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女神が女神に返る朝  作者: そらあお
23/31

『空が晴れた日には』

『空が晴れた日には』




 晴れた日の空が好き

 遠くどこまでも透き通っている


 太陽が眩しい

 思わず顔を背ける


 それでも懲りずに空を見上げる


 空が晴れた日には

 大好きなおかずをいっぱい詰めた

 お弁当を作って

 特に目的なんかなくていいから

 ぶらっと散歩にでも行きたいね


 明日も明後日も

 その次の日も次の日も

 毎日、こんな空が見れるなら

 何も言う事はないけれど


 きっといつかは……


 いや


 お腹が空いてきたね


 楽しみにしていたお弁当を広げよう


 もう一度、空を見上げて

 

 今は確かに

 見上げた空が眩しいから




 美晴がベビーカーを押していく。


 ベビーカーの中には可愛い女の子の赤ちゃんがいて、

「(美晴が手を振る)」


 美晴の視線の先には環がいて、

「(美晴が目礼をする)」



 美晴と環が公園のベンチに座っていて、二人の傍らにベビーカーが置かれてあり、その中で赤ちゃんが、心陽がすやすやと眠っている。

「お腹、大きくなったね」と美晴が驚いたように言った。

「八ヶ月」と環がお腹を擦りながら答えた。 


 環が会社を退職後、直ぐに結婚をした。

 それから三ヵ月後に妊娠が分かった。


「一年振りくらい……だよね?」と環が言った。

「合わす顔がなくて……ごめんね」


 環がベビーカーを覗き込んで、

「心陽ちゃん、だいぶ大きくなったね」

「……ごめんね」

「もう謝らなくてもいい」

「……」

「でも、私のせいで……」

「逆に感謝してる」

「……」

「三十路になったら、やばいなあ。二十九歳と三十歳は凄い違うよなあって、いつもどこかで思ってたから」

「……」

「ギリギリ二十代のうちに結婚出来て、色々な意味で体面が保たれました」と環がおどけて敬礼をする。

「……環ちゃん」

「かなり脅したけどね」

「……」

「旦那に結婚する気あんの、ないのって」

「(美晴が笑みを浮かべて)」


 環がもう一度、お腹を擦って、

「おかけでこの子を授かる事が出来た」

「……」

「だから、美晴には感謝してる」

「ありがと」


 環がベビーカーの方を見て、

「夜泣きとかする?」

「する。最近はかなり激しい」

「恐怖ぅ」

「食事は? もう離乳食?」

「うん。だいぶ食いしん坊」

「お母さんは気をつけないと、太るタイプだったら、注意しないとね」

「最近、少し太って困ってます」

「……面白いね」と言葉とは裏腹に環の顔は笑ってなく。

「……」

「面白いっていうよりは不思議」

「……」

「二年前位になるのかな」

「……」

「美晴が感騒地帯の舞台に出てから、仕事が少しずつ増えていってさ」

「……」

「いつも話してたよね」

「……」

「どんなドラマに出たい? ……恋愛物がいい? ……」

「それとも教師がいい? OLもやってみたいなって」

「悪人の役……思い切り性格の悪い役、美晴に出来る? って……」

「出来る、出来るって、言い合いになった事、あったよね」

「あった、あった」

「……」

「それがさ……」

「……」

「二年後に……」

「……」

「夜泣きはどう? とか、離乳食がどう? とか、二人で話してるなんて、想像もしてなかったよね」

「そうだね」

「そうやって考えると……」

「……」

「未来ってさ……」

「……」

「何だか怖いよね」

「……」

「……」

 

 美晴が空を見上げた。

 環も同じく空を見上げた。


「そうだ」と美晴がベビーカーに掛けてあった紙袋を取り、

「お弁当、作ってきたんだ」

「美晴がお弁当?」

「意外?」

「意外」

「五時起き」

「収録の日でも、なかなか起きれなかったのに」

「今は無作為に鳴り出す、天然の目覚ましアラームがありますから」と美晴がベビーカーの中の心陽を見る。

「そういう事ね」

「食べよ」と美晴が弁当を広げていき、

「食いしん坊が目を覚ます前に」

「これ、私も……」と環が美晴に一枚の封筒を渡す。


 美晴が封筒を手に、

「……見ていい?」

「どうぞ」

「……これ、何?」


 封筒の中には宅配便の送り証の控え。


「心陽ちゃん、もう直ぐ、一歳の誕生日でしょ? 宅配で送っておいた。一応、送ったっていう証」

「……環ちゃん」

「何が届くかは届いてのお楽しみ」

「ありがと」

「お涙頂戴の感動の手紙だと思った?」

「……思った」

「誰がいつも逆らってばかりいた小生意気な女優に手紙なんて書くものですか」

「言うね」

「手紙を書く位なら……」

「……」

「これからも思った事は……」

「……」

「……直接言うよ」

「うん」

「……で……やっぱり、ちょっと太った?」

「ダイエットしてます……もういい、全部、食べて」と美晴が弁当が入ったタッパーを環に渡すというより、押し付け、

「全部、食べろ」

「無理だよ……一緒に」

「食べない」

「美晴ぅ」

「絶対に食べない」


 ベビーカーの中の心陽が起きて、泣き出し、

「怪獣が目を覚ましてしまった」と美晴が冗談ぽく肩を落としたのであった。




 美晴の暮らすアパートでは、部屋には誰もいなくて。

 

 窓の外は雨。


 部屋のテーブルの上に木を素材にしたおままごとの知育玩具が置かれてあり。


 アパートの部屋の扉が開き、美晴と心陽が帰ってくる。


 心陽は帰ってくるなり、よちよち歩きで、テーブルの上のおままごとの知育玩具で遊びだす。


 美晴が濡れたタオルを手に来て、

「またそれで遊ぶの? 心陽、手を拭いてからだよ」と美晴が心陽を手を拭いていく。


 美晴が窓の外を見て、

「雨、止んだじゃん」と窓を開ける。

 


 外では急に晴れ間が広がり、遠くでは虹も広がっていた。


 美晴は遠くに広がる虹には気づかず、

「心陽、少し雨に濡れたから、着替えるよ」と窓を閉め、たんすの引き出しを開けた。

 


 たんすの上には環から貰った宅配便の送り証が置かれてあった。



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