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「レイチェル様、起きてください。レイチェル様」
「もう森についたの?アー遠かったわ~」
「おいレイチェル、だから令嬢のくせにアクビの時くらい口を隠せよ!見てられん。」
目覚めて早速のお小言だ。どう考えてもルークが正しいのでルーナも助け船は出さない。
生まれて初めての海に興奮しすぎたレイチェルは、途中で寝てしまったのだ。
引きこもり令嬢は体力がない。
ルークの話の途中でうつらうつらと眠ってしまったレイチェルに、そっと毛布をかけてやるルークの眼差しを見て、ルーナの想像は、確信へと変わった。
(恋する男はみんな不器用ね。それが例え、かの太陽の騎士様でも。)
レイチェルはしっかり眠っていたらしい。
目覚めた頃にはすっかり夜も更けて、大きな青い満月が夜空に顔を見せていた。
遺跡の森から、遺跡までの道は馬車ではいけない奥にあると言う。
馬に乗り換えてから、深い森に入りその奥に入ると言う。
危険の少ない森ということ、そして場所に関して守秘義務が発生する事もあり、護衛は最小限となる。
森からは、ルークと、レイチェルの二人だけで調査を行う。
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森の入り口で馬車を降りたそこには、見知った顔の男がレイチェルの到着を待っていた。
バルトだ。
「。。。ようこそ、ジーン子爵令嬢。」
レイチェルの体が硬直する。
先の大戦の戦犯。そしてレイチェル誘拐の主犯。
顔の半分を覆う強いやけどの跡が痛々しいが、それを引いても大変な美丈夫であった事が伺える。
美しい壮年の男だ。
ジークによく似た、空色の瞳をレイチェルに向けて挨拶もそこそこにこう言った。
「私が貴女に求めることは一つ。私の王位の正統性を示す証拠を掴んで来る事。神託の乙女が制度化される以前の、女神の言葉が刻まれた石碑が遺跡に埋まっている。」
勝手な事をいう男達の見本の様な男だ。
レイチェルはキュッとスカートの裾を掴んで、吐き捨てる様に言った。
「。。。全ては女神の御心のままに。」
この男の野心のせいで、先の大戦は起こって、そしてレイチェルは愛おしいゾイドの元からこの国にかどかわされた。悔しくて、悔しくて、震えが止まらない。
ルークは大変知られているその美しい白馬にレイチェルを乗せて、自身もその後ろに騎乗し、恭しくバルトに挨拶をした。
「必ずやジーン令嬢は御心に叶う物をご用意する事でしょう。では先を急ぎますので。」
怒りで体が震えているレイチェルの肩をぐっと抱いて、ルークは森の中へ、愛馬を森へ進ませた。
月明かりの中、美しい白馬で暗い森に沈んでゆく二人は、夢物語のようだったとのちにルーナは語っている。