ガンの町防衛戦 ――北門 待ち人――
◇北門 引き続きミラ視点◇
振り下ろされる漆黒の剣。間違いなく直撃コース。
――死んだ。これは死んだなー。
「――シノブ」
そう思って最後に彼の名を呼んでみたり。ああ、これで来てくれたら本物のヒーローだ。
思考がよく回る。景色がゆっくりに見える。でも避けられないし防げない。ただ近づく死を見ているしかできないなんて、僕はこんなにも弱かったんだね。だからシノブ、助けて――!!
ギイィィィィンッッ!!
「……え?」
目の前にまで迫っていた剣が防がれた。これは、こんなことができるのはっ――!!
「シノb――」
『お待たせ!待った!?いやー危ないとこだったねミラ!』
「ちくしょーーー!!」
『ぐっはぁ!?』
お前なんか呼んでないし待ってもないぞ天渡ぉ!ちくしょーーー!!僕の夢を返せ――ー!!
『痛いっ!?なんで殴ったのミラ!?助けてあげたのに!!』
「一昨日来やがれーーー!!」
僕の王子様はこんなポンコツ戦闘狂じゃないやい!なにが「お待たせ、待った?」だーー!?彼氏面すんなーーー!!
「はいはい二人とも、そろそろ戦闘に集中しましょうね。私は近接戦闘担当じゃないんですよ?」
この声はっ!!
「『イリス!』」
「はい、イリスですよ。愚痴は後で聞いてあげますから今は守護結界をお願いしますね、ミラ」
「あっ、と、守護結界!それでイリス聞いてよ!天渡の奴がホントに信じられなくて――」
『あーー!まだ言ってるーー!?命の恩人の悪口はよくないと思うなーー!!ねぇねに告げ口しちゃおっかなーー!!なーーー!!』
「あんだとコラーーッ!!それはダメだ許せコラーー!!コラーー!!」
と、その時。
「ミラー?天渡ー?お喋りは後にしましょうねー?この死霊騎士を私一人で抑えるの結構大変なんですよー?守護結界ももう割られてますからねー?一緒に戦って、くれますよね?」
僕と天渡は揃って首をブンブン振った。もちろん縦に。……怒ったイリスこわー……。
「み、皆さん本当に仲がよろしいのですね。こんな時でも凄く余裕が感じられます……」
あ、リーン嬢が呆れてる。これはいけないね!『自由の白星』が舐められるなどあってはならないことだ!
「『イリス』」(キリッ)
「はい、なんです二人とも」
「『任せて』」(キリリッ)
「だから早く戦闘に参加してほしいと先程から申しておりますのに……」
よっしゃーやったるでー!ミラお姉さんの本気を見せたる!
「聖域展開、悪払い!」
聖域の敵対認定はもちろんあの死霊騎士。そしてイリスと天渡には能力向上もつく!さらにさらに悪払いの効果で、邪に属するあの死霊騎士の体力を削る!どうよ!?これが『自由の白星』ミラお姉さんの力だーー!
『おーミラやる気だねー!?じゃあ私も本気だしちゃおっかな!白炎!』
天渡も白炎を纏ってやる気だね。さぁ死霊騎士――もとい悪夢よ。今度はそちらが悪夢を見る番だ。
『ォォォオオオオ!!!』
悪夢は吠える。憎悪と怨嗟を声に乗せて。黒いオーラを爆発させながら前衛に迫るその姿からは、決してやられてたまるかという覚悟を感じた。
◇
悪夢との戦いは3対1で行われていた。僕、イリス、天渡 対 悪夢。僕は後方で守護結界を張り続け、イリスと天渡が見事な連携で悪夢に迫る。これはいつも僕たちがやっていたことが役に立ってる。対戦相手がシノブから悪夢に変わっただけだ。
でも正直この悪夢とか言う死霊騎士、ちょっと信じられないくらい強いんだけど?剣一本で戦ってるのに全く力尽きる感じがしない。ていうか……
『こいつ剣の扱いうますぎー!前世は剣聖かなにかかな!?楽しくなてきたぁ……!コロスコロスコロス……』
そう、天渡が楽しくなってしまうほどに剣の技巧が卓越している。正直剣の腕だけならシノブよりも上だと思う。シノブはなんだかんだ言って格闘の方が得意だったからね。
『イリスぅ!こいつは私が殺る!手を出さないで!ミラも!』
「天渡はまたそんなことを言って……ですが周りの魔物もそろそろ殲滅したいですね。リーン嬢やフォウスさんが頑張ってくれていますが限界も近いでしょう。ミラも怪我人の手当てをお願いします」
「しゃーないなー。天渡負けるなー」
『アハハッ!コロスコロスコロスコロス……』
「聞いてないし……」
まぁでも治療しながらも天渡のほう気にかけておこうかな。アレで一応、命の恩人だしね。
というわけで僕は怪我人の治療と前線に守護結界の構築のお仕事に戻り、イリスは範囲魔法で魔物の殲滅にかかった。
「リーン嬢は魔法の名家に生まれたと聞いていましたが、まさかこんな魔法まで会得されているとは……」
「いえいえ、わたくしなどまだまだでございますわ。イリス様のほうこそ流石と言うほかありませんわね……」
「あの魔法は……」
「あら、そうなんですの……」
(なんか楽しそーだなー)
イリスとリーン嬢の二人は魔法での殲滅という性質上、その場から動かない。だから二人並んで魔法談義に花を咲かせているようだ。
(僕ももうちょっと前に出ようかな……いや!僕はここで天渡の戦いを見守ると決めた!あんなんでも命の恩人、なにかあった時に助けられるのは僕しかいない!!)
