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「。。レイチェル、本当に名残惜しいが、行かなくてはいけない。。」
赤い瞳はそれは申し訳なさそうにレイチェルに言った。
当然だ。ゾイドは完全に責務をほったらかして可愛い恋人に逢いにきているのだ。ばれたら懲罰モノだ。
「そうなんですね、残念です!お帰りになったら、またお祭りの様子をおしらせくださいまし。」
どうせもうすぐジジも祭りに飽きて帰ってくる。
レイチェルはあっさりしたモノだ。
ゾイドは何が言いたげにレイチェルの肩に手をやった。
「レイチェル。」
「はい?」
赤い瞳が揺れていた。
「私が貴女に神殿で言った言葉を覚えていますか?」
(爆弾がきた!)
レイチェルは心に鍵をして、考えないようにしていたのだ!
えええええ、もちろん覚えていますとも!
グッとレイチェルの肩を掴んでいた手に力を入れると、そっと囁いた。
「。。私をみて欲しい。。君の瞳に私を写して欲しいんだ。。」
「ゾゾゾゾイド様!見てます!見てますってば!」
ゾイドはレイチェルのいうことなど聞いちゃいない。始まってしまったらしい。これはもうお手上げだ。
「貴女の心を、私で満たして欲しい。その瞳に映る全てが私であって欲しい。その心を満たす全てが、私であって欲しい。」
ゾイドはレイチェルを抱き寄せると、静かに続けた。
「あの日から」
「貴女の事を考えない時は一刻もない。貴女があのドレスを纏って私の前に現れたその日から、世界の全てに色が付いて見えるようになった。貴女と出会うその日まで、私は灰色の世界で、一人生きていた。」
「貴女の瞳に映る世界は、とても美しくて光に満ちていて、私は生まれて初めて、生きる喜びを知った。」
噛み締めるように、一言、一言。真っ直ぐな言葉がレイチェルの心に突き刺さる。そして震える声で、言った。
「レイチェル、私は貴女を愛している。私のこれからの人生に貴女が隣にいて欲しい。」
柔らかな感触が唇を覆った。
ゾイドの大きな影とレイチェルの頼りない影が、一つになった。
カーテンが揺れる。
どの位の時間がたったのだろう。
「ゾイド様。こちらにおいででしょうか。」
「。。。今行く」
外でゾイドの部下がゾイドを探している声が聞こえた。
ゾイドは一つ口づけをレイチェルの額に落とすと、静かに部屋を退出した。
一人残されたレイチェルは、扉をずっと見つめ続けていた。




