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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
二人の狭間で

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「。。レジェ。ここは今は誰もいない。話したい事があるのであれば、今すぐ手短に。」


ゾイドは愛をささやくかのごとく、唇をレジェの耳元に近づけて囁いた。


「さすがですわね。ゾイド様。」


ゾイドに腕を絡みつけながら、レジェは返事をした。

レジェの事情をすぐに察したゾイドに、内心舌をまく。


「私は、ミツワの女達、皆の願いを受けてやってきたのです。品行の宜しくない噂の私であれば、アストリア国からのゾイド様を節操なく誘惑してもおかしくはないですもの。」


レジェは少し寂しそうに笑った。

そうして身を起こすと、キッパリと背を伸ばして言った。


「ゾイド様。貴女の愛しい人はお元気です。」


そして、その豊満な胸元から、ゾイドの髪を飾っている緑のリボンと同じ物をするりと出して見せた。


「レイチェル様には監視がついております。何もお言葉を預かる事はできませんが、ゾイド様がアストリアからここにいらしたと、レイチェル様に分かる何かをお預けください。必ずミツワの娘達で、レイチェル様の元にお届けいたします。」


ゾイドは驚いた。


「だが。なぜ。。。」


見つかれば、罰せられるのはこの女だ。

下手をしたら反逆罪に問われる。それだけの危険をレイチェルの為に冒す準備がある娘達がいるというのだ。


質問を終える前に、レジェは話を遮った。


「レイチェル様はね、ミツワの娘達にとって、聖女様なのです。」


そしてその真っ直ぐな美しい髪につけた、髪飾りを外した。

真っ直ぐな赤い髪は大きくうねり出し、一刻前とは似ても似つかない、赤い海の様にゾイドの前で変わった。


ゾイドはその髪飾りに施された小さな術式を見た。


(熱と風を少しだけ起こす術式と、それから祈祷文。。。これは。。レイチェルの複合術式。。。)


ゾイドははっと顔をあげた。


レジェは、少しおかしそうな顔をして続けた。


「見事な物でしょう?囚われの身でありながら、監視の目を潜って、ミツワの娘達にこんなものを作ってくださっていたのです。一人一人に合わせて。髪が痛むと大変だから、と。ただそれだけの理由で、己を誘拐した国の娘達に。」


どれだけミツワで流行の真っ直ぐな髪を作るのに、娘達が苦労していたのか、ゾイドに分かりはしない。

だが、監視の目を盗んで誘拐先の国で、その国の娘達の役に立ってやろうなど。


「レイチェル様は、色々とお話をしてくださいましたわ。女神様の為にフォート・リーがレイチェル様を誘拐して来た事も、その為に愛しい貴方様と引き裂かれた事も。実家のお父様の髪が寂しくなって来た事が目下1番の、ご心配だとか。」


クスリと笑って、レジェは続ける。


「どうしてもレイチェル様にお礼がしたい私たちに、レイチェル様は、アストリア行きのブルーベリーに、包装で使ったリボンをかけて欲しい、それだけお願いしてくださいましたのよ。ひょっとするとゾイド様の元に、届くかもしれないからって。リボンがお手元に届いて本当に、よかった。」


レジェは、目を細めた。


「私達は一、レイチェル様が私たちになさってくださった様に、少しでも、レイチェル様のお役に立ちたいのです。ゾイド様、貴方の事はミツワの娘たちはよく、よく知っております。さあ、怪しまれないうちに早く。」


ゾイドは戸惑いながらも、肌身離さず持ち歩いていた、レイチェルの刺繍の入ったハンカチを、レジェに手渡して言った。


「。。レディ・レジェ。感謝する。。。そして、どうぞ女神の元に旅立った、貴方の赤子の霊が安らかん事を。」


レジェの顔色が変わった。


「どうしてそれを。。。」


ゾイドは髪飾りをレジェのうねる髪につけてやった。

途端にレジェの髪は、真っ直ぐになり、美しく胸元に垂れた。素晴らしく細かい魔力の出力調整がされている。

さすがだ。


「この髪飾りに。貴方の赤子の安らかな旅立ちを祈る、祈祷文が。」


レジェにも、ミツワの娘にも、魔術は何もわからない。ただ喜んで受け取っていた髪飾りに、そんな祈りが込められていたとは。


レジェは、5年前に流産したのだ。


その後妊娠する事はなく、今に到る。

流産はレジェの心に、暗い、暗い影を落としていた。

レイチェルに髪飾りを作ってもらった頃、レジェは、夫婦仲がよくない事、そしてそうなってしまった理由を話した覚えがある。


髪飾りを身に付けると、レジェは心が少し晴れやかになるのを、感じてはいた。

綺麗な髪になって心が浮き立つからだとそう思っていた。


レジェの頬に涙が伝う。


(レイチェル様は、何も、おっしゃらなかったわ。)


ゾイドは声を潜めて、言った。


「レディ・レジェ。今から私の頬を殴って、ここから去ってください。間諜がすぐ後ろにいます。私に無体を働かされそうになった体で、早く。」


レジェは、涙をぬぐい、ニヤリと笑うと、魔物の様に美しいゾイドの横っ面を殴って、大袈裟に叫んだ。


「なんと恥知らずな!アストリアの男は、夫のいる女にまで節操がないというのか!」


大股で振り返らずにその場をさるレジェ。どうやら間諜は何も疑わなかったらしい。


(あんないい男だなんて、レイチェル様おっしゃらなかったわ。ちょっと勿体なかったわね。。)



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― 新着の感想 ―
レイチェルの、身持ちが緩くて何も考えてない流されるだけのバカなヒロインムーヴがちょっともう無理だな~と思って読むのやめようと思ったんですが、このレジェのお話は良かったです。 ルーナの裏切りも腹立たしか…
[良い点] ・レイチェルの祈祷文 [一言] なんというか、レイチェルがいい子すぎて…とっとと幸せになってほしいです。
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