ガンの町防衛戦 ――北門 迫るモノ――
別視点です
◇南門防衛にあたっていた衛兵の視点◇
私はこのガンの町の南門番をしているただの衛兵だ。衛兵なのだからもちろん此度のスタンピードの対応にもあたっていた。少し前までは。
私は今、伝説の目撃者だ。
突如上から降ってきた目玉の化け物と白銀の騎士。奴らの戦いは常軌を逸していた。
白銀の騎士の動きを目で追えた者はここにどれほどもいないだろう。しかし私はこの目を買われ門番などしているのだ。故にかすかにだが見えてしまった。見えてしまったからこそ、圧倒されたのだ。
一体あの域にまで到達できる武芸者がどれだけいる?
あれはまさに御伽噺にでてくる勇者と魔王だ。しかし目玉の魔王など私の目にはない。動いていない魔王のことより、あの美しい勇者の剣に私は見とれたのだ。
もう誰も武器を構えてはいなかった。私以外の者達もただ目の前の光景に見とれ喋ることすら忘れていた。
そして戦いはやがて大きな盤面を迎える。
両者疲れが見えてきたかと思ったその時。そう、私はこの光景を生涯決して忘れられないだろう。
迸る一筋の閃光に、吹き荒れる黄金の嵐に、揺れ動き消滅していく大地に、私は魅了されたのだ。
しかし事態はまだ動く。あの世界の終わりかのような一撃ですら倒れなかった魔王に、最早これまでかと絶望の色が心を染めたとき、白銀の騎士が変貌を遂げるように、あのお方が現れたのだ。
その姿は女性のそれではなかった。体長2メートルはあろうという大男。黄金の重鎧に包まれたそのお方の背後には光の翼が。両横には浮遊する巨大な黄金の籠手が。頭には天使の輪にも見える王冠が。
きっと人はアレを神と呼ぶのだろう。私がこの時思わず口にしたように。歴史もまた、神を見たのだ。
◇時は少し遡り、北門の戦い ミラ視点◇
僕たちが北門に到着したときには、既に戦いが始まっていた。
見える魔物はゴブリンにオークにオーガに……ここらで見ない魔物も結構いるようだね。
既に死傷者もでている。これは早急に僕の慈悲が必要だ!んふふ!
「怪我人をこっちに集めてねー!僕が治してあげるよー!この慈悲深いミラ様がね!んふふ!」
僕はそんな大声を出せてないけど、リーン嬢の連れてきた騎士たちが代わりに伝達の役目を担ってくれた。ご苦労!
「ミラ殿、リーン様、私は前に出ます。見たところランクが低いとは言えない奴も大勢いるようですが、だからこそBランク冒険者として最前線で戦わねば。指揮はお手数ですがリーン様にお任せできればと。それでは行ってまいります!うおおおおおお!!」
「……この町で顔の知られていないわたくしに指揮を任せますか。ですが確かに今は前線が危うい。Bランク冒険者としてのお力、見せて頂きますよ、フォウス様」
何やらリーン嬢がキリッっとした表情で部下の騎士や町の衛兵に指示を出し始めたから、僕は僕にできることをやることにするよ!まずは怪我人の治療、それと合わせて前線に守護結界の構築。今の僕なら両方同時にできるかな!
「聖女の癒し、守護結界――慈悲を!」
眩い光が怪我人を包み、前線で戦うものを守る盾となる。そのオーラの美しさときたらもう……。
「うお!?腕が、治ってる!?」
「俺の目が見えるぞ!奇跡だ!」
「魔物の攻撃が痛くない!これなら勝てるぞ!」
きっと今の僕は輝いてる。下々の民草の喝采の声が聞こえるてくるね。んふふ!
「流石ですねミラ様。わたくしも貴族として、それに恥じない働きをしなければ。精霊召喚!来なさい、イフリート!」
『グゴオオオオオオ!!』
「イフリート、力の強い魔物から減らしていきなさい。人間は巻きこまないように」
『承知』
うわーイフリートって上位精霊とかじゃないの?そんなの呼べるってもしかしてリーン嬢って凄い子なのかな?でもでも一つ言っていい?なんで登場する時は叫んで如何にも喋れませんって感じだったのに、そのあと「承知」とか、いきなり武人っぽくなるわけ?情緒不安定かな?……ま、でも。
「怪我が治った衛兵は左翼の支援に!騎士たちは二人一組でオーガを中心に倒していってください!冒険者の方はフォウス様を支援していただけると助かります!そこっ!ファイアバースト!」
こんな頑張ってる少女に話しかけるより、僕は役目をしっかり果たして助けてあげるほうが、きっとお姉さんっぽいよね。
(イリスと天渡はもう片付けちゃったかなー?もの凄い速さで飛んで行ったし、僕と違って殲滅能力ヤバいからなー。ここに来てないってことはシノブの方かな……。これは戦いが終わったらシノブにはいっぱい構って貰わないとね!んふふ!)
僕だけシノブと一緒に戦えないことに悔しさはある。でもシノブはイリスも、天渡も、そして僕のことも平等に扱ってくれる。だからこんなことで拗ねたりしないけど、やっぱり寂しいものはあるね……。叶うなら、いつか僕は僕だけの特別が欲しい。シノブの特別になりたんだ。でもそんなことイリスと天渡が許さないよね。『自由の白星』は4人揃って、なんだから。
そんなことを考えながらも手は動かしてるよ?僕のお仕事は守護結界を維持するだけの簡単なものだけどね。守護結界を張ってからは怪我人もでなくなったしあとは時間が解決する流れかなー。そしたら僕もシノブの元に……んふふ!
でも、事態はそう簡単に終わらせることを是としなかったみたいだ。
「お、おいアレ!?アレ見ろ!?」
「おいおい……まさかありゃあ……」
「嘘だろ……悪夢が墓地から出てきたってのか……!?」
聞こえてくるそんな声。ヤバい奴が現れたみたいだ。声なんか聞かなくたってわかる。僕に気配察知能力はあんまりないけど、聖に反発するあの気配に気付けないほどじゃない。でも……アレってナニ?
その姿はまるで暗黒騎士だ。漆黒の甲冑に漆黒の剣。そしてその漆黒を更に強調させるどす黒いオーラ。兜の隙間から覗く紅い瞳がいやに目立ってる。
「ミラお姉さんにはわかるぞ……君強いだろう?僕一人でどこまで耐えられるかな」
あの暗黒騎士から感じる力はイリスや天渡に迫る。そしてイリスと天渡の攻撃を僕は何発も耐えられない。シノブの攻撃だって神力を使われてたらきっと一発だよ。
僕にできることは守護結界を何枚も張り続けること。それからあれは見るからに邪に属するモノだから僕の浄化で消せるかもしれない。よーし!いっちょ見せつけちゃいますか!
「ミラ様!あれは悪夢と呼ばれる死霊騎士です!その魔物の特性から真っ先に狙われるのは――!」
リーン嬢の焦ったような声が聞こえてきたときには、その悪夢が目の前まできていた。
『ォォォオオオオッ!!』
悪夢の発する怨嗟の声と、振り降ろされる漆黒の剣が、僕の挙動を一瞬遅らせた。そしてその一瞬が明暗を分ける。
(あ、これ間に合わ――)
予感される死の気配。
「シノブ――」
彼の笑顔を最後に思い出せた気がした。




