冒険しようぜ!
テンプレって難しいね……。
ガンの町に到着した翌日の朝。
「冒険しようぜ!」
『冒険ーーーっ!!』
俺と天渡は騒いでいた。
「宝探しでもするのかい?ならいい場所知ってるよ僕」
「『ホント(か)!?』」
「知りたい?宝を手に入れられるって約束できる?」
「『任せて』」
「我が主、天渡、落ち着いてください。ずっと一緒にいたミラが私以上に情報を持っているはずないではないですか。まったく」
お?それもそうか……?天渡を見る。天渡も同意が欲しそうにこちらを見ている。ならばここで考えるべきは一つ。『自由の白星』知能度ランキングである。
俺調べではこんな感じだ。
1位 イリス
2位 俺
3位 ミラ
4位 天渡
確認したことはないけど皆概ね同意見だと思う。つまり――
「騙したのか?ミラ……天渡以外の奴を……」
『ちょっとねぇねそれどういう意味!?むきーっ!』
「ははは冗談だ許せ天渡」
天渡の頭を撫でておく。昔から天渡はこれで最終的には大人しくなるもんだ。しばらくは怒ってますを前面に出して騒いでるんだがなぁ。ちょろいぜ。
『むきーっ!むきーっ!むきむきーっ!』
天渡は怒る。両拳を上に掲げて。……怒ってるんだよ、な?体勢と最後のむきむきでこれもうわかんねぇな。まぁ取り敢えず撫でておくか。
「流石に兄妹というだけあってできることの幅が広いですね。天渡が狙ってやってるのだとしたら最下位はミラということに……」
「ちょちょちょ待って待って。どうしてそこで僕が最下位になるのさ?3位と4位の順位変動で最下位はシノブでしょ?」
「我が主は断トツで1位ですが?2位が私、3位が今天渡になりました。我が主の叡智を理解できないミラなどランキング圏外で十分です」
「あんだとコラーっ!むきーっ!シノブむきーっ!」
「私が撫でてあげましょうか?」
「むっきーーーっ!!」
その後喧嘩両成敗ということで2人の頭も撫でといた。これが平和的解決策というやつだ。ははは!
◇
「それで今日の予定ですがリーン嬢は先日の馬車襲撃の件で3日ほどこの町に留まるそうですし、私たちは自由行動でいいでしょう。先にカイゼラフ公爵家に向かってもよいのですが折角の初めての人里、色々見て回りましょう」
異世界で初めての町、行きたいところはいっぱい……いっぱい……
「お前らどこ行きたい?」
『闘技場!』
「人が見下ろせるところ」
「我が主といられれば何処へでも」
統一感がねぇ。天渡は闘技場で戦いたいんだろうが確実に人死にがでる。その上「消化不良だよっ!ねぇね戦って!」という未来まで見えた。そもそもこの町に闘技場はない。ミラはミラで何故そんなところに行きたがるのか怖くて俺には聞けない。なんだかミラは外の世界に出てから自意識が高くなった気がする。イリスは相変わらず欲がないな。
「行きたいところがないなら冒険行こうぜ」
「『???』」
天渡とミラ、2人揃って「行きたいところ言ったよね?」と不思議そうな顔をしている。だが闘技場はないし人を見下ろせるところは俺が見てて面白くない。却下だ。
冒険に行くならまずは定番の冒険者ギルドか?この町にあったら登録して草むしりとかやるか。
『ねぇね冒険ってなにするの?』
「草むしり」
「却下」
『それめちゃくちゃつまんないやつぅ!!』
文句が多い奴らだ。草むしりは草むしりでも薬草採取と言えばよかったか?冒険はここから始まるのが定番なんだがなぁ。
「では町の外に出て適当に魔物と戯れましょうか。一応この町にも冒険者ギルドという組織はありますが登録していきますか?お約束が起きるかもしれませんよ?」
その言葉を聞きニィっと自然と口角が上がる俺たち。やっぱり人生には刺激が必要だよな。
「では、行きましょう」
◇冒険者ギルド ガン支部 とある受付嬢の視点◇
ガンの町は平和だ。他の町と比べて近いところに強い魔物がいない。この町を拠点に戦う一番強い魔物って言えばやっぱりデビルアイになるだろう。あれは厄介だ。視線だけであらゆる状態異常をかけてくる。でもそれもパーティーを組んでいれば各種耐性ポーションぶっかけで解決する話。そもそもがそんな出現率高くない。
