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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
二人の狭間で
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ルークの入場は、黄色い声援で、馬の蹄の音すらかき消されて聞こえないほどだ。


太陽の騎士という呼び名はさすが、ルークが登場すると先ほどまでの雰囲気から段違いに華やかに、明るくなる。


ルークはガートルードに一礼すると、その大変美しい白馬で、何周もまず演習場をかけた。純白で、長いたてがみと、長い尾がたなびく様は、朝日の光のごとくである。


演習場の観客席のあちこちから、娘達のため息が聞こえる。


ルークは何周も演習場を駆けていた。娘達がその美しさに目を奪われている間に、演習場全体に、ルークは馬上から丸い大きな陣を張っていた。少しづつルークの周りに丸い魔力の渦ができて、やがて大きな水の壁となる。


(海だわ!)


レイチェルは望遠鏡の向こうから、興奮で思わず椅子から立ち上がった。


ルークが作り上げていたのは、レイチェルと一緒に見た、海その物だった。


水の壁で覆われたルークは、その水の渦を美しい白馬で駆け上った。波を再現したその水の動きに合わせて、水の渦を駆け上る。


水の壁のその頂上に、白い美しい馬で留まるルークのその姿は、まるで海の精霊王の様だ。


そして次に、ルークは魔力を駆使して、水でできたクラゲを一群を作り出すと、空に放った。


(私が、クラゲが見たいと言ったから。。)


レイチェルは、ルークが望遠鏡を設置してまでレイチェルにその演舞を見て欲しがった理由がわかって苦笑してしまう。あの男は、子供の様なところがあるのだ。


可愛らしいクラゲが空を舞う。観客席には風船の様にクラゲ達がやってきて、娘達は大はしゃぎだ。


ルークはそして、その美麗な剣を抜くと、今度は己が乗っている、大きな水の壁を、一気に半分に、叩き切った。

大きな水の渦は一瞬にして、霧に変わり、そしてルークを包む虹となる。


演習場はもう、大変な歓声だ。中には気を失ってしまう娘もいたほどに、観客席は熱狂で包まれた。

ガートルードですら、ルークがここまで繊細で、大胆な魔法を操る事のできる魔法剣士となっていた事は、知らなかった。


/////////////////////////////


フワフワと観客席をまだ漂う水のクラゲの1匹を、観客席の、赤い目の男は捕まえた。


(。。見つけた。)


その赤い目に、光が灯ったのを見た人間は、いない。


可愛らしい作りのクラゲは、水を魔力で形を整えてある、繊細なつくりの魔法でできてある。

後数刻もすると、姿も形もなくなって、霧に変わってしまう様に作られている。

ゾイドの部下にも、これほど繊細なクラゲを、一気この数を作る事ができる人材は、片手に数えるほどだ。

そして魔法で作り上げた水の大壁を、一気に剣で叩き切れるだけの、魔力と剣術。


ゾイドには、この魔力にも、太刀筋にも覚えがあった。

己が毎日飛ばしている諜報用の小鳥が、無残な姿で帰ってくるその理由だ。

ある時は焼き切られ、ある時は爆発され、ある時は首を落とされ。陰険なほど執念を持って、徹底的に小鳥を破壊してくる。

王宮内部の、中庭の、一番奥の部屋に放った物だけ、ここまでの執念を持って、このクラゲと同じ魔力の持ち主に、破壊されてくるのだ。


(この男か。。)


ゾイドは目を細めた。その表情からは、何も読み取る事はできない。


////////////////////


観客席は熱狂的な騒ぎだ。


ルークは、ガートルードより褒賞を頂く為、壇上に呼び出された。

壇上には、この大会の運営に携わった多くの貴人が控えていて、それぞれ素晴らしい演舞を披露したルークを褒め称えた。宰相家に、この美しい男はまた名誉をもたらしたのだ。


「ルーク、面をあげよ。見事であった。」


ガートルードは王族の座から、褒賞として、己の胸にかけていた、大きなサファイアの首飾りを、ルークに渡した。王女の身につけている宝石を賜る事は、大変大きな名誉だ。


宰相家は、またこれで、国内の政治の派閥の中で、勢いをつけるだろう。


「お前の懸想する娘にでもやれば良い。」


そう小さくルークの耳元で言って、ガートルードは、クスリと微笑んだ。レイチェルの茶色い髪に、サファイアは、よく似合いそうだと思ったのだ。


もちろん、ガートルードの耳にも、「聖女」に恋し、降嫁を切に望んだ男の話は耳に入っている。このサファイアも、良い婚約の記念になるだろう。


「勿体ないお言葉、痛み入ります。」


ルークはサファイアを受け取ると、ジジの方に向き合って、その小さな手に口づけを落とした。


「ロッカウェイ公女殿下。ご機嫌麗しく。」


ジジは穏やかに返答する。


「ジジで結構。先ほどは見事な演舞であった。面をあげよ。私からも褒めて遣わせる。」


ルークが面をあげて、ジジの顔を見る。

噂には聞いていたが、実際痛々しいほど小さな姫君だ。

魔力過多による成長不全だと言う。次の月が満ちる時、この姫君を、遺跡にお送りする役割を仰せ使ったのは、外でもないルークだ。


そして、ジジの後ろに控えた従者の男と、バチリ、と目があったのだ。


(。。。。この男だ。。!)


ルークは唇を噛んだ。魔物の様に美しい、赤い、冷たい、氷の様な目をした男。


(ゾイド・ド・リンデンバーグ。アストリアの赤い氷。そして。。レイチェルの。婚約者。)


赤い目をした男は、ルークを凍る様な、冷たい視線で見据えていた。

二人の男は激しい視線をかわす。


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