ガンの町防衛戦 ―終幕―
◇シノブ視点に戻る◇
これは一体どういうことだ?ミラの助けを求める声が聞こえて急いで来てみれば、なんと天渡も一緒になってピンチだった。死ぬ一秒前といったところだ。この二人が揃って負けたというのか?一体どんな奴相手に……?
そう思って先程咄嗟に受け止めた黒い剣の主を見る。主を……
「剣が邪魔で見えねぇじゃねぇか!デカすぎんだろ……」
それにこの剣デカいだけじゃないな。凄まじい力を内包してやがる。なるほど、切り札か。
『ォォォオオオオ……!!』
俺に掴まれた剣を引き戻そうとしているのが伝わってくる。これも凄い力だ。少し前までの俺なら扇風機に巻き込まれた髪の毛のように持っていかれただろう。だが――
「軽い」
モード番神と化した今の俺に、地上で敵う者などいないだろう。たとえ同じ転移者であってもな。
「そろそろお前の顔が見たいぞ。俺の大切な者を傷つけたお前の顔を。……邪魔だよなぁ?この剣……壊していいか?」
『ォォォオオオオオオッ!!』
殺意を込めて話しかけてみたら効果は抜群だ。黒い大剣はその姿を霧のように霧散させ、ようやっと敵の顔を見ることができた。
『オオオオオオオオオオッ!』
「ふーむ死霊騎士といったところか。心配していた外鬼の気配は感じんな……。ならば同じ転移者か?今となっては記憶も朧気で思い出せんのだが、こんな奴いただろうか……?」
『オオオオオオオオオオッ!!』
「そもそもこいつ言葉を介さないしな。ホントに転移者かどうかも怪しいとろか。しかしミラと天渡を追い詰めたその力は一体どこから……ん?ていうかイリスは?」
『オオオオオオオオオオッ!!!』
「ここにおります我が主。此度は私の慢心がミラと天渡を危険にさらしたこと、深くお詫び申し上げます。あの2人にはあとで私から説教をしておきますので」
『オオオオオオオオオオッ!!!!』
『やばいよやばいよイリスが怒ってるよ~……』
「ぼ、僕は天渡を助けたんだし?天渡が一人でって言うからさぁ……」
『オオオオ……オオオオ…………』
敵を前に呑気に会話なんてしているわけだが、それもそのはず。何故なら俺はこの死霊騎士の猛攻を前に、なにもしなかった。番神を傷つけられる者など存在しない以上、俺はただ仁王立ちしているだけで相手が戦意を失う。外鬼のような化け物が手を貸していたらその限りではないのだが、流石にそんなのはあの目玉だけだったようだ。
『ミラはやっぱどこか卑屈だよっ!その根性はどうにかしたほうがいいと思うな!』
「あーー!悪口言ってるーーー!!命の恩人の悪口はよくないと思うなーーー!!シノブに告げ口しちゃおっかなーー!なーーー!!」
『なんだとこりゃーーー!私も許すからミラも許せこりゃーー!!こりゃーーー!!』
「あなたたちこの場に我が主がいること忘れてませんか?これは天渡の悪口が主に伝わっただけなのでは?」
「『はっ!』」
ミラと天渡の「しまった!」という表情。バッっとこちらに顔を向け固まる。それをイリスは呆れたように見守り、ゆっくりとこちらを見て、静かに微笑む。
(愉快なやつらだ)
俺はこの光景が好きだ。天渡が馬鹿やって、ミラがいじって、イリスが見守る。ミラが馬鹿やることもあって、天渡がそれに追従することもある。それにイリスが怒ることも。
既に周りには魔物の死骸しかない。イリスと天渡がここにいるということは、西門と東門も片付いたのだろう。
この場の全員が、俺と死霊騎士に注目している。そろそろこの戦いに終止符を打つべきだ。
「俺は俺の大切な者を守る。そのためにお前を屠る」
黄金に輝く己の腕を振り上げる。モード番神になって色々変わったが、一番は剣と盾が何処かいってしまったことだろう。横に浮遊する籠手があるがこれがそうなんだと信じたい。
ともあれ武器がなくなったので拳で倒すしかない。大丈夫、番神と化した今の俺なら十分すぎる火力だ。
死霊騎士は剣を下げ、大人しく死を受け入れているようだ。その紅い目には「早く終わらせてくれ」という想いを感じる。
「…………終わりにしよう。反転番刀!」
そうして突如始まったガンの町の騒乱は、幕を下ろした。
◇
『自由の白星』の面々は後始末など知らぬ存ぜぬで宿に戻った。そこでは
「シノブの男姿は久しぶりに見るねー!僕ドキドキしちゃうよ……」
『にぃにをにぃにって呼ぶのもなんか懐かしいなー!やっぱりこっちのほうが私好き!うへへ……」
「私は我が主がどんな姿でも生涯御供する所存です。でも、かっこいいですよ?我が主」
久しぶりに男の姿に戻った俺の周りに皆集まって、あーだこーだ言っていた。
「ああ……俺もこっちのほうが落ち着くな……」
((お前ハーレム築いてんじゃねーか!オイオイここにオレまで加わったらお前殺されるぞ?))
