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女神が女神に返る朝  作者: そらあお
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『姉弟』

『姉弟』




 一台の車が中央自動車道を走っていた。

 星野が運転する車だった。助手席には心陽が座っていた。


 心陽が星野に向かい、

「無理を言って……」

「いや……」

「……」

「……」


 これ以降は二人の間に会話らしい会話はなかった。

 

 そうこうしているうちに車窓の景色はいつのまにか雪景色へと変わっていったのであった。



 星野の車が停車していた。そこは長野県の駒ヶ根市内にある児童施設所の駐車場だった。



 心陽が児童施設所の職員の女性に案内されてきて、

「あの子です」と職員の女性が指差した。


 部屋の中で戯れている他の子供とは離れ、尊が一人ぼっちでいた。


「……」

 心陽は尊をじっと見た。


「問題が二つありまして……」

「……」

「一つは事件のショックからなのか、全く話そうとしてくれないんです」

「誰とも?」

 職員の女性が頷き、

「……もう一つは……」

「……」



 星野の車が停車している児童施設所の駐車場では、

「……」

 星野が車の中から、施設の方に目をやったのであった。




 長野県警駒ヶ根中央警察署の刑事課では、草野と水沢が、

「井津が言っていた、殺さないといけないもう一人って……」

「恐らく……家に出入りしていたという被害者の愛人と思われる三十代から四十代位の謎の男……もしくは……」

「もしくは?」

「……」

 



 走る車の後部座席で尊が眠っていた。

 助手席の心陽が運転している星野に向かい、

「あの……」

「いい」

「……」

「劇団の仲間とかじゃなく、私に頼んだって事は……」

「……」

「あれこれ話したくない、詮索されたくないから……じゃないですか?」

「……ごめんなさい」と心陽が上着のポケットの中の催涙スプレーを星野に気づかれないようにそっと鞄の中に仕舞う。

「本当に助かりました」

「……」

 星野は静かに優しく車を走らせていくのであった。




 そこは心陽が暮らすアパートだった。前の道には星野の車が停まっていた。


 部屋の間取りは1K。


 星野が玄関のところで、

「それじゃ」と帰ろうとする。


 心陽が来て、

「……」

「……どうかしました?」

「……ちょっといいですか?」

 心陽が先に部屋の方へ行く。

「……ドアは開けておくね。お邪魔します」

 星野が靴を脱ぎ、部屋へと上がっていく。


 ベッドの上では尊がうつ伏せの状態で寝ている。


 星野が来て、

「……」


 心陽が尊に掛けてあった布団を捲る。

「……」

「……」


 心陽が尊が着ていた服を捲り、背中部分を露出させる。

「……」

「……」


 ベッドで寝ている尊の背中には無数の青あざがあった。

「……虐待だと思います」

 心陽、見ていられず、尊の服を戻し、布団を掛ける。

「……」




 翌朝は晴れ渡っていた。天辺てっぺんだけだが、遠くに富士山も見えていた。


 草野と水沢が児童施設所に来ていた。昨日、心陽に応対した職員の女性が、

「尊くんならお姉さんにお願いして、当分の間、預かって貰う事になりました」

「お姉さん?」




 長野県警駒ヶ根中央警察署に戻った草野と水沢は、

「井津尊には血の繋がらない姉がいて、東京で暮らしています」

「その姉が……」

「恐らく」

「その血が繋がらないって……」


 水沢が資料を見ながら、

「えーと……井津博は二回結婚しているんですが……」

「……」

「井津尊は博の二回目の結婚、再婚相手である香央里との間に出来た子みたいですが……」

「……」

「その東京で暮らしている姉は……博の初婚の相手だった女性の連れ子だったみたいです」

「そうすると……」

「その姉と井津尊は……」

「父親も母親も違う」

「そうですね」

「……」

「何となく分かるような気がします」

「?」

「親戚も皆、殺人事件を起こした男の息子を預かりたがらないし、ましてや、母方の親戚なんて、娘、姪を殺されたんですから……」

「……」

「児童施設の人も已むに已まれずだったんじゃないですか」

「東京に行こう」

「はい」

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