ではこの町に問題はないのか?というとそれは違う。問題がないなんてありえないのだ。そして私が目下抱えている一番面倒な問題といえば――
「セリィちゃ~ん!俺昨日依頼でがっぽり稼げてさぁ、一緒に食事でもどうよ~?俺奢っちゃうよ?奢っちゃうよ~!」
「おいバガス!なに勝手に俺のセリィちゃんに声かけてんだ!死にてぇのか!?あぁ!?」
「こんな低能共ほっといて俺と遊び行かね?俺いい店知ってんだよね!あそこマジ最高だから!絶対ハマるから!ね!?」
これである。この町は冒険者の質が低い。それは強さという面だけでなく性格的にもだ。むしろその二つが合わさってもう救いようがないのがこの町の冒険者である。
私は心の中で溜息一つ。もう何度目かわからない拒絶の言葉を口にする。
「ごめんなさい、仕事があるし疲れてるので。あとここは冒険者窓口だから用がそれだけなら退散願います」
私のその言葉に目の前の冒険者たちは特に気にした様子もなく、変わらず話しかけてくる。
(はぁ……この仕事辞めようかな。でもお給金いいしここからでたらもっと強引な手段とってくるかも……はぁぁぁぁ。何処かに誠実で正義感溢れる強い冒険者の方でもいないかしら?そして私を救ってくれないかしら~~~……)
決して顔には出さず、でも内心でいつもの妄想を膨らませる。あぁ、私の王子様……。
と、その時だった。冒険者ギルド内部がざわっっと騒がしくなったのは。
(なにかしら?)
聞こえくるは口笛や浅ましい発現。「超かわいい」とか「俺あの娘好みだ」とか。それを聞いて私は町娘が依頼を出しにやってきたのだと思った。でも目の前には先程からいる冒険者でここからだと視線が通らない。しかもその冒険者も入口のほうを見て荒い息を吐いている。……キモッ。
「あの~受付の前、あけて貰えます?依頼者さんが来たようなので――」
「依頼者、ではないがな」
美しく、力強い女性の声。気付けばその騎士様はそこにいた。
「どいて貰えるか?邪魔だ」
白銀の騎士。それはまるで生きた竜が人の形をしているかのような、見るだけで頭が下がる魅力がそこにはあった。
『ねぇねかっこいいよーっ!(ぼそ)』
「絵になるねこれは(ぼそ)」
「流石は我が主 (はっきり)」
見れば騎士様の側にはこれまた絶世の美女たちが3人いた。あどけなさが残る白銀の美少女と、見るだけで女でも惚れてしまいそうな白銀のエルフ。そしてどこか神々しささえ感じる白銀の女戦士。
(これは、夢?)
まさか本当に私を救う王子様が――
「おうおうへへへ、なぁ嬢ちゃん、俺昨日依頼でがっぽり稼げてさ~!何処か飲み行かね~!?俺奢るよ!奢っちゃうよ~!」
は?
「おいバガス!なに俺より先に声かけてんだ!?死にてぇのか!?あぁ!?」
ほ?
「こんな低能共ほっといて俺と遊び行かね~?俺いい店知ってんだよ!あそこマジ最高だから!4人でも全然オーケーだから!絶対ハマるから!ね!?」
ふ~ん。
「最っ低……(ぼそ)」
見境なしね、こいつら。そう思って無意識に口からでていた言葉は、目の前にいたこいつらに聞こえてしまったみたい。
「セリィちゃん嫉妬かよ?また今度相手やっから、な?」
「おいバガス!何勝手に予約してんだ!死にてぇのか!?あぁ!?」
「低能共め。セリィちゃんは俺のだっつってんだろ」
こいつら……!!
「聞くに堪えないな、少し黙れ」
「「「っ!?!?」」」
それは威圧、なのだろう。騎士様から発せられる有無を言わせぬ力強さに、ギルド内が静まり返った。
「いいか――」
それはまるで
「二度とこの場所に来るんじゃない――」
本物の竜を幻視するようで
「――不愉快だ」
私と虜にして離さなかった。
「行け」
「「「は、はいぃぃぃっ!!!」」」
あまりの迫力に、冒険者共は雲の子を散らすように去っていった。
「さ、手続きを始めてくれ。冒険者になりたいんだ」
これが私、セリィと白銀の騎士様との出会いだった。
('◇')ゞ




