自由の道
「「「「『リーン嬢の学園?』」」」」
にっこり笑顔のリーン嬢からでてきたこの提案。俺たちはすぐに察する。
「(貴重な戦力をここで手放してなるものかという強い欲を感じる)」
『(完全に私たちを舐めてるね。アホの子だと思ってる目だよあれは)』
「(汚い、流石貴族汚い)」
「(皆の者、ここは私に任せてください。私たちから自由を奪おうなどあってはならないことです)」
「(は、話くらい聞いてやってもいいんじゃ?リーン嬢は悪い奴じゃねぇぞきっと)」
俺たちの意見は一致した。とりあえずルプスは脇腹をくすぐっておく。
「あひゃひゃひゃひゃ……や、やめろ……!」
『自由の白星』満場一致でルプスをくすぐりの刑に処したが、確かに新参のルプスにこれだけやって何も言わないのでは成長も期待できないか……よし、ここはいっちょ俺が。
「ルゥプスゥ、てめぇはまだ入りたての新参……ここは先輩である俺たちに任せてオネンネしてなぁ……」
「まだそのねっとりムーブ続けるのか……?ちょっとリーン嬢のほう見てみろ、ゴミを見る目だ。面構えが違う」
シノブ、息絶えたり……。
『デカい顔するのはまずこのアタシに勝ってからにしなぁ……いいね?』
「ミラと2人がかりでオレにやられたの忘れたのか?」
天渡、息絶えたり……。
「ふっ、2人を倒したくらいでいい気になるなよ。奴らは四天王のなかでも最弱……」
「4人中2人が最弱ってもうその四天王いらなくね?てかミラも過去にオレに倒されてるし4人中3人がクソ雑魚ってことになるぞ?なんの四天王だ?クソ雑魚四天王か?」
ミラ、息絶えだり……。
「この3人を殺るとはなかなかやりますね。ですがこの私を舐めないことです。私は、この3人とは違う」
「今ナチュラルに自分の主ディスったな」
イリス、息絶えたり……。
「お見事ですわ、ルプス様」
残る屍と勝者2人。地面に倒れ伏す屍4つはその目になにを見るのか……。
「この『自由の白星』の仲の良さは見ててとても羨ましいですわ。入りたてのルプス様でさえこうして対等にやり取りができる。やはり皆様方になら、是非わたくしの通うルンベス魔法学園に来ていただきたいですわ」
リーン嬢が話を真面目な方向に戻してくれたので、屍4つが動き出す。
「シノブが復活した!さて、まずは俺たちがそのルンベス魔法学園とやらに行くことでどうやって目標を叶えることに繋がるのか、そこから話して貰おうか」
「もちろんですわ。まずルンベス魔法学園はここバー王国の学園都市にある魔法を学ぶための教育機関です。ここバー王国には人種差別がないので、エルフも獣人も能ある者なら種族問わずやってきますわ」
ふむ、まずはここでミラの目標は達成、か。学園にわざわざ来るようなら表向きだけの差別なしではないのだろう。そこはミラにとっても安心か。
『天渡が復活した!でもそこからどうやって私の希望を叶えるの?勘違いしてもらっちゃ困るんだけど、一言に闘技場って言っても学生のお遊びで満足するような玉じゃないよ私は?』
「そこも安心してください。学園都市で開かれる闘技大会は各国の首脳も来賓する一大イベント。成長を確認するだけの学生部門から、優勝すれば富と名声は思いのままの無差別部門。無差別部門は学生でなくとも、この国の者でなくとも参加可能ですわ」
ふむ、天渡の目標を叶える土台は十分そこで用意できる、か。各国の首脳ってのが優勝するなりいい成績を残した天渡をしつこく勧誘してきそうだが、そこは俺たちのお手並み拝見か。
あと残すはイリスの願いのみ。だがこればかりは明確な目的地があるだけにどうにも……
