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古代宇宙史の謎、隠された太陽系  作者: 台星 周馬
1.「西暦2836年惑星間ワーブ通廊にて」
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木星の足跡

 暗闇にチカチカと赤いランプが点滅している。休んでいる最中に呼出の通信が入っている合図だ。

「こちら、マークス。なにかあったのか?」

コンピュータが反応し、自動的に回線を開いた。

「こちら、通信士。惑星間交通公団から連絡、木星前セクター330で太陽風トラブルが発生したため到着が3時間程度遅れるとのことです」

「了解、クライアントの学者さんたちにも伝えておいてくれ。各自シフトはそのまま」

「了解、通信終了」


やれやれ、これでお付き合いする時間も増えたという訳か…。


そんなことを思いながら、

「コンピュータ、ウェルシオ。現在地の表示をしてくれ、目の前のディスプレイに頼む」

「承知しました」

男性の無機質な声が反応をしたかと思うと、太陽系の地図を表示した。

「現在地は、火星から2.9BK。惑星間通廊セクター2944付近です」

「約半分くらいの距離に来て、太陽風トラブルか。公団も大変だな、アストロイドベルトだって、処理に困るのに、太陽風だとは」

マークスが利用しているのは、太陽系内の主要な交通手段である「ワープ通廊」と呼ばれる超巨大建築である。巨大な建築ではあるが、中は空洞になっていて、限定的な超空間となっており、空にかけられた高速道路である。惑星は公転をしているので、出口入り口は公転にそって設置されており、惑星の公転と併せて動く。一つの橋のようになっているのではなく、セクターモジュールという構造物によってなりたっており、各惑星の自転に併せて動いている。

 ワープ通廊が建造されたときはもてはやされたが、完璧な手段ではない。各船はそれぞれに合わせた、化学式反応炉と短距離ジャンプ装置を持っており、昔ながらの推進にも頼っている。


太陽風で損傷とは規模が大きなフレアでもあったか、と思った。仕方が無い事故なので、もう一度マークスは目を閉じて休むことにしたが、妙に目がさえて彼は眠ることは出来なかった。

自室の明かりをつけ、制服に着替えてから彼はデッキに出ることにした。窓の景色は通廊内はコーティングされているので、通廊がワープ稼働をしていなければ真っ暗、稼働していれば真っ白の殺風景だ。現在は、真っ暗だった。


警備戦艦「キッシャー」号。

これが彼が乗っている船だった。彼が通路を歩いていると、目の前に女性がいた、搭乗員であり、彼の仲間であるフィリーサだった。

「あら、団長。今夜は夜勤でしたか?」

「いや、そんなことはないが、目が覚めてしまって。それにしても珍しいな、太陽風でワープ航行停止中だって?」

「ええ、予定より少し遅れるみたいですが、備えていたこともあって、そんな大きな損害は出ていないと、通廊内ニュースで伝わっていました」

「ふむ、らしいな。ところで、お客様たちは大丈夫かな」

「学者の先生方ならば、おとなしくされていますよ。お行儀も良く、良いお客様ですね」

「それはよかった。依頼はきちんと遂行してナンボだからな。じゃあ、またシフトの時に」

「失礼します」


と、すれ違いの会話。

そのままマークスはラウンジに向かった。オープンラウンジは船の規模からさほど大きくはないものの、見晴らし良く作ってある。が、通廊内では意味のない状態になっていた。開けた窓は真っ暗のままだった。


「ウェルシオ、新しいニュースを表示、読み上げてくれ」

「はい、ユナイテッドニュースデスクから一覧を取得。読み上げます。6月26日、本日は惑星連合UP下、火星統一政府からテロの警戒情報があげられており、ダエダリア高原C開発地区にテロ警戒宣言がされました。テロで使われている武器がコロニー連邦CC連合体からではないかと疑惑がされ…」

次々にニュースを読み上げていく、ウェルシオはこの船のセントラルAIで疑似人格が与えられている。宇宙船といえば、数百年前までは機械の寄せ集め的なものだったが、時代が近代になるにつれ、どんなものにでもAI紛いなものが搭載されるようになっていった。その中で、宇宙船は最近のAIが搭載されるようになり、各デッキにそれぞれ特化したAIがおり、それらを統合する形で人格があるAIが船を管制制御までするようになっていた。

 この船、キッシャー号は最先端のAIウェルシオが搭載されており、オーナーで主人のマークスの下僕的存在だった。人格があることから、マークス意外は形の違う仕事仲間のように接している。まあ、エンジニアやメンテナンサーたちはそうでもないものもいるが。船自体は戦闘艦だ。軍隊でも強襲艦クラスでないと同じクラスの船はないだろう。マークスは元軍人の、いまのでは警備会社のオーナー兼トップの警備傭兵だ。


