それは食べ物ではありません。
私、一十木夏希、ノイリオン内での名前はチョッキだが、その時はおそらく疲れていたんだと思う。
いや、確実に疲れていたんだろう。
元々友人の仁奈の勧め、かつ購入権が当選したということでプレイし始めたゲームだったけど、息抜きに、と仁奈に言われるくらいには多分くたびれていたんだと思う。
住人相手には、人と会話するということで取り繕うことはできていたけど、その実、誰もいない中で作業をしたり動いたりしているときは、かなり脳直で物を進めていたように今では思う。
薬草を採取し、スライムと戯れ、角ウサギと激闘し、普通のウサギと戦う。
そんな中だった。
街へと帰る途中の、スライムとの何度目かの遭遇。
プルンプルン、ぽよぽよとした動き。
透明感のある明るめの緑色に、やわらかそうでいてツルツルとした見た目。
実際に触るとプルプルしていて気持ちがいいソレ。
何度もいうけど、多分、くたびれていたのだ。
ジャンプしてきたスライムを片手で掴み、両手でハンバーガーを食べるみたいに持って齧ったのは。
そう、頭がつかれていたんだと思う。
あとデスペナルティがまだつかないレベルだったのもいけない。
ゼリーみたいだな。
やわらかそうだな。
緑色してクリームソーダとかそういう感じのゼリーみたいだな。
食べたらどんな味がするのかな。
もし食べたらダメなものだったとしても、死んでもペナルティないしな。
じゃあいいか。いただきます。
そんな感じだった。
まぁ結果としては味を感じる前に噛みついてちぎった時点で手の中からスライムは消えたんだけど。
そう。頭が疲れているとまともな判断ができなくなるんだなぁ。
そのときは全くそうは思わなかったけど、今振り返ると純粋にそう思う。
その話を何気なく仁奈にしたら、「つかれてるんだよ。寝なよ」と真顔で言われてしまった。内容はこのゲームで遊び始めた頃の話なのに、結構真剣にそう言われたから、今は普通に問題ないとは思ったけど逆らわずに大人しくログアウトしてゆっくり寝た。
スライムでその反応だから別の時の話はするのをやめて心にしまっておくことにした。