『???にぃにどーしたの?なんか疲れた顔してるー』
「そんなにあの目玉強かったのかい?そういえば番神?にならなきゃならないほどだもんね。今は半神に戻ってるけど」
「お疲れなら今日はもう休みましょうか。きっと眠ったら疲れも多少はとれるでしょう」
「ああ……そうするか……」
((お?寝るのか?誰と寝るんだ?ってオレしかいねーか!ハッハッハッハッ!これからオレたちずっと一緒だもんな!優しく……してね……キャッ!なーんつって。ハハハハ!))
「マジでうるせぇなこの声……」
最初は幻聴かと思ったんだが、こうも長い時間会話が続くとなぁ……あいつを倒してからだよな?やっぱり転移者だったか、しくじったなぁ……。
これはもう俺だけで抱える問題でもないだろう。ていうか誰かと共有しないと俺が辛い。よし話そう、今こいつらに話して楽になろう。
『にぃになんかやっぱり変だよ?大丈夫?私が癒してあげよっか』
「ああ……いや、ちょっと悩み事を抱えてしまってな。驚かず聞いて欲しいんだが……」
それから俺はこの聞こえてくるオレオレ口調の女の声について話した。あの死霊騎士を倒したあとから聞こえるようになったことも。
『はぁっ!?なにそれ!?ちょっと許せないんだけど!!』
「ギルティ!これはギルティだよ!ちょっと許してはならないね!」
「我が主と四六時中話すなど……この泥棒猫どうしてくれましょう……」
((オレだって好きで乗り移ったんじゃないっての。そういう力を与えてきたのは管理者だっつーの!))
「……と」
俺は通訳。現状このオレオレ女の声は俺にしか聞こえないのだから仕方ない。面倒だけど仕方ない。
『何とかして分離するべきだよ!こう引っ張ったらなんとか……』
「なるわけねーだろ!!やめろ痛い痛い痛いって!?」
「僕が耳元でずっと囁き続けるのはどうかな?こう……デテケデテケデテケデテケ……」
「それ俺にもなんかダメージある!!あと怖い!怖いぞミラ!?」
「みんな離れなさい。私が貫きます。主の心を射止めていいのは私だけと決まっています!!はっ!」
「洒落になってねーー!!マジでその槍しまってくれーー!!」
((アハハハハ!!愉快愉快))
「なに笑ってんだこいつ……!!なにも愉快じゃねぇよ……!!」
こいつらに相談したの失敗だったかもしれない。そう思わずにはいられないやり取りがしばらく続き、そして
「ふぅ、落ち着いてきました。落ち着いたらいい案が浮かびました。これでいきましょう」
「ホントに落ち着いたんだよな?信じるぞイリス……」
((ひひひひっ!馬鹿だ!こいつら馬鹿だ~~!!ひひひっひひ……))
この人の中でずっと笑い続けてる女をどうにかできるのなら俺は惜しみなく神力を使うぞ……!!イリスはもともと頼りになるやつだ。落ち着いたならきっといい案を出してくれる。……はず。
「そう難しいことではありません。要するにオレオレ女は主に憑りついたのですから、別の主を用意すればいいのです」
「「『???』」」
((オレを移したけりゃこの男を殺すしかないんだって。誰が殺せんだよこんな化け物……))
俺、ミラ、天渡だけでなく、このオレオレ女もイリスの策を読みかねている。俺だって死ぬのは嫌だぞ?しかしイリスもそんなことはわかているはず。別の主、別の、俺……はっ!?
