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女神が女神に返る朝  作者: そらあお
17/31

『それぞれがそれぞれを思いやり』

『それぞれがそれぞれを思いやり』




 無償の愛は存在するんだろうか?


 人は頭の良い動物だ


 だから、人は残念ながら打算的だ


 あの人の為にと考えたところで

 自分よりも大切なあの人の為にと考えたところで


 見返りは何もいらない

 無償の愛だからと言ったところで


 あの人の喜ぶ顔が見たいから

 あの人が幸せになるのなら


 これってもう打算的ではないのか?


 それは違うと言い切れるのか?


 いやらしく卑しくとも

 人は見返りを求めてしまう


 行動の逐一に

 分かり易い答えを求めたがる


 無意識に無我夢中に

 何も考えず、ただひたすらに

 生きていく事が出来たら

 

 

 人は頭の良い動物だ

 


 今も明日も、ちょっと前も

 常に何かを考えてる




 星野が喫茶店で美晴のマネージャーである三原環と会っていた頃、美晴はある場所を訪れていた。


 そこは劇団・感騒地帯の森園の部屋だった。


「ご無沙汰してます。去年は舞台に出させて頂き、ありがとうございました」

「今度、今宮監督の映画に出るんだって?」

「まだ……」

「……」

「……」

「今日はドラマに舞台に大忙しの売れっ子女優を急に呼び出してしまって申し訳ない」

「森園さんのおかげです」


 森園が手を挙げて、

「俺のおかげですか?」

「はい」

「じゃあ、図々しくて申し訳ないんだけど……」

「……」

「一つ頼みを聞いて貰いたい」

「……」

「……星野をどう思う?」

「……どうって?」と美晴がどぎまぎする。

「大丈夫。そっちの話じゃない」

「……」

「うちの劇団の関係者なら、君と星野が付き合っている事は知ってる」

「……」

「それを芸能界全体まで広がらないように、広がったとしても、あくまでも噂として、都市伝説の類として留めているのは、君の事務所のあのアンニュイな女性マネージャーの力だと思う」

「……」

「そっちの話じゃなくて……演出家としての星野をどう思う?」

「今は色んな舞台を観たり、たくさんの本を読んだり、映画を観たり……」

「知ってるよ」

「それに……最近は、時間を見つけては、舞台の脚本を書いたり」

「そんな事は誰でもやってる」

「……」

「それを演出家になる為の努力だってひけらかすのはちゃんちゃらおかしい」

「別にひけらかしては」

「分かってる。言葉選びが良くなかった」

「……」

「あいつはダメだって言う奴がいる」

「そんな事は」

「あいつは大きなチャンスを逃したってほくそ笑んでる奴もいる」

「……」

「俺も同じだよ」

「……」

「傍から見て、あいつを哀れんでいるそいつらではなく……」

「……」

「君と同じだよ」

「……」

「あいつはやれる」

「……」

「星野ならやれるって思ってる」

「ありがとうございます」

「だけど……」

「……」

「今のままではダメだ」

「……」

「あいつにも言ったけど、何かを変えなくてはダメだ」

「……」

「……そこで一つ」

「……」

「君に……頼みがあるんだ」

「……」




 美晴が息を切らし走っていた。


 美晴は目的の場所までたどり着いた。

 そこは一軒の焼き鳥屋だった。

「……」


 美晴は一つ、二つとゆっくりと息を整えた。

「……」


 まだまだ、正常の息遣いにまでは完全に戻ることはなかったが、

「……」


 美晴が精一杯の笑顔を作って、焼き鳥屋の暖簾をくぐった。




 星野は焼き鳥屋のカウンターの席にいた。


 星野は店の扉が開き、客が来店する度、

「……」


 星野は作り笑顔をした。


 一人目……二人目と……その笑顔が文字通りの作り笑顔で、どうしようもなくぎこちないのが自分でも分かった。


 また店の扉が開いて、客が入店してきた。


 星野はこれ以上ない笑顔を見せた。


「よお」とこれまたこれ以上ない位の笑顔で美晴が店に入ってきた。

「待った?」

「いや、さっき来たとこ」

「急にお店を変えて、それなのに遅れてごめんね」と美晴が星野の隣に座る。

 美晴が店主に向かい、

「ビール」と注文する。


 美晴が店内を見渡し、店主に向かい、

「おじさん、テーブル席が空いたらさ、移っていい?」

「あいよ」 

 星野が美晴を見て、

「……」



 美晴と星野が居酒屋のテーブル席に移動していて、美晴が、

「どうしても、今日はここの焼き鳥が食べたくなってね」

「……」

「相変わらず、ここの焼き鳥は美味しいね」

「ああ」

「最初に食べた時さ」

「……」

「そりゃもう、びっくらたまげたよね」

「ああ」

「……もう当分来れないのかな」

「……」

「……いや、たぶん……一生、来れないな」

「……」

「……いい思い出が出来た」

「……」

「そうだ、そうだ」と美晴がバッグの中からサングラスを取り出し、

「顔バレしないようにしないと」とサングラスをかける。

「……」

「……結論から言うね」

「……」


 美晴がジョッキのビールを飲んで、

「……私たちさ」

「……」

「……別れよう」

「……」

「以上」

「……」

「反論は生憎」

「分かった」

「……」

「……」

「……良かった」

「……」

「環ちゃんが、毎日、毎日、うるさくてさ」

「……」

「誤魔化せば問題ないって言ってんのに、馬鹿正直に熱くなるところは熱くなってさ。ルールは守りなさいって」

「分かってる」

「彼氏がいたらいけない。それが契約だからってうるさくてさ」

「……分かってる」

「……」

「……」

「わがまま言ってごめんね」

「(星野が首を振り)」

「……ごめんね」

「……〆の親子丼、食べる?」

「……食べる」


 星野が店員を呼び、親子丼を注文していく。

 それを美晴が見ていて、

「……」


 

 【何気ない毎日が愛しい

 目の前にあるいつもの景色が

 今日は昨日より何倍も愛しい】



 美晴の頬に一筋の何かが伝っていく。




 劇団・感騒地帯の森園の部屋では美晴がいて、

「……そこで一つ」

「……」

「君に……頼みがあるんだ」

「……」

「あいつにはアメリカに行けって言ってる」

「……」

「俺も若い頃、アメリカに行って、たくさんのものを見て、勉強して、吸収して」

「……」

「今の自分を形作ったと思ってる」

「……」

「あいつには片道切符の道筋だけはつけてやりたいと思う」

「……」

「それから先はあいつ次第」

「……」

「どうか……」

「……」

「どうか……あいつの背中を押してやってくれませんか?」と森園が頭を下げる。

「……」





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