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女神が女神に返る朝  作者: そらあお
29/31

『命の灯火』

『命の灯火』




 人生は儚い


 形あるものはやがてその姿を失くす


 脳裏に浮かぶ風景や思い出が


 時折、人をただ笑顔にしたり

 励ましてくれたりする


 憶えています


 今の今まで忘れた事などありません


 あの時は有り余る程の時間があったのに

 今は突然、始まってしまったカウントダウンに慌てふためく


 戻れない


 けど


 戻りたい




 その日、星野はかかりつけの欧仁大学付属病院にいた。

 

 主治医の中富の診察を受けていた。


「男の約束でしたね」

「はい」

「星野さんには病状は包み隠さず話すと」

「ありがとうございます」

「現在……」

「……」

「ステージIV」

「……」

「……見立てとしては余命三ヶ月といったところです」

「……そうですか」と星野には明らかに落胆の表情が読み取れた。

「あくまでも、現段階の見立てですので……もっと」

「三ヶ月ですね……分かりました」

「……」





 星野は病院の帰りに演劇集団・ガラクタガラパゴスの事務所に立ち寄った。


 そこで劇団の専属弁護士の男と会った。


「これが調査結果です」と弁護士が持っていた封筒の中に入っていたレポートらしき資料を星野に見せた。


 星野が資料に目を通していき、

「これは本当ですか?」

「間違いありません」

「(星野が笑みを浮かべて)」

「……」

「……いたんだ」

「……」

「自分にも家族が……」

「……」

「……いたんだ」

「はい」




 その日の夜も相も変わらず、高速道路ではたくさんの車が行き交っていた。


 そのガード下で二十歳前後と思われる一人の女性が芝居の稽古をしていた。



 会いたい人だった。

 その人が目の前にいる。

 自分の目の前にいる。


 思わず立ち竦んだ。

 いや、立ち竦んだというよりは

 見とれてしまったのかもしれない。

 二十数年前の愛しのあの人のように。

 目の前にいるこの女性の母親のように。

 目元の辺りなんかあの人にそっくりだと思った。

  


 女性が誰かの視線を感じ、我に返り、

「……」


 その女性は心陽であった。

 心陽を見ていたのは星野であった。


 星野は動揺を押し隠すように、

「ごめんなさい」

「いえ……」

「見とれてしまいました」

「(照れて) 」

「女優さんですか?」

「……小っちゃな劇団ですけど」

「そうですか……素晴らしい」

「……」

「お邪魔しました。寒いので、風邪をひかないように……頑張って下さい」と星野がその場を立ち去っていく。

「ありがとうございます」


 星野は振り向きたかった。

 まだまだ話したい事がたくさんあった。

 聞きたい事がたくさんあった。

 それでも、星野は振り向かずにその場を立ち去った。

 ただの偶然を装って。

 ただの通り人を装って。




 星野が女神が女神に返る朝の舞台構想を世間に発表した時に答えたとある雑誌のインタビューがあった。


『最後にこの作品は星野さんにとって思い入れのあるものだとお聞きしましたが?』

『そうですね……何とか間に合ってよかったと思ってます』

『出展予定の芸術祭にですか?』

『まあ、そんなとこです』

『ところで、話は変わりますが、星野さんはご結婚はなされないんですか? おモテになるのに』

『それがちっともモテないんですよ。若い頃はモジャモジャ頭だったし』

『前にお若い頃の写真、拝見しました。あれって、天然パーマなんですか?』

『実は』

 和地が来て、

『申し訳ありません。次の雑誌のインタビューが……』

『ごめんなさい』と星野が立ち上がる。

『ありがとうございました』




 星野が走る車の後部座席に座っていて、その隣に和地がいて、和地が、

「オーディションは参加しないのか?」

「録画を頼む」

「分かった」

「ちょっと寄り道してく」

「どこに?」

「ちょっと……その先の交差点の所で降ろしてくれ」



 星野は一軒の店を訪れていた。

 その店は美晴と最後に別れた焼き鳥屋であった。


「ご注文の品です。ありがとうございました」



 星野はテイクアウトした焼き鳥を手に、向かった先があった。


 それは美晴が眠る墓だった。


 星野は墓前で合掌した。


【ようやく夢が叶うよ……


 あの子を……見守ってやって欲しい】


 星野がテイクアウトした焼き鳥の封を開け、

「いただきます」と焼き鳥を食べていく。


【君は怒るだろうか

 いつもみたいにちょっと拗ねるのかな

 それとも羨ましいと微笑んでくれるのかな

 

 僕もあの日から食べてない

 

 一緒に食べようと思ってたから


 君と一緒に食べたかったから】


 星野が焼き鳥を一本だけ食べ、残りは美晴の墓前に捧げる。


 星野が墓を見つめて、


【残りは近いうちに一緒に……】


 星野が空を見上げる。











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