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いきなり異世界の《半神》になった  作者: 八九秒 針
第一章 半神降臨編
13/27

『自由』

 コンコン


「失礼しますギルド長、セリィです。『自由の白星』の皆様をお連れしました」

「入れ」


 案内された部屋の中から聞こえてきたのは中年くらいの男の声。ただ一言入れとだけ言ったあとはなんの音も聞こえない。

 セリィ嬢が部屋のドアを開けて横に退ける。先に入れということだろう。ならばと一歩部屋の中に足を踏み入れれば――


「シッ!」


 剣による鋭い一撃が飛んできた。しかしぬるいな、予測済みだ。俺の手には指で摘ままれた剣が存在した。


「これを防ぐか……わかっていたな?」


 俺に攻撃を繰り出してきた中年の男性、恐らくはここのギルド長は退きながら剣を鞘にしまい、観察するような眼をこちらに向けてくる。


「もういいのか?」

「これ以上は私の死を近づけるだけだ。それにもう十分わかったさ。君たちを目の前にして肌で感じるよ、生命の危機というやつをね」

「ふーん」


 今の一撃が一般にどれくらいの高みにあるのか知らないが、少なくともリーン嬢を襲った賊共よりは手練れだとわかる。支部とはいえ冒険者ギルドの長を任せられるくらいだから腕も立つのだろう。それをしてこの言葉、やはり俺たちに冒険はもうないのかもしれない。


「取り敢えず座ってくれ、茶を出そう。私も君たちとは話をしてみたいと思ってたんだ」


 言われて奥からミラ、イリス、俺、天渡と座る。ギルド長は長身だが細身なのでソファも小さいかと思ったがそこは流石に冒険者の集う場所、ちゃんと大きなサイズをしていた。それでも四人座ると狭いが。お前らちょっとくっついてき過ぎじゃね?ミラのほうまだ少し空いてないか?


「天渡はシノブの上に座ればいいと思うな!そしたら僕がシノブの横に座るからさ!ほらこういう時はシノブを真ん中にしないとでしょ?ほら天渡早く移動して」

『もーしょうがないなー。でもミラだけは可哀相だもんね。ねぇね上座るよー』


 天渡が俺の膝の上にちょこんと座る。俺の鎧は固いから座り心地よくないと思うんだが。そしてミラ、横に座るのはいいがちょっとくっつき過ぎじゃないか?まぁいいけどな!


「……仲がいいんだな」


 ギルド長、百合百合はお好きで?


「お茶です」


 すっと差し出されたお茶を契機に、ギルド長は口を開いた。


「まず最初に問いたい。君たちは何者だね?」


 その質問をするギルド長の目は真剣そのもので。しかしこちらも先に問いたいことがある。


「まずはギルド長、あなたのお名前を聞かせてくれ」

「おっとこれはすまん、話を急ぎ過ぎたな。改めて、私はガンの冒険ギルドのギルド長、フォウスだ。これでもBランクの冒険者だったんだよ。今ではデスクワークですっかり鈍ってしまったがね。ははは」

「ギルド長は過去にトラセルという町で起きたスタンピードで、一番前に立って魔物を斬り続けたある種の英雄なんですよ?トラセルの町ではそりゃもう凄い人気があるんです」

「よしてくれセリィ、私はただ危険度の低い魔物相手だから調子づいただけさ。あれを勇気と評価されるのは納得いかないんだ」


 なるほど、ギルド長改めフォウス殿の武勇伝にも興味はあるが、それはまた機会があったらでいいだろう。彼自身あまり語りたい話でもなさそうだしな。


「ではフォウス殿、先ほどの質問に答えよう。俺たちが何者か、答えは『自由』を愛する者だ。自由は何よりも尊く、束縛は何よりも嫌悪する。俺たちは俺たちの想う『自由』に生きるし、その『自由』の責任は俺たちが自分でおう。そのための力を、俺たちは極めてきた。これでいいだろうか?」


 フォウス殿が望んだ答えとは違ったかもしれないが、今俺たちが出せる答えなど、これしかない。何処の国の者だとか、本当に人間かとか、そんなものは議論するほどのことではない。俺たちにとってはな。


「……『自由』、か。恐ろしくもあり、頼もしくもなる答えだ。束縛を嫌うなら国の権力にも屈さないだろう。正当な対価があったとしても心配する気にはなれんな」

「その心は?」

「君たちが善人だからだよ。それもすべてを見守るような頂点に君臨する強さを持った。私は君たちを、君たちの『自由』を信頼する。ギルド長の権限で『自由の白星』をDランクへと昇格しよう。あとでセリィから新しいカードを受け取り給え」


 そう言うとフォウス殿は茶を一口で飲み干した。話は終わりだとばかりに執務机に向かうフォウス殿は何処か満足気だった。


「私たちも帰りましょうか、我が主」

「ああ、そうだな――」


『ギィィィエェェェェッッ!!!』


「「「『!?!?』」」」


 緩慢しきった空気に突如として響き渡る奇声。それは叫び。そして叫びは一つでは終わらなかった。何かが崩れるような音も。


「今のは!?セリィ状況確認急げ!俺もすぐ行く!!」

「え?あ、は、はい!」


 フォウス殿の動き出しは早かった。剣を握ると窓の枠に足をかけ、最後に俺たちに一言だけかけて飛び降りて行った。


「もし俺が死んだら、この町を頼みます、か……やなこった」

「シノブ様!?」

『うんうんそんなのごめんだね。全然『自由』がない!』

「天渡様まで……」


 セリィ嬢が失望したような眼を向けてくる。だが――


「勘違いするな。俺たちは『自由』を軽んじてない。『自由』はいつだって――」


「「「『己が力で』」」」


「へ?」


 フォウス殿が死んだら俺たちの『自由』がなくなる。ならどうするか?決まってる。


「守るぞ、この町、そしてフォウス殿も。『自由』のために」


 俺たちは禍々しいオーラを放つ敵の元へ、駆け出した。

 

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