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女神が女神に返る朝  作者: そらあお
10/31

『人は妬み嫉むもの』

『人は人を妬み嫉むもの』



 

 人間なんてあっちが良いとなれば

 次の日は皆が右向け右だ


 こっちが良いとなれば

 昨日の事は忘れて

 今日はもう左向け左だ


 偉そうな事は言えない


 自分もそう


 きっと個性を好む君だってそうかもしれない


 時として隣の人のyesが

 自分のyesになってしまう事もある


 なんにも考えない方が

 よっぽど楽だったりもするし


 今までの人生

 ほとんどが不正解だったし


 ほらっ

 隣の人が右を向いた


 どうする?


 どうしよ?




 心陽は演劇集団・ガラクタガラパゴスの次回公演の女神が女神に返る朝の稽古やバイトなど、心陽なりの精一杯の日常を過ごしていた。





 永島総合病院の尊が入院する病室では、心陽がりんごの皮をナイフで剥いていく。


「……」 

その心陽の様子を尊が見ている。





 演劇集団・ガラクタガラパゴスの稽古場では、次回公演の女神が女神に返る朝のヒロインの心陽を中心に立ち稽古が行われていた。


 奈緒が心陽を見て、

「(にやりと笑みを浮かべる)」





 夜になって、居酒屋のテーブル席に黒田が一人いて、店の扉が開き、黒田が、

「ここ」と手を挙げる。


 心陽が来て、黒田の向かいに座り、迎えた店員に向かい、

「生中」と一本指を立てる。


 黒田が店員が下がったのを見て、

「どうよ、どうよ」

「フラフラ」

「アルコール切れで?」

「当たり」


 店員がビールを運んできて、

「はい。かんぱーい」と心陽がビールを飲む。

「ガソリン入りました。生き返るぅ」

「軽くおっさん化してんな」

「うん?」

「何でもない」

「これ、食べていい?」と心陽が適当につまみを指して、

「言われなくても食うべ?」

「食べますけど、それが? いただきます」と心陽が食べていく。

「明日、劇場で通し稽古すんだろ?」

「あっ! ……」と心陽が分かり易く落ち込む。

「せっかく気分良かったのに……言いますかねえ」

「……悪い。ほら、ガソリン、ガソリン」と黒田がビールを勧めるも、

「立ち直れない」

「(困って)」と黒田。

「……あれ」と心陽が『本日のおすすめ』と書かれたボードを指し、

「あれ、頼んでいい?」

「1280円って……」と黒田。

「固形ガソリン」と心陽が微笑む。




 翌朝。


 一言で形容するなら、清々しい朝だった。





 永島総合病院の尊が入院する病室では、心陽が退院の支度をしていた。


 尊が服を着替え終わり、それを心陽が確認して、

「……あのさ」

「……」

「……あのさ」

「……」

「……これからも……」

「……」

「ずっとさ……」

「……」

「……一緒に暮らそうか?」

「……」

「……どう?」

「……」

「嫌?」

「……(首を振る)」と尊。

「(嬉しそうに)」と心陽。



 【良い事なら朝に起こって欲しい


 その日一日

 長く、長ーく


 笑顔でいられるから】





 そこはこの地域を代表するランドマーク的な大劇場だった。


 入り口の所などに貼られた、女神が女神返る朝のポスター。


 ポスターの中心は心陽で。



 劇場の舞台では女神が女神に返る朝の通し稽古が行われていた。


 観客席では佐久間や和地などが関係者がその様子を見ていた。


 劇場の舞台では、奈緒が、

「(口元だけ笑い)」


 奈緒が動きの拍子に心陽とぶつかり、心陽が倒れてしまう。


「……」と心陽が奈緒を見て。

「左にはけてよ」


 傍らにいたヒカルが、

「奈緒さん、この前も言ってたわよ」

「……ごめんなさい」と心陽が立ち上がる。

「……」と奈緒が心陽を見て。



 佐久間が観客席からマイクで、

「大丈夫か?」



 奈緒が同じく舞台上にいた五十嵐を見て、

「(目配せをして)」

「副社長、佐久間さん……ちょっといいですか?」と五十嵐が手を挙げて、



 観客席の和地がマイクで、

「何だ?」

 

