管理者》も以外に思っているかもな」
「私たちは長寿ですが他の転移者にはそうでない者もいたでしょうしね。《精霊使い》とか《歌姫》とか《勇者》とか。......そういえば《勇者》は《魔王》を倒したのでしょうか?転移者同士仲良くする道を選んだのでしょうか?」
『よくある物語だと勇者は仲間と共に魔王を倒すってのが王道だしね。でも一番仲間になりそうな《聖女》がここにいるんだけどねぇ。もし魔王が生きてて悪い奴で勇者が既に死んでたら、魔王を倒すのは私たちの役目になるのかな?なんちゃって!』
「縁起でもないこと言わないでほしいな。僕は確かに《聖女》だけど、《勇者》か天に仕える一派かどちらを選ぶかはルート分岐があったんだよ、きっと。僕はシノブたちを選んだ。《管理者》が言ったんだ、この世界で自由にしていいって。世界なんて僕しーらない」
そういえば《管理者》はそんなことも言ってたな。もう随分前のことだから忘れてしまった。
「しかし既に死んでる転移者がいるかどうか決めつけるのは早計かもしれないぞ?長い時間一緒にいて忘れがちだが、《聖女》のミラはハイエルフだ。聖女がハイエルフという物語はあまり聞いたことがないな。案外《勇者》も長命な種族、アンデットなんてこともあるかもな。ははは」
『アンデットの勇者?魔王と手を組んでそう。そうなってたら世界は旅しても面白いものないかもね』
「魔王と勇者を倒すとこから僕たちのゲームが始まるわけだ。それなんてクソゲー?チュートリアル長すぎだよ、クレーム殺到間違いなしだ」
少しの間懐かしき前の世界のゲームの話で盛り上がる俺たち。
といっても俺たち皆ゲームなんてテレビのCMで見る程度でそんなに詳しくないのですぐにこの話は終わった。
「それでは行きましょうか。向かうは人族と亜人族の国々で形成されたルールル大陸。そのここから南に真っ直ぐ進んだ先にある人族の国、バー王国です。バー王国は人種に寛容な国と聞いていますからミラも安心ですね。もしこの300年で変わっていたらその時は自由にやりましょう」
自然と口元が歪む俺たち。穏便に済ませられることを祈ろう。
『それじゃ皆私の背に乗ってねー!海の横断なんてつまらないものは超特急で済ませるよ!!』
久しぶりに見た天渡の《天竜》の姿。その背に俺、イリス、ミラと乗る。
『では、いざ、冒険へ!!』
異世界に来て300年、ようやく俺たちの旅が始まる。
◇――とある竜の一言――◇
『我は空気......。空気竜なり......』
(`・ω・´)