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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
神殿の乙女

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天幕の事件は、アストリア国を覆う黒い影の、ほんの序章に過ぎなかった。


ジジが暗い顔をして執務室に入った時、やはり、とジークが天を仰いだ。

前王の王兄が、フォート・リーに通じていた。

未だに玉座に未練があったとは。

捉えた間者は、全ての情報は与えられていなかったが、自白した情報だけで十分、黒幕の予想はつく物であった。


先の大戦は前王と、前王の王兄、バルドとの玉座をめぐる争いであった。

長く苦しみの伴う内乱の後に前王が勝利し、玉座に着いた。

大変仲がよかったという兄弟同士による戦争は、前王の心を殊の外痛め、短い治世の後、前王は長男にその座を譲り、全ての権力を放棄して余生を過ごしている。


そもそもバルドは、元は正統な王位後継者であったが、女神の怒りに触れ、神託により正式にその王位継権が絶たれたのだという。


女神の怒りに触れた王を国の長として担ぐ事はできない。

この国は女神の修める国なのだ。


////////////////////


「なぜ、女神様のお怒りに触れる様な事となったのでしょう?バルド様が順番でいくと王となるはずでしたでしょう。」


レイチェルはローランドと共に王宮の外れの枯れ井戸の調査の仕事。天幕の容疑者の侵入経路を確認しにきたのだ。

冷たい外気が心地いい。今日は外の作業にもってこいの秋晴れだ。


「女神が、バルト様は穢れを神殿に持ち込まれたと、嫌われたとの事です。」


ローランドはさも当たり前の様に淡々と答える。

バルトをはじめ、王族の細かい情報は一般人にはなかなか開示されないので、レイチェルの様な深窓の引きこもりには、知るよしもない。


「穢れを持ち込んだ?王族ほど穢れを気になさるお方がたもいらっしゃらないでしょう。ましてや継承の王子であれば!」


アストリア王、そして王族は、女神の国であるこの国の穢れを払い、祈りを捧げる事が責務とされている。厳寒の新年の朝に、王は女神の湖を訪れ、身を投げる。その際に割れた氷の形で新年を占うのだ。


他にも、王族に科された様々な穢れに関する規則は多く、直系の王族は、纏える衣装の色にも制限がある。

日々国の穢れを払う事が最大の責務である世継ぎの王子が、神殿に穢れを持ち込むなど、考えにくい。


井戸にからむツタを払いながら、


「これはあくまで噂なのですが、」


ローランドはこう前置きをして、声を潜めて言った。


「当時神殿の乙女だった姉によると、バルド様が受けた神託が本当の物では無かったのではないかとの話もあるのです。」


「・・それはどういう事ですか。。?」


レイチェルには、初めて耳にする事ばかりだ。

と言うか、ローランドの姉は神殿の乙女だったとは。


「神託を受けた巫女は、神託を受けた際に、その身が清らかでは無かったという噂があって」


神殿の乙女は決して男に身を任せた事のある娘では務まらない。

ましてや乙女達の頂点ともいえる神託の巫女となると、神託を受ける前は満月の夜に滝に身を打ち、3日間は食事も木から落ちたものだけを食し、徹底的に穢れを払う。


「当時の神託の巫女には、余命の短い、幼なじみの恋人がいたのです。」


ツタを払うと、魔法陣が出てきた。転移魔法の陣だ。微かに残る魔力は間違いなくレイチェルが酔ってしまっていた魔力の一つだ。


ローランドは陣を書き写しながら続ける。


「神殿に乙女として入殿してすぐに、発症したそうです。手を尽くせない状況だったらしく、日々泣き暮らしていたと姉は言っていました。」


「たとえ禁を犯しても、この世を去る前に、一度でいいから肌を重ねて深く愛を確かめたいと願うのは、世の恋人達全ての想いでしょう。」


「だったら!さっさと禁を犯した事を懺悔して神殿を去ればよかったでしょう。。」


ローランドの深い緑の瞳が、レイチェルの茶色い瞳に写った。

緑の瞳は、父であるジーン子爵の瞳と同じで、レイチェルはローランドといる時はとても居心地が良い。


「巫女はの実家に事情があったのです。巫女には高い栄誉が与えられます。それと共に、見合った相当の金銭的な見返りも。父親の急病で、金銭的に困窮していた彼女の実家は、彼女によって救われたのです。彼女の弟は海外への留学が叶い、姉の結婚の持参金も用意できたのは全て彼女によるものだったとか。」


「。。言えなかったのね。。」


子爵家の周りにもそういう話は幾つもある。

ライラの友人も、実家の金銭的事情で3人も子のある20も年上の男に嫁した。

今でこそ幸せな家庭を築いているが、結婚前は泣き暮らしていて、ライラが良く慰めに行っていたものだ。


「神託の後すぐ巫女の恋人は亡くなり、巫女自身も巫女を望んだ貴族と結婚し神殿を去りました。巫女は例の流行病でこの世を去り、真相を知るものは、もう誰も。」


「その話が本当であるなら、バルト様は弟殿下に裏切られて、女神を軽んじてまで偽の神託を宣言して、その玉座を我が者とした悪王の、悲劇の正当後継者ね。。」


「同じ女神を信奉するフォート・リーの王に、この話を伝えて保護を求めたら。見返りにルーズベルトの聖地をフォート・リー所轄にすると約束したら。辻褄だけは会うのですが、何せ想像の域を超えていません。」


ローランドの書写が完了した事を確認して、レイチェルは枯れ井戸に大きな蓋を被せた。確認作業は終了。ほぼ供述通りだ。蓋ごとローランドが井戸を焼き払う。


今日の確認事項はこれで終わりだ。


二人とも無言で枯れ葉の敷き詰められた、王宮への道をゆっくり歩む。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二人とも無言で枯れ葉の敷き詰められた、王宮への道を >敷き詰められた、では作為的に枯葉を撒いたことになります。 ですので 枯葉の降り積もった王宮への道 とするほうがよいのでは
[気になる点] 巫女はの実家に事情があったのです >巫女の実家には事情があったのです でしょうか
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