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いきなり異世界の《半神》になった  作者: 八九秒 針
第一章 半神降臨編
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ガンの町防衛戦 ―開幕―

 先程聞こえた奇声、それを放っただろうナニカは突如として俺の察知に反応した。それも町のど真ん中でだ。こんなことは予想もしていなかった。ありえないと高を括っていたのだろう。完全に俺の、俺たちの失態だ。このミスはこれからの働きで巻き返す!

 俺たちの足なら現場に到着するのはすぐだった。時間にして十秒もないだろう。フォウス殿を追いかけたつもりがいつの間にか追い越していたようだ。そして現場で俺たちが見た光景は。


「石化、猛毒、麻痺、混乱、ありとあらゆる状態異常が無差別にばらまかれています。ミラ!こちらも()()()でいきましょう」

「遂に大聖女である僕が輝く時がきたみたいだね!ならいっくよーー!聖女の癒し!」


 ミラの癒しで状態異常は解けるだろう。だが今は現在進行形で状態異常がばらまけれている状況だ。大本をどうにかしないと埒が明かない。ならば!


「天渡!()とタイマンを張る。奴の近くに倒れてる人を救助してきてくれ。ミラはその後俺と奴を囲うように守護結界を頼む」

「我が主、お供します」

『らじゃー!行ってくる!』

「僕たちも救助が終わったら参戦するからね!」


 よろしい。行動開始だ。


『シュバババババッ!投げちゃった方が早いよね!ちゃんとキャッチもするから安心してねぇね!はい退避完了!』


 まず天渡が目にもとまらぬ速さで地面に倒れている人たちを空中に大きく投げた。ここまで凡そ3秒。そしてキャッチも本人の申告通り無事行われた。この時点で10秒ほど。投げた人が空中を舞う時間が長かったな。

 しかしその僅か10秒で俺とイリスは()に肉薄していた。いや、もう()()()と言ったほうが正しい距離だな。

 それは何とも歪な姿をしていた。直径3メートルの黒く大きな目玉、しかしその目玉の中に無数の小さな目玉がある。瞳孔は赤く不気味に輝いておりそれが今尚俺たちを睨みつけている。


「状態異常でもかけようとしているのか?効かんね、取り敢えず一発お見舞いしようか!」


 こいつの放つ無数の状態異常も俺の【竜鎧テンキス】の前では形無しだ。こいつの攻撃手段が状態異常だけとは思わないからまずは様子見の――


「シールドバッシュだ」


 【守護盾ミラーネット】を前面に構え勢いよく地面を踏む。もうすでにミラの守護結界が俺たちを囲ってるから遠慮はいらない!

 奴――面倒だから目玉と呼称するが、目玉の動きは遅く、俺の突進に避ける動作はしなかった。これは当たる、と確信した一撃。盾と目玉の接触まであと50センチというところ。しかして様子見の一撃は目玉に直撃する前に何かに弾かれた。


「うっそだろ俺の一撃を弾けんのかよ!いつぶりだぁ?イリス!今なにが起きた!?」


 盾は構えたまま後ろにいるイリスに問う。俺目線だと盾で前が見えなかったからな。


「魔力障壁……でしょうか。ただその練度は主の一撃を弾けるほどですから、Sランクに相当するかと。神力を解放されていない今の主では少し厳しいですね。しかしここは町中、存分に力を振るえるよう場所を移しましょう」


 流石イリス。現状でできる考察と行動指針を一緒に出してくれる。しかし肝心のどうやって場所を移すのかの作戦はないようだ。もう少し守護結界の中で目玉の魔力が消耗するのを待つか?

 しかし状況はそんな甘い対応を許してはくれなかったようだ。町の門の方角から響き渡る鐘の音。それも一つじゃない。東西南北すべての門から鐘の音による警報が鳴らされていた。そしてそれはすぐに町の中で人の声に変わり、ある叫びが耳に入る。


「スタンピードだぁぁぁぁ!!」


 スタンピード、魔物の氾濫。それが全方位から?考えられる原因は――


『ギィィィエェェェェ!!』


 目の前のこいつしかいないよな!


「お前ちょっと表でろ!嫌だと言っても無理やり連れて行くからな!」


 【栄光剣ミカエル】に少し神力チャージして殴って連れてくしかない!しかしスタンピードは既に起きている以上、そちらの対応も必要だ。この町近辺の魔物は弱いが冒険者もまた弱い。放っておいたらこの町が魔物に蹂躙される!


『ギィィィィィ!!』


 目玉は状態異常が俺に効かないと悟ったのか純粋な魔力攻撃に切り替えてきた。まぁそれも俺に通用することはないが確かに重い。まるでイリスと天渡の一撃を思い出すようだ。


「我が主!私が東門に回ります!天渡は西門、ミラはとにかく北門で魔物の侵攻を食い止めてください!」

『別行動ってことー!?うー寂しいけど仕方ないね!魔物コロスコロスコロス……』

「ちょちょちょ僕は攻撃能力ないんだけど!?食い止めるって僕の聖力にも限界ってもんが――!!」


「――私がミラ殿についていく」


 後ろから聞こえたその声の主は。


「フォウス殿か!これは助かるな!ミラを頼んだぞ」


「その役目、わたくしも共に果たさせて頂いても?」


 また後ろから別の女性の声。ちょっと今俺目玉の攻撃で振り返れないんだけど、一つ言わせてくれ。俺の後ろに立つんじゃねぇ……。


「あれれ?リーン嬢?いいのこんな激戦区に来ちゃって?僕のこと信頼してるのはわかるけどちょっと意外だなー」

「わたくしはバー王国の公爵家の人間、貴族として逃げることなど許されません。これでもカイゼラフ公爵家は魔法の名家を名乗っております。お役に立てるかと」

「これは心強いな。では北門は私とリーン様とミラ殿で受け持つということで。南門はもちろんシノブ殿がその化け物ごと受け持っていただけるのだろう?ははは!」


 ったく、こんな時に笑えるとはあんたも大概大物だな、フォウス殿。窓から飛び降りる時盛大に死亡フラグを建てて行った奴と同一人物とは思えないぜ。あぁ、そうだそうだ、それがあったな。


「よし、お前ら死ぬんじゃねぇぞ。こんなとこでくたばってりゃ何も任せられないぜ!」

『ねぇねそれ誰に言ってるのー!?私たちの強さ、知ってるでしょ?』

「『自由の白星』が自由を賭けた戦いで負けるなど、ありえないことです」

「僕だけ要護衛対象いて別ゲーなんだけどやってやるよ!楽勝だね!」

「ははは、護衛されるつもりはないとも。言ったろう?私はランクの低い魔物相手には調子づくんだ」

「ミラ様にしか我がカイゼラフ公爵家の魔法の深淵を御見せできないのが残念で仕方ありません」


 意気込みは十分。ならばあとは行動あるのみ!


「行動開始!」


 ガンの町防衛戦が幕を開ける。

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