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フォート・リー産の屈強な軍馬に騎乗した、王宮騎士達による王覧騎乗戦の催しが、ロッカウェイ公国公女の歓待の為に開かれた。
軍事国、そして優良な軍馬の産地であるフォート・リーならではの催しだ。
数十騎の騎士による試合の後、勝者にはガードルード王女から褒賞を受け取り、ジジに挨拶をして御前を去る。
「この国の男達は、自分の馬の美しさや強さが、自身の一番の誇りなのよ。まるで美しい恋人を探すかの様に、足の早かったり見目の良い馬を求めるの。」
ちなみロッカウェイでは、男は自宅に特別に美しい薔薇の生垣を持つことが、男の誇りとされている。女達は、愛する男が丹精を込めて育てた薔薇の生垣のから作った花束を送られる事が、最上級の愛の表現なのだ。
本日ジジの歓待役を務めるのはガードルード。
王女、そして公女として生まれた二人は、年齢も、第一王女、第一公女と、身分も立ち位置もほぼ同じくする事もあり、すぐに姉妹の様に親しんだ。
ガートルードの魔力は、実は王族にしてはかなり少ない。
それなりにガートルードにも思うところがあったらしく、魔力過多に苦しむ公女ジジを、それは丁寧に歓待したのだ。
「あそこに見える白馬は、宰相の長男の物です。海を二つ超えて連れてきただけあって、優美でしょう?」
ガートルードが指差した方には、美しい白馬が草をはんでいた。
ジジもうっとりするほど、長いたてがみの、それは優美な馬だった。
「先程の試合にはこの馬は不参加でしたのね、ガードルード様。是非とも駆ける様子を拝見したいものですわ。」
ガードルードは楽しそうに笑顔を浮かべる。
賓客にそういわしめた事は、軍馬を名産とするフォート・リーの誇りに値する。
ガートルードは上機嫌だ。
王女にあるまじき、下町の男のように行儀悪くパチンと片目を閉じると、
「あの馬の持ち主は魔法騎士なので、後の演舞でかける所をご覧にかけますわ。持ち主もあの馬と同じくらいに見目がよろしくてよ。」
と、いたずらっぽく笑った。
(魔法騎士。。。)
レイチェルの軟禁先を躍起になって探している、ゾイドの言葉を思い出した。
おそらく王宮の魔法騎士の一人がレイチェルに張り付いていると、毎日無残な状態で手元に帰ってくる魔法で錬成した小鳥の様子を観察して、結論付けていた。
今日ゾイドは、ジジの貴賓席の一段下の、従者の席でこの試合を観覧している。
(頼むから、ゾイド様問題起こさないでね。。)
観客の娘達から、黄色い歓声が上がってきた。
トランペットが、次の演目の開会を告げる。
魔法騎士達による、演舞が始まる様子だ。