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トランペットの音が止むと、会場は静まりかえり、大股で一人の男が入場し、壇上の貴賓席の真ん中に歩み、ぐるりと見目麗しい側近たちが貴賓席を囲む。堂々とした、何者も追随を許さないその態度はさすがの生まれついた王者の貫禄だ。
ジーク・ド・アストリア第二王子。肩までできっちり切りそろえた金髪、青空の水色の瞳。美貌の母君である王妃に大変よく似ているが、実際は軍務でその才能を伸ばしてきた。今日は軍の参謀としての正装をしており、黒い制服に赤いラインが美しい。
サッとマントを翻し、白い手袋に包まれた手を天に向ける。
合図だ。
係が令嬢たちを誘導し、殿下の元まで案内する。
どっかり腰をおろしたジークに、令嬢は礼をとり、ジークからの祝福を受けるのだ。
ジークの後ろには護衛として、近衛隊長のルイス、副隊長のローランド、魔道隊責任者のゾイドが控える。
「えっと一番目がウッドサイド侯爵の二番目の令嬢で、先週のお茶会にきてたマーガレット嬢、二番目はスタインウェイ侯爵の愛人の娘で、最近認知されたエラ嬢、その次が、、、」
ローランドは貴族の顔を名前を一致させる能力にかけては一級だ。
最近流行りのメイクでどの令嬢も皆同じ顔をしているようにしか見えないジークにとって、今日はどうしてもローランドに護衛を担当してもらわなくてはいけない理由があるわけだ。
大きなため息をついて、ジークは令嬢たちのおとずれを待つ。
(早くおわんねえかな。。)
ジークの心の声はバッチリとルイスには聞こえたらしい。
声を殺した笑いが忍び寄ってきた。
「殿下、まあそう面倒がらず。素敵な令嬢との出会いがあるかもしれないですよ」
「お前不敬罪でしょっぴかせるぞ。。」
ジークのイライラは最高潮だ。本来第一王子の受け持つ、デビュタントの祝福の仕事を今年に限って第一王子から押しつけられたのは、前王からだ。いつまでたっても結婚しない次男の出会いを思っての、大変迷惑な親子心だったわけだ。
(さっさと終わらせて今日は飲んだくれよう。もう俺疲れた。)
王子はそんな内面は一切きれいに隠して、吟遊詩人が呼ぶところの「春の恵の雨のごとく」美しい微笑を称え、玉座につく。
トランペットが鳴り響く。静かに一番目の令嬢のカーテシーを受け、ジークは傍に置いてある白い薔薇でできた腕輪を与えて、祝福を与える。
「女神の恵みがあらんことを。輝く人の道に光あれ。」
頭を垂れて、令嬢は薔薇の腕輪を受け取る。
(あと49人。。。)
王子という仕事は肉体と精神にくる。