『鏡の中の笑顔』
『鏡の中の笑顔』
人は勝ち続ける事は果たして可能なのか?
弱い相手だけを選んで闘いを挑んだり
そもそも、闘う事をしなければ
少なくとも負ける事はない
人生は毎日が闘いの連続だ
のほほんと惰性で生きていない限り
人は今日も何かに挑み続ける
闘う人の背中にはいつも見とれる
心からの拍手と声援を送りたい
負ける事を決して恐れない
勇敢なチャレンジャーになりたい
見とれるより
見とれて貰う人でありたい
表参道のおしゃれな街並み。
通りを行き交う大勢の人々。
オープンカフェ。
その店で心陽が店員としてアルバイトをしていた。
心陽がレジで客の対応をしていて、
「お待たせ致しました」
「こんにちは」
客として、星野がいて、
「あっ!」と心陽が会釈をする。
公園では、心陽と星野がベンチに座っていて、
「すみません。仕事で忙しいのに……」
「いえ、ちょうどお昼休みだったんです……この前は長野まで本当にありがとうございました」
「いえ……その後、どうです? それも気になったもんですから」
「……まだ一言も喋ってくれないんです」
「……そうですか」
「……」
「あまり深く考えない方がいい」
「……」
「人は時として、独りよがりになりがちです」
「……」
「ああしてやったのに……こうしてやったのに何故って」
「……はい」
「あの子の気持ちになって考えてあげる事です」
「……」
「虐待をされていて……」
「……」
「一番近くにいた母親を殺されて……それを実の父親がやったと知って……場合によっては自分も殺されたかもしれなかった」
「……」
「それは僕らが想像しても想像しきれない程の相当なショックだと思うんです」
「……」
「もう少し、ゆっくり待ってあげたらいい」
「はい」
「決して慌てちゃいけない」
「はい」
「あなたの誠意は……」
「……」
「思いは必ず伝わってる」
「……」
「……そうだ! 明日、オーディションなんですよね?」
「はい。 ……でも、誰から?」
星野が少しどぎまぎして、
「劇団の……」
「この前会った、茶髪で髪がクリンクリンした……」
「そう、そう」
「やっぱり、あいつか」
「……聞いていいですか?」
「?」
「……どうして女優を?」
「亡くなった母親も女優だったんです」
「……そう」と星野が立ち上がり、
「……頑張って下さい」
「はい」と心陽も立ち上がる。
「応援してます」
「ありがとうございます」と心陽が笑顔で。
心陽の笑顔とその背中越しから照らされる太陽が重なって、星野にはとても眩しく輝いて見えたのであった。
翌朝。
雲一つない快晴だった。ずっとこの空をのんびりと眺めていられたらどんなに幸せだろう……そんな空が広がっていた。
でも、そんな事をしてる事も、思う事も許されない位に今日も慌しく街は動いていた。
そこは霊園だった。
そこには母親の美晴が眠る墓があった。
心陽が墓前で合掌している。
【夢はなんですか?
それは叶いましたか?
幸せでしたか?
笑顔でいられましたか?
泣かなかったですか?
弱音は吐きませんでしたか?
