『舞台の幕が開く』
『舞台の幕が開く』
決意は伝わる
思いは伝わる
表情を見てればよく分かる
その目を見ればよく分かる
最初は楽しいと思って始めた事だったとしても
毎日が楽しい事ばかりじゃなかった
大げさでも何でもなく
辛い事の方が多かったかもしれない
結果は時として残酷だ
何の為に
誰の為に
何を求めて
何を生きがいとして
何を手に入れたいが為に
何が本当にしたい事なのか
時々、分からなくなる事もあるけれど
信じた道をただ行く
自分を信じて、ただ行く
人間だから
出来れば
ほんの少しでもいいから
幸運も期待しちゃうけど
結果は恐れずに
自分の信じた道をただ行くだけだ
ほら
幕が開いた
みんな、みんな
君だけを見てる
君だけを祈りを込めて
見つめてるから
劇場の入り口では客の入場も一段落した様子で閑散とした様子だった。
女神が女神に返る朝がポスターが貼られてあり、ポスターの中心には心陽がいた。
大勢の観客で席が埋まっていた。
場内が暗転し、舞台の幕が開き、開演していく。
星野が運ばれた欧仁大学付属病院のICUでは、中富を始めとした医師たちによる懸命な治療が行われていた。
予断を許さない状況であった。
それでも、星野は命を繋ぎとめていた。
生きる事をまだ投げ出してはいなかった。
星野が救急車で運ばれる寸前、意識が混濁していく中で、和地に向かい、
「舞台の撮影を……」
「分かってる」
「それとは別に……」
「うん?」
「マリアだけを追いかけたカメラを……」
「……」
「映像も頼む」
「分かった」
星野が救急車の中に運ばれていく。
星野と和地はアメリカで出会った。年齢は和地の方が一つ上であった。
星野は演出家として、和地は役者として、お互いの存在を励みに修行を重ねた。
世界は広い。
アメリカは広い。
和地はその後、自分の実力を悟り、夢半ばにして、役者の道を諦め、日本に帰国した。
星野がその後、アメリカでの修行を終え、日本に帰国後、自分の劇団を立ち上げる際に、真っ先に和地に声をかけた。
『役者としてもう一度、一緒に夢を追いかけないか?』というものだった。
和地は涙が出る程、嬉しかった。
和地は日本へ帰国後、役者の道を諦めた後は、定職にも就かず、何を目指すでなく、何を目標にするでもなく、ただ、昨日と同じような毎日を過ごしていた。
和地は星野の申し出を断った。
星野が自分が帰国後も、アメリカで歯を食いしばって、耐え抜いてきた事は容易に想像が出来た。
和地は、そんな星野に対し、甘えては、生半可な気持ちではいけないと思った。
和地は役者としてではなく、裏方として、働かして欲しいと星野に伝えた。
星野はそれでも、役者として頑張ってみないか、アメリカで共に頑張った、支えあった同志として、再起してみないかと言ってくれた。
和地の決意は変わらなかった。
星野が演劇集団・ガラクタガラパゴスを立ち上げて十五年余。
和地は星野を支えて、共に歩んできたのであった。
劇場の舞台では、女神が女神に返る朝の物語が進んでいった。
舞台上の心陽を、心陽だけを追っているカメラがあった。
その頃、心陽が暮らすアパートでは、長野県警駒ヶ根中央警察署の草野と水沢が尊に向かい、
「どっちに行く?」
「……」
「男の子なら、はっきりと自分で決めるんだ」
「……」