 現在、惑星連盟 United Planetsと、コロニー連合 Colony Confederacyは冷戦下である。大きな戦争を2回しているが、いずれも悲惨な引き分けに終わり、今では各地でテロのような散発的な代理戦争が少し起きている程度で、政治状態は安定している。


 いつも戦争の主題は、「資源」だ。


 コロニー連合側はいつも資源に乏しい。どうしても惑星連盟側の経済的支配にさらされやすい。ただ、技術では圧倒的にコロニー連合が強いため、駆け引きは日々激しいものになっている。


 コロニー側の技術が強い理由は、オーバーテクノロジーにある。その出処の大半は明らかになっていないが、太陽系内の各惑星の一部、それから、木星を中心としたところにあるらしい。惑星連盟側は気に入らない、自分たちが本来独占すべき技術を安々と盗まれ解析され取り入れられている。そのことも戦争の大きな原因の一つでもあった。

 実は人類にとって、地球外生命体の話はこの時代には当たり前になっていた。人類が地球を離れ、太陽系のあるゆる場所に進出することになったとき、人類は自分たちが最初に土を踏んだわけではないことを目の当たりにしていたからだ。どこに行っても、遺跡と呼ばれる未知の生命体の文字通りの遺跡群に出会っていた。最初は月、次は火星。最初は人類のごく一部だけに知られていたこの遺跡群も、やがて世間一般の知るところになった。隠しきれる程度の規模ではなかったからだ。

 ただ、この一般人からすれば、わけのわからない遺跡群は最初は大スキャンダルのネタだったが、歴史的遺跡と同じように、興味も極一部の集団以外、大して重要視されることはなくなっていったのだった。

それはあまりに数が多く、あまりに目にすることが多かったからである。結局は自然の一部にしか過ぎないとみるようになっていったのであった。しかしながら、ワープ通廊も、オーバーテクノロジーの産物でもある。人類はここ数百年、自分たちの技術を超えた技術で繁栄をしてきたのだった。


「こんばんは、マークス団長」

壮年の男性の声が聞こえてきた、少し細めで白衣を着ていた。

「こんばんは、レンモント博士。こんな時間にどうしたのですか?」

彼はフードサプライヤーからコーヒーを取り出すと、彼の隣に座った。

「いいかね?。目が冴えてしまって」

「これから行くところを考えたら興奮して寝られないのも無理ないですね、資料を読みましたが、実に刺激的なところだ」

マークスはちらと周りに目を配って、誰も聞いていないことを確認した。

「衛星カリストにある存在ですね」

「これまでで、最大の発見になるのかもしれない。スポンサーである惑星連合も大いに喜ぶ成果が期待できる」


学者が戦争しているわけでもあるまいに…

とマークスは思った。言葉を発する代わりに、自分もコーヒーを口にした。苦味が口に広がっていく。


「巨大なクレーターの中に新しい遺跡があることが確実だ。しかも巨大なピラミッドらしき物体、神殿のような建物、早くお目にかかりたいよ」


「まあ、わくわくすることはわかりますがね。コロニーサイドも黙っちゃいないでしょう。だから、俺たちのような警備会社をつけた。軍隊は動かせませんからね」

「君たちのような優秀な警備会社で良かったよ、下手すれば虐殺されて技術を奪われて姿を消す、なんてことは過去に何度あったことか」

「まあ、コロニーサイドは関係ない、と表明していますが、明らかに関与をほのめかして牽制をしているものも多くありますからね。警備会社をつけるのは賢い選択でしょう」

「頼りにしていますよ、カンナー警備会社の皆さんには」

「お任せください、仕事はきちんといたしますよ」


ピピッ

「ブリッジよりマークス団長」

通信が入り、彼はレンモント博士に断りを入れると、その場で応答をした。

「こちら、マークス。どうした?」

「惑星間交通公団から連絡です、修理が完了したため、これからワープに入るとのことです」

「了解、ヨーソロー」

館内放送で、ワープに入る旨が告知される。

「ウェルシオからマークス団長、実質的な遅れは2時間程度で済みそうです」

「…だそうですよ、レンモント博士」

「コーヒーも飲んでしまったし、私も自室に戻るとしよう」

「あとはお任せください」

手をひらひらさせ、マークスはレンモント博士を見送った。ラウンジの外側は遮光された灰色に染まっていた。


 マークスがブリッジにはいる。予定の時間より2時間くらい早いが、たまにあることなので、クルーたちはいつもどおり仕事を続けた。

 仕事と言っても、ワープ通廊を使用している時は公団のコンピュータ任せなので大してすることもないので、メンテナンスや情報の仕入れ、武器の改良や研究、書類仕事、そして、警備上使用するためのいわゆるパーワードスーツのメンテナンスばかりだった。