「イリスが、復活しました……ん゛ン゛っ!それで私の要求とはどう繋がるのですか?最初に言っておきますと、私はこの段階でも学園都市に行くのはいいと思っています。ミラと天渡、2人の願いを叶えられる場所ということに間違いはなさそうですから。ですが、最初のリーン嬢の口ぶりからして、期待してもいいのですよね?」
恥ずかしがりながらも俺たちのおふざけにノッテくれるイリス大好きだ。そもそもルプス口撃の段階で普段なら諫める立場に回る奴なんだよなぁ。ルプス歓迎会に協力してくれたって思おう。
だが、そんなイリスの願いだけ無視するようなら、ちょっと学園都市も考えなければならない。もちろんいつか行くことにはなりそうだが、時間的にいって学園と戦争、どっちの優先度が高いかっていったら考えるまでもない。
さて、リーン嬢の答えは……
「実は学園都市、というか聖王国と同盟を結んでいる国は全て、魔大陸との戦争に助力するべく実戦経験という体で援軍に向かうことになっています。期限も一年ほどで、その実態は安全地帯での案山子と変わりませんが、実力と信頼があればもっと深いところまで行くことも……ね?」
つまりリーン嬢はこう言いたいのだろう。今の俺たちは実力はあっても信頼がない。冒険者ギルドはそもそもが野蛮な奴も多いから当てにできない。そこで身元保証人になれるのがバー王国で公爵の地位に位置するカイゼラフ家の娘である自分しかいない、と。
まったく貴族ってのは強かすぎて困る。リーン嬢なんてまだ十やそこらだろう?いやはや嫌な世界だねぇ。でも、
「私の望むところをしっかりと理解したうえでの提案。お見事です、リーン嬢。あなたは私たちの心を掴むに成功した。主、天渡、ミラ、ルプス、総意を確認しましょう。賛成の者」
リーン嬢について学園都市に向かう。そこでなにをやらされるのかはわからないが、リーン嬢に世話になるのは確定だな。そこは利用し利用される関係、か。
まあ考えるまでもなく答えは決まってるんだがな。天渡、ミラ、イリス、3人の願いが叶うこのチャンスを逃す手はない。
すっ、と上がった手は5本。一人が2本あげてるなんてこともない。
「決まりですね。では『自由の白星』のこれからの予定を確認します。まずはカイゼラフ公爵家で情報収集、そこからリーン嬢について学園都市へ、異種族に触れつつ闘技大会へ出場、そして――」
イリスは一度言葉を溜め、吐き出す準備をする。今まで俺といられればそれでいいと言ってきたイリスの、やっとでてきた目標。確かに他のメンツと比べると若干ヘビーだが、そこに文句を言う奴はここにはいない。
『自由の白星』は一人の自由にみんなで協力する。その自由の中に、楽しみを見出すんだ。
俺たちみんな笑顔でイリスの言葉を待つ。臆することはない、それがイリスの自由なのだから。
「――闘技大会で実力を示しつつ、聖王国で魔大陸と戦うための土台を作り上げます。魔族と争う以上、いつかは魔王とぶつかるかもしれません。事の次第によっては外鬼とも。ですがそれが私たちの『自由』。いくとこまでいってしまいましょう!」
「「「『おーーー!!』」」」
予定が決まった。成り行きでだが、うまくいけば外鬼討伐までの道筋が見えた。
「やっぱ自由の力ってのはすげーな」
『何気に闘技大会みんなも実力示しに参加する流れ!ぶっころぶっころ!!』
「僕の美貌で少年たちの人生が狂ってしまわないか、それだけ心配だね」
「実力は十分、あとは我らの足跡を残すのみです」
「この旅でオレもなんか目標できそうな予感がする!」
決意、覚悟、そんな堅苦しいものじゃない。これは俺たちが好きに自由を追い求めて、その先に世界を救う物語だ。
「あっ、ミラが復活した!」