恩義に報いる女、僕。ポイント高すぎ?んふふ!
そしてその時はやってきた。
悪夢のオーラが剣に集中していく。それはもはや漆黒というより「無」に近い。「無」の黒が巨大な剣を形成し、悪夢は構える。これで決める気だ。
対する天渡もその拳に白炎を纏わせる。より強く、より濃密に。圧倒的な白は色を認識させない。これもある種の「無」であろうか。
(天渡……負けるなっ!)
僕には祈るしかできない。でも大聖女の祈りはきっと届く!きっと叶う!
『オオオオウザアアアアアアンッ!!』
『極・白炎拳ッ!!』
黒と白。性質の違う「無」と「無」のぶつかり合い。爆発的なエネルギーの塊が、衝突した。
『『オオオオオオオオオッッ!!!』』
雄叫びが木霊し、そして――
『オオオオオオオオオオッッ!!!』
最後の瞬間、なおも雄叫びをあげられていたのは
『にぃに、ごめ――』
悪夢だった。
でも――
「さぁせぇるぅかぁぁぁぁ!!!」
『……え?』
悪夢の一撃は、天渡に届くことはなかった。何故なら――
「シノブだと思った?残念!ミラお姉さんでしたー!!」
僕が不滅神壁で受け止めてあげたからねーー!!んふふふふ!!
『…………コロスコロスコロスコロス…………』
「ちょちょちょ怖い怖い怖いって!?仮にも命の恩人に向ける目じゃないよそれ!」
『むっきーーー!!ちょっと期待してたのにーーー!!』
「僕は恩を恩で返してあげただけだよ?感謝してよねー。んふ――」
でもそんな僕のふざけた笑いは、最後まで響かなかった。代わりに響いたのは、怨嗟の叫び。
『オオオオオオオオオオオッッッ!!!』
その怨嗟の持つ主は、変わらず黒で形成された「無」の大剣を手に携え、今一度振り降ろさんとしていた。
「不滅神壁の持続時間を待って――!?」
あれは大技。そう何度も使えないし、そう長くは保てない。それをこいつは察したの?
『ミラっ!』
「しゅ、守護結界――」
『――――』
遅い、と言われた気がした。天渡が僕の前に立って両手を広げる。やめてよ、天渡。それじゃ君まで死んでしまう。君の速さなら逃げられるだろう?僕を庇うことなんかない。君は生きられるんだから、生きなきゃダメだ!
ああ――またか。また思考だけがよく回る。でも今度は、これから死ぬのは僕だけじゃない。お互いからかいあって、罵り合って、それでも嫌いになんかなったりしない、大切な僕の友達。同じ人を好きになった、恋のライバル。
嫌だ……天渡が死ぬのは嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだ!!僕たちはまだ、死にたくないっ!!
(助けて、シノブ!!)
「お前が願うなら、俺はなんだって叶えてみせる」
「……あ……」
その姿は僕の知る彼ではなくて、でも確かに彼の温かさを感じられて。
「――シノブっ!!」
『にぃにっ!!』
「待たせたな。番神シノブ、参上だ」
何百年も聞いていなかった、それでも忘れたことのない彼の女体じゃない男の声。
その声に、心がときめく僕がいたんだ。