 マークスが艦長席に着く。

「報告」

「はい、ワープ通廊に発生した故障は修理がされ、先程ワープが再開されました。通廊内にいる船は300隻あまり、ほとんどが旅客と物流、軍用機が10隻程度」

「了解。まあ非武装地帯の通廊内で嫌がらせはないだろうからな。だが、一応警戒しておけ。どちらの軍内にも傭兵をよく思わない奴らがいるもんだ」

「イエッサー」

マークスは備え付けのタブレットコンピュータを手にすると、今回の軍からの依頼書を表示させた。今回の依頼主は、惑星連合木星集合体政府軍、いわゆるジュピトピア軍からの依頼だった。できる限りコロニーサイドには情報が漏れないように、一般的な極秘扱いになっている。が、だいたい、これだけの学者集団が動けば、すでに察知されているも同然だろう。コロニー側も文字通り天から睨みを効かせているに違いない。

「軍もズブズブな所は、俺がいた時は変わりないか…」

 ページをめくっていくと、今回のファーストコンタクトが書かれていた。

 木星は太陽系内にある、もう一つの太陽系といってもいいくらい巨大な領域でさらに同じように木星を中心とした木星系が存在している。これがまた広大で、衛星エウロパにあるセントラルシティエウロパを中心に開拓が進んでいる。すでに開拓が始まって、300年くらい立っているが、広大な領域に遅々として進んでいないのは仕方ない。ただし、質量もあり非常に良質な燃料が採掘されているため、UPにとっても重要な場所となっている。このあたりは、太陽系辺縁よりも人口が多く、さらにUP、CCともに入り乱れる面白い地域となっている。

 今回、その開拓団のAIが異物を検知し、現状確認のため開拓団が異物を検知したカリストのクレーターに降りたところ、人類外文明遺跡のスイッチが入り、巨大な遺跡が現れた、とのこと。その解析のために今回の学者集団が派遣され、学者集団を警備するために自分たちが軍と学者たちに雇われた、という話になっている。

 今回もというか、実は中立に近い仕事は警備会社に任されることが多くなってきている。そのほうが刺激がなくすく、治安への配慮もありテロリストたちも近づけないという利点があるからだ、

 今回の仕事は典型例と言える。

 そんな事を考えながら、簡単な報告書を読み込んでいくと、遺跡の規模は縦横100kmの規模であるらしく、ピラミッドは数基、その他神殿らしき構造物は多数ある。学者たちにとっては宝山、そして、最新技術であるオーバーテクノロジーの宝の山と軍は見ていると違いない。

 火星にシドニア地区というのがあるが、現在でも立入禁止区域になっているが、そのくらいの規模の遺跡なるかもしれない。遺跡との遭遇は決して喜ばしいものばかりではなく、遺跡には遺跡なりの警備があり、わけのわからない人間を誰もでも歓迎しているわけではない。そういうものから守るのも警備会社の仕事でもあるわけだ。

 こう並べていくと、警備会社も学者たちも決して楽ではない仕事というのがわかる。軍をなんからの成果を期待しているわけで、様々な思惑を背中に感じながら発掘作業をしていくのだ。ただ、楽なこともある。それは遺跡と周辺に限ったことなのだが、偶然なのか人間に適した環境に人工的なテラフォーミングされているのである。傍目にそうは見えなくても、宇宙服がなくても活動できるのだ。そのため、この遺跡の主人たちは、人類に極めて近い種族だろうと目されてる。

 今回の遺跡についても、宇宙服は最低限で大丈夫だと記載されている。もっとも、何かあっては遅いので、警備会社はそんなことなく重装備で警備業をするわけだけだが。


「セバスリー、今回のパワードスーツはどれくらい連れて行くんだ?」

「重量級3体、中量級5、軽量級10。特殊型2、そしてマークス団長のです」

「まあ、今回の学者さんたちは20人程度だから十分か、入り口は把握しているな?」

「はい、まあ、学者さん任せという話もありますけど、ジャマーを設置して、ステルス標準行動になります」

「みんなにも言っておきたいが、学者任せにしておくと、大変な目に合うかもしれないぞ。自分たちも遺跡に対して必要な知識と研究心を頼むぞ。パワードスーツにも応用されているんだからな」

「アイサー」

ブリッジのあちこちから気のない返事、マークスはため息をつくことになった。


あと二時間程度でワープ通廊を出て、木星系に到着をする。


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