 五十嵐が舞台上から、

「やっぱり違和感がある」

「何が?」

「この役は……」



 舞台上では五十嵐が、心陽を見て、

「マリアは彼女に合ってない」

「……」

「(笑みを浮かべ)」と奈緒。



 観客席から佐久間がマイクで、

「今さら、何を言う」


 五十嵐が舞台上から、

「みんながみんな、声に出さないだけで、そう感じている」



 舞台上では心陽が、

「……」



 その時、観客席の扉が開き、ゆっくりと舞台の方へと向かい、歩いてくる男の足。


 佐久間が振り返り、

「……主宰」と立ち上がり、

「おはようございます」と挨拶する。


 和地を始め、観客席にいた舞台関係者の皆がその男に向かい、挨拶をする。



 舞台上では心陽が、

「……」


 まるで凍りついたように一気に緊張感が高まる舞台上。

 


 観客席では星野が来て、佐久間の前にあったマイクを手に取り、

「龍、意見なら私が聞こう」



 舞台上では五十嵐が、

「お……おはようございます」

 他の演者も一斉に星野に挨拶をする。



 観客席では星野がマイクで、

「みんなよく聞くんだ。ガラガラの歴史上、脇役などの客演はあっても、ヒロインを他の劇団の女優が務めるなんて事はなかった」



 舞台上では心陽が、

「……」



 観客席では星野がマイクで、

「悔しさや妬み嫉みを感じるのはよく分かる」



 舞台上では奈緒が、

「……」



 観客席では星野がマイクで、

「快く思えないのもよく分かる……私は素直にそういう君たちのプライドを頼もしくは思う」


 舞台上では五十嵐が、

「……」


 観客席では星野がマイクで、

「でも……それを憎しみでしか感じられない人間はいらない。自分自身にヒロインのマリアを演じきるだけの素養や実力がなかったんだと自らを省みて、恥ずかしく思えない奴はこの場を去れ」



 舞台上では奈緒が、

「……」



 観客席では星野がマイクで、

「ヒロインだけで舞台は出来ない。台詞もなくただ殺される役、『ありがとうございます』の一言しか台詞のない役、ただ、そこにその他大勢として立っているだけの役……演出、プロント、照明、大道具、衣装、営業、事務、この劇場を掃除してくれる人や警備をしてくれる人まで……みんながみんな、自分に与えられた役目を手を抜かずに全うした時、舞台や物語は完成し、大切なお金や時間を使って観に来てくれるお客様に初めて感動を与えたり、こちらの思いを共有する事が出来るんだと思う」



 舞台上では心陽が、

「……」


 星野が観客席からマイクを手に、

「龍、配役は私が決めた。それでも意見があるなら聞くぞ」

「ありません」

「奈緒は?」

「……ありません」

「いつまでもガラガラ=星野俊道じゃない。今回の女神が女神に返る朝は私が若い頃に書き下ろし、ずっとあたためていた大切な作品だが、引き続き佐久間に演出を続けて貰うから、佐久間は心して励むように」

「はい」

「どうか……どうか、皆さん、宜しくお願いします」と星野が舞台(や皆)に向かい、頭を下げる。



 舞台上では心陽が、

「……」



 頭を下げる星野を見て、舞台上の演者や場内の関係者は固まったままで。



 

 劇場の楽屋裏の廊下を星野が一人、歩いていく。


 後ろから心陽が追ってきて、

「(振り向く)」と星野。

「……」

「君なら出来る」

「……」

「絶対に大丈夫」

「……」

「期待してます」と星野が歩いていく。

「……」と心陽が歩いていく星野の背中に向かい、お辞儀をする。


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