表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
神殿の遺跡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/246

78

「あぶなーーーーい!!そこ、みぎだ右!落ちるから!」


「きゃー!!右って、私から見て右?ルーク様から?落ちる!!キャー!!」


静かな深い森の奥の、遺跡の沈む泉からは何とも似つかわしくない大変騒がしい二人の声が響く。


格好よく小舟を漕ぎ出したがいいが、レイチェルは引きこもりだ。小舟の漕ぎ方など知るわけもない。

小舟の漕ぎ方は、非常に簡単だし、そもそも風のないとても静かな水面だ。

もうすぐ女神にお呼びがかかるだろう、ご老体魔術師たちでも漕ぎ出すのに何も問題なかったのに、まさか、こんなにどん臭いとは。

そもそもこの泉は小さい。岸から遺跡までは、ほんの近くだ。


「アホかレイチェル、舟が壊れる!そんなにスピード出すな!真っ直ぐ進むだけ!真っ直ぐだから!」


「真っ直ぐって、え、どうしようカイが外れそう!やだぶつかる!!」


岸辺でハラハラ見守るルークは、なんとか遺跡にぶつかって小舟を止めたレイチェルを確認して、膝からへたり落ちた。


(クッソ、そうだった、あいつは魔術と手芸以外は本当にポンコツだった。。。)


//////////////////


(死、死ぬかと思った。。。)


レイチェルは、やっと止まってくれた小舟にしがみついてゼイゼイと息を整える。本の中の旅人や恋人達は、よくスイスイと小舟で移動しているので、すっかりレイチェルは自分も上手に漕げるつもりでいたが、読むとするとでも、大違いだ。


ガッツリ頭を打ったついでに、おっかなびっくり水面を触って見たが、やはりレイチェルにはなんの影響もない。少しブルブルと振動しているのを感じるだけだ。人を石に変えるほどの力をもつ水だというのが信じ難い。


苔のむした壁に目を走らせる。

元は小さな塔だったらしく、半円に崩れた壁と、扉の跡が水面から見える。

レイチェルの知っている限り、一番古い時代の魔法文字がびっしりと壁面にめぐらされている。

レイチェルはそっと紙とペンをカバンから取り出して、記録を始める。

優しい書き味の美しい紙に、すみれの香りのするインクだ。


きっとルークが揃えたのだろう。


壁面に綴られたその古い言葉を一つ一つを、紙に綴っていく。

泉には静寂が戻った。


レイチェルは壁を手つたいで小舟を進めていく。

綴られているいくつかの文字はレイチェルも見たことがない。神殿の乙女が制度化される前の時代である物は、容易に推測された。


(。。ここね。。)


壁を覆う女神の祝福が続いたのち、女神の子孫である王家の始まりについての叙事詩。王が即位し、その長子が即位し、そして子供達は、女神の祝福により分家して、アストリアとフォート・リーに国が別れた。それからいくつかの話が続くが、初めて目にする話もある。この発見は新しい学説となるだろう。


レイチェルは一生懸命にペンを進ませる。


レイチェルは、壁つたいに半円の内部に入り込む。

そして、水の中に腕を伸ばし、神殿の乙女しか触れる事を許されないという、倒れた神殿の扉跡の部分の苔を取り払った。

なるほどどんなに切羽詰まっていても、レイチェル以外では、石化も恐ろしい上、女神信仰の国の魔術師では絶対に触れないわけだ。


(。。あっちゃ。。。これは見てはいけないものを見てしまった気がする。。)


苔の下の文字に目を走らせたレイチェルは、早速見てはいけないものを見てしまった事に気が付く。


ゆるゆるとした水流で、扉は水面下で誘うように開いたり閉じたりを泉の中で繰り返していた。よく目を凝らすと、この崩れた扉の奥には、どうやら小部屋があるらしい。

強い呪いの発生先はこの扉の向こうにある様子だ。


(こういうのを、乗り掛かった船っていうんだっけね。。)


レイチェルは大きくため息をついた。

おそらく今レイチェルが目にした物、そしてこれから目にする物は、両国を揺るがせる大きな知らせとなるだろう。

レイチェルは、静かな毎日を、日がな手芸して過ごせたら良いだけなのに、なんの因果でこんな大きな知らせを運ぶ爆弾になってしまうのやら。

見なかった事にしたい。。。


今日見た海が、相当レイチェルの心に響いたらしい。


レイチェルは振り返って、岸辺のルークに声をかけた。


「ルーク様ーー!」


岸辺でレイチェルを見守っていたルークは、立ち上がって返事を返す。


「なんだレイチェル?仕事は終わったか!?」


遺跡は大きくはない。レイチェル一人の調査でも、一晩で終わるはずだ。


だが、どうやら様子がおかしい。


「ルーク様、ちょっと、後ろを向いててくださる??」


「???」


ルークの返事を待たずに、レイチェルはドレスのリボンをするりと解いた。


「!!!!!わーー!!!レイチェル!何考えてやがる!」


ルークは大慌てで、危うく泉に足を踏み入れるところで、すんでの所で足を止めた。石になっちまう!


「ルーク様、ちょっと!見ないでよ!合図するまで後ろを向いていてください!」


ルークに気を止めずに、さっさとレイチェルは服を脱ぎ始めた。とても綺麗なドレスだけど、コルセットがきついのは本当に苦手だ。ようやく開放されるのに、ルークなんぞにかまっておられない。


ルークは回れ右をしてレイチェルを視界から外すが、気が気ではない。


レイチェルはようやくコルセットを外すと、下着だけになって、そして呪いの泉の中に身を預けた。泉は冷たかったが、とても気持ちが良い。


(海ってきっと、もっと素敵なんだろうな。。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 苔のむした壁に目を走らせる。 >苔むした壁  の は不要です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