自信はありましたか?】
その場所は大きな劇場だった。
劇場の入り口には『演劇集団・ガラクタガラパゴス 次回公演・女神が女神に返る朝 オーディション会場』と書かれた看板が置いてある。
劇場の中のオーディション受験者の女性控え室では、心陽が部屋の隅の方にいて、
「……」
皆が好奇な目で心陽を見ているようだった。少なくとも心陽にはそう感じた。
品川奈緒が馬渕ヒカルと望月杏を引き連れて来て、メイク台の真ん中が今まで使っていた人が避け、スーッと空く。
「……」とその様子を心陽も見ている。
奈緒らがその空いたメイク台の席に座る。
「……」と奈緒が鏡越しに心陽を見て、その隣に座ったヒカルがわざと大きな声で、
「ヒロインのマリアは奈緒さんで決まりよ」
「オーディションがあるんだもの。それは分からないわ」
奈緒の逆隣に座った杏が、
「そういう謙虚なところが素敵」
「……」と奈緒がもう一度、鏡越しに心陽を見て、
「……」と心陽が奈緒と目が合い、直ぐに逸らす。
心陽の元に吉本麻貴が来て、
「隣いい?」
「……どうぞ」
「ガラガラじゃない人、見つけた。私は劇団・感騒地帯の吉本麻貴。よろしくね」
「私は劇団・アクターズチョイスの相良心陽です」
「知ってる。この前のアクチョの公演、観たから」
「本当ですか?」と心陽が嬉しそうに。
麻貴が周りを見渡して、
「思いっきり、アウェーだけど頑張ろう」
「はい」
劇場の舞台上ではオーディションが行われていて、観客席では演出家の佐久間日出彦がマイクで、
「じゃあ、次」
佐久間の他にも数名の審査員がいて、オーディションの受験者が、
「ありがとうございました」と挨拶し、下がっていく。続けざまに次の受験者が挨拶し、課題(演技)をこなしていく。
そのオーディションの様子をビデオカメラが撮影していく。
舞台袖ではオーディションの様子を心陽が見ていて、
「……」
心陽の隣にいた麻貴が、
「次は品川奈緒だ」
「……」
舞台上では奈緒がオーディションを受けている。他の受験者とは一線を画すような舞台演技や度胸、風格で。
舞台袖では麻貴が、
「……やっぱすごい」
「……」
劇場の観客席の審査員席では、佐久間に関係者が書類を見せる。
佐久間が書類を見て、
「次」
心陽が舞台に上がる。
「劇団・アクターズチョイスに所属してます相良心陽です。宜しくお願い致します」と頭を下げる。
舞台袖では奈緒が、
「……」
舞台上では心陽が課題(演技)をこなしていく。
「……」と奈緒がじっと舞台上の心陽を見ていて。
舞台上では心陽の台詞が一瞬飛んで。
舞台袖では奈緒の傍らにいたヒカルと杏が笑って、
「……」と奈緒はくすりともせず。
舞台上では心陽が持ち直して、課題(演技)をこなしていく。
【毎日が
一歩進んでは一歩下がっての繰り返しだ
一歩も進んでないのに
一歩も二歩も下がってしまうのなんて
よくある事だ
あの日から
私は進んでいるんだろうか?
私には……分からない
怖くて
振り返る事は出来ないから】
夜になって、劇場の関係者出口から心陽が出てくる。
黒田が待っていて、
「未来の大女優さんの追っかけ、出待ちです」
「……」と心陽がホッとしたように。
劇場近くの道では心陽と黒田が歩いていて、
「ガラガラっていったって、そんなに大した事ないだろ?」
「……」
「……その顔は大した事ありましたって顔だな」
心陽が苦笑いを浮かべて、
「……そんなにすごい?」
「……全然……ただ……」
「……」
心陽が手を挙げ、
「大した事ある、ないって言う前に、私、相良、思いっきり台詞、飛んじゃいましたあ」とおどける。
「お主もまだまだよのう。明日からまた、修行を重ねるがよい」と黒田が何故か時代劇風におどけ返す。
【上手に笑えてますか?
鏡を貸して下さい
いや、やっぱりいらない。
見たくない。
笑え。
ただ、何も考えず笑えばいい】
心陽が暮らすアパートでは心陽が帰ってきて、
「ただいま」
尊はコンビニ弁当の封すら開けておらず、
「……どうしたの?」
「……」
心陽が壁の時計に目をやり、
「もうこんな時間だよ」
「……」
「どうして食べないの?」
「……」
「毎日、毎日、コンビニの弁当ばっかじゃ、飽きるって?」
「……」
「こんなもんばかり食べていられないって?」
「……」
「劇団の稽古に、バイトにオーディションに、毎日、忙しいの。正直、くたくたなの」
「……」
「思っている事があるなら」
「……」
「言いたい事があるなら、はっきりと言えばいい」
「……」
「言ってくれなきゃ、何も分からない」とコンビニ弁当を手で払いのける。
「……」と尊が怯えて。
「……」
心陽が漸く我に返り、
「……」