「そういうことかイリス!」
((えぇ!?そんなことまでできんのアンタ!?やっばー……半神やっばー……))
「『???』」
俺の中にいるオレオレ女にも俺の考えが伝わったようだ。なお、ミラと天渡はわかってない様子。
「ふふふ、流石は我が主。そうです、神力で主の分身を作ってしまえばいいのです。それも主には変わりないんですから、移れないことはないでしょう。ねぇ?廻る者さん?」
((うぐぐっ……ばれてる……))
オレオレ女の正体は廻る者だったのか。確かに管理者から聞いた話の中にそんなやつがいたような気がするな。
『ほへー廻る者……じゃルプスだね!よろしく~!』
「また恋のライバルが増えるのか……まぁ負けるつもりはないけどね!よろしくールプス」
「はい、ではルプス。準備ができたら乗り移って下さいね。それまでは主との会話も禁止です。いいですね?」
「せっかくなら前まで使ってた女体を使うか。これでようやくどんな感じだったのか発覚するな!よろしく頼むぜ、ルプス」
わいのわいの。がやがやと。問題は解決したと作業に入る。やっぱりイリスは頼りになるな!
((は……はぁぁぁぁぁ!?なにそんなすぐ受け入れてんだよ!?オレはお前らを殺そうとしたんだぞ!?許せないって思わねーのかよ!?おいお前!オレの言葉をさっさと――))
(――黙れルプス。許す許さないはお前が決めることじゃない。俺は未だお前を許せてないが、あいつらはお前を許すと言ってるんだ。俺たちの納得の問題で、あまり我儘をいうもんじゃない。それは俺たちが楽になれるだけの自己満足に過ぎん)
((……お、お前は、それでいいってのか?オレと一緒とか、嫌じゃねぇのかよ……))
(今の状態のほうが一億倍嫌だな。俺はあの3人の声を聞いていたい。そこにルプスが混じるのも、まぁ仲間なら当然になるな)
((仲間……オレが、お前らの?))
(愚痴があったら俺たちだけで話せばいい。だからルプス、お前も『自由の白星』にこい。ここはいいところだ)
『あーー!!にぃに絶対ルプスと話してるでしょー!!無言になってるもん!!』
「やっぱり許せない……早急に乗り移って貰わないとね!」
「ルプスー?あとで私とたくさんお喋りしましょうねー?」
廻る者。死んでも死なない、けれどたくさん殺されてきたであろう者。その果てに辿り着いたのがあの悪夢と呼ばれる死霊騎士なら、きっとこれからお前にはたくさんの救いがある。だから――
「ルプスの体、できたぞー!」
(一人で乗り移れるか?ルプス。くくくっ)
お前はここに来るべきだ。
((~~~っ!!馬鹿にするなよ!!オレはいつかお前にも許されてみせるからな!!))
はは。その意気だ。俺だっていつまでも仲間を許さないような奴じゃないさ。
かつて女性陣が案を出し合って創られた女体。長身で、モデル体型で、長髪で、前髪が伸びてて、それでいてそこから覗く黄金の瞳は野性味があって。
その目が、髪の隙間からゆっくりと開くのが見える。
『ようこそ!』
「ようこそー」
「ようこそ」
その瞳はじっと俺を見つめ
「ようこそルプス」
『「「「『自由の白星』へ!」」」』
獲物を狙う肉食獣のように、捉えて離さなかった。
はい。4人目のメインヒロインの登場です。シノブ女体化はこの娘のためだったのだ!?




