編入試験
◇『自由の白星』天渡の視点◇
『やばいよやばいよ……』
にぃにに逃げられた。このままじゃまずい、私の生死に関わる問題だよこれは。
事の発端はイリスの子供体型をつい口走ってしまったこと。別に悪口とかじゃないんだけどイリスが気にしてることだから私たちみんな話題に出さなかったのに、にぃにが話をふるから……!
イリスと念話で話したときの最後の言葉、あれは確実にばれてる。イリスは私とにぃにをここでコロスつもりなんだぁ……!?
『………見つけなきゃ……私一人でイリスの制裁を受けるのは間違ってる。そうだよ、まだ時間はあるんだからなんとか探し出して……』
でもどうやって?にぃには多分もうばれない体を作り上げてる。手掛かりはにぃにが編入試験を受けることと悪党として活動するということ。
編入試験に張り込むか?それとも悪党の情報を集める?決まってる、両方だ。
『共犯者を裏切ったなァにぃにィ!この報いは必ず(イリスが)受けさせてくれるゥ!』
ならばすぐにでも行動を開始するぞぉ!
「もしもし君、今事情聴取されてる最中だって自覚ある?」
『ただ叫びながら空飛んでただけじゃん!だしてー!ここだしてー!』
「叫んでる内容がちょっとね……。じゃあまずは名前から――」
くそぅっ!なんでこの世界こんなとこで地球みたいなことするのっ?私は闘技場のチャンピオンだぞーーーっ!
「自分を闘技大会優勝者と嘘の証言をしており、と……」
『ただ願望が漏れちゃっただけじゃん!うわーん!にぃに助けてー!!』
◇シノブ視点に戻る◇
「お?」
今なんか天渡の助けを求める声が聞こえたようなきがしたがあいつ何やってんだ?ちょっと今やってる用事終わらせたら見に行くかね。
「次!カラク!前へ!」
「あ、はーい」
ちょうど俺の番がきたようだな。パパっと終わらせちまおうかね。
俺は大股でずんずんと水晶の前まで進む。この水晶は魔力の質(属性)と総量をランク付けして測定してくれる魔道具らしい。ここで一定の評価を叩き出せなければ先の試験には進めない。
そう、俺は今、魔法学園高等部の編入試験を受けに来ていた。
え?小鳥はどうしたのかって?シロピーなら今頃ユラメラの部屋でぐっすり寝てるよ。三種の神器がシロピーの姿を形作ってくれてるだけだからなにも話せないが、宿る神力で体温は誤魔化せるから死んだ扱いにはならないだろう。多分。そうであってくれ。
「君、緊張するのはわかるが早くしないか。後がつかえてるんだ」
おっと考え事してたら手が止まってた。大丈夫、この体の設定諸々準備は完了してる。火属性のチャラ男、秀でた能力はない。しかし頭のバンダナをとると実は――!?そんな感じでいくぜ。
そっ、と水晶に手を触れると、色は赤く、中に見える文字はC。これは火属性の魔力総量Cを表している。計画通りだ。
「ふむ、いいだろう。奥へ進みなさい」
「あざー」
試験官の言葉を受けて会場を奥に進む。調べた限りではこの先に待つは実技。これもほどほどに済ませれば合格はするだろう。この編入試験は減った生徒の穴埋め目的らしいからそこそこやれればいいのだ。
実技の試験会場に入ると、既に一次試験を突破した受験生が10人ほどいた。そして今も試験官と戦う少女が一人。なかなか熱いバトルを繰り広げているようだ。
とりあえず列に並ぶと何やら隣の少年が話しかけてきた。
「な、あの試験官の女、めっちゃ可愛くないか!?」
いきなり話しかけてきてド直球な奴だな。出会いか?出会いが欲しいのか?なら反対側の女の子に話しかけろよ……。
そうは思っても言わぬが花。俺はできる男だ。
「出会いが欲しいのか?なら反対側の女の子に」
「ふぅんっ!」
「ぐあっはぁっ!?」
何故殴った!?いや思ってたこと言っちゃった俺の口も悪いけど!何故殴る!?
