表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
収穫祭
61/246

61

それはほんの一瞬の警備の隙だった。


国境に近い王都への道に大きな魔法の反応が出た。派手な侵入者に魔法部隊の半数が出動した。

噴水の広場で外国の傭兵が騒ぎをおこした。

その前に王と王妃のスピーチに軍が出動した。

神殿にはいつもの何倍もの参拝者が来ていた。

騎士の駐屯所にはほんのわずかな間、レイチェルを除いてほとんどだれも残っていなかった。


何もかもが言い訳だ。

アストリア国の神殿の乙女、レイチェル・ジーンは消えた。

騎士の駐屯所はこの国で最も安全な場所のはずだった。


「王宮には、王族しか知り得ない場所に、脱出用の陣がいくつか貼られている。その一つを使われた。」


ジークは現場を見て、そして吐き出すように言った。

元王子なら知りうる。そして、侵入者は己が誰であるかをほのめかしているのだ。


今回レイチェルの誘拐に使われたのは、そのうちの一つ、塔の近くに隠された地下の抜け道に張られた転移陣だった。

12代目の王の時に作られたこの秘密の脱出口は、革命軍からの逃避のその後使われた事はなく、直系の王族のみその存在を知っていた。

その陣を辿ると、ルーズベルトの国境近くの聖地にたどり着く。

そこからまた転移陣を使ってどこかに移動したらしい。陣の痕跡が魔法で焼かれていた。


「間違いない。バルド伯父の仕業だ。」


ジークの瞳は怒りに燃えていた。


「なぜ、戦闘能力のないレイチェル嬢をわざわざ狙ったのでしょうか。」


ローランドの疑問に答えたのは、ルイスだった。


「おそらく、神殿での件の報復と、アストリア王への煽り立て、それから、」


その後を続けた者は誰もいなかった。

「石」の乙女であるレイチェルに魔力の高い貴族の男の子供を生ませるつもりだろう。高い魔力をもつ貴族の子弟をもつ家なら、

どの家でも喉から手が出るほど欲しいはずだ。


だが、レイチェルはまだ臨時とは言え神殿の乙女だ。女神の許しを乞う儀式をなしに、神殿の乙女を降嫁する事はない。


おそらく、ルーズベルトの聖地の神殿を奪取して、そこで儀式をフォート・リーの神官が行うつもりだろう。

内外にルーズベルトがフォート・リーの領地であることを宣言するにはうってつけだ。


ゾイドは、表情の読めない顔をしていた。そして、ずっとおし黙ったままだった。


「ではレイチェルはおそらく無事ですね。そして丁重に扱われていることでしょう。「影」のフォート・リーからの情報を待ちましょう。」


淡々とゾイドはそう言うと、レイチェルの事はもう意に介さないかのように、収穫祭の間の警備の見直し案を提案し、そして王と王妃の最終日の閉幕の儀式の中止を決定する書類にサインをした。

そのまま部屋を立ち去ろうとするゾイドの背中を、ルイスは捕まえた。


「ゾイド、おい、お前は何を考えてるんだ。」


少し間を置いて、ゾイドは肩に置かれたルイスの手を静かに振り払うと、悠々と部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