「て、てめぇ。なんのつもりだ?」
「なんの……つもりだと……!?」
男は心底悔しいと言わんばかりに拳を握る。反対側の女の子は関わりたくないと距離をおく。そして男は言った。
「俺はっ!一目見てお前は話の通じる仲間だと……信じてた……っ!!」
「知るかボケ」
なんだこいつ、キャラが濃いな。関わらないでおこう。
俺はすっ、と立ち上がり前を向く。こんなバカより試験官と戦うあの少女を見てたほうが100倍有意義だ。横でまだ何か熱く語ってる男がいるが、俺の視線はもう目の前の戦いに集中していた。
(試験官はもちろん手加減しているが、あの少女も弱くはないのだろうな……)
金髪の活発そうなその少女は、手に持った2本の短剣に雷を宿して縦横無尽に斬りかかる。ここは魔法学園だが、あういう戦い方もOKなのだろう。そして対する試験官はというと――
「な?可愛いだろあの試験官。無気力そうなあの目と揺れるおっぱ――」
「ふぅんっ!」
「ぐべばらぁっ!?」
黙ってみてりゃいいものを、こいつは喋り過ぎた……。ちょっと強く殴っちまったが、まあこの程度なら大丈夫だろう。俺の本気パンチを喰らう前に失せな……。
「へへっ、お互い拳で語り合う、もう俺たち友達だな」
「殺すぞ」
なんでこんなバカと友達にならなきゃならん。それならミジンコと話してるほうがマシだ。
男は「へへっ、照れてやがる」とか言って熱い視線を送ってくる。もうこいつの中では俺はマブダチ扱いらしい。夜道に気をつけろ。
しかもこんなバカに構ってる間に戦いは終了していた。どうやらあの受験生の少女は合格らしい、おめでとう。
その後はサクサクと進んでいった。特に目立った実力の受験生もいないようで、前の人が次々と試験官に倒されて合格したり不合格したり。横にいた男は姿を消すという珍しい魔法を使ったが秒殺されていた。「へへっ、全然揺れなかったぜ……」とか言ってたしもう死んでいいと思う。
そして俺の番。今までの戦いを見る限りそこそこ善戦できれば合格は間違いない。火属性で高火力をぶつければそれっぽくはなるか……。
そんな打算のもと構えると
「……君、強いね」
ぼそっ、と試験官の女が呟いた。
強い?まだなにもしていない段階でなにをそんな……
「……ここ、魔法学園。……騎士学園、あっち」
その言葉で俺は察した。ははぁーんつまり、構えの段階で只者じゃないとわかってしまったと。ついいつもの癖で格闘の構えをとってしまったが、確かに300年修行した身としては強く見えて当然か。
「ああ、お気になさらず、俺は魔法使いですので」
もうこう言うしかない。ていうか格闘ができる編入生ってあいつらに凄く注目されそうだが、もう一回別の体つくって受験しなおそうかな……でもそろそろ時間が……。
一向に戦う気のない試験官を前に頭を悩ませていると
「……合格」
という言葉を貰った。
「いいんすか?」
「……死にたくない」
殺すつもりはないんだが。でも合格らしいので俺は気にせず前に進んだ。
彼女の横を通り抜けるとき――
「……何者?」
という問いを投げかけられたが、俺はそれに答えず立ち去った。
かくして、カラクという男は魔法学園に編入を果たす。こうして学園を荒らす気満々の悪党が、潜入に成功したのだった。
◇天渡視点◇
「企んでること全部話さねーと、家に帰れねーぞ!かつ丼やるからゲロっちまえ!」
『もぐもぐ、足りないね!私に話させたかったら、もぐもぐ、あと5杯は持ってきな!もぐもぐ』
「いい食べっぷりだ嬢ちゃん!そのまま食べてゲロっちまえよ!かつ丼追加ァ!」
『もぐもぐもぐもぐ……久しぶりのかつ丼美味しい……もぐもぐ……』
あれ?なにか忘れてる?
もっとコメディー書きたいです。やっぱり『自由の白星』フルメンバー揃わないとダメですね。しばらくコメディーお休みかも……




