49
こちら48(前のお話)とまるまる重複されている様です。
レイチェルの数日ぶりの目覚めを待ち構えていたのはルイス。
数日泊まり込みでレイチェルの側にいたらしいが、それをレイチェルが知ったのは随分後になってからだ。
「・・・ルイス様、今私どこにいるんですかね。。」
まだぐわん、ぐわんと頭が痛いし景色がちょっと回る。天井はなんだか見た事がない豪華な天蓋がついてるし、どう転んでも絶対レイチェルの持ち物であるはずもなさそうな美麗なネグリジェに身をつつんでいる。
「ここ?ああ王宮だよ。神殿にいた事は覚えているか?お嬢ちゃん神殿で仕事を終えた後、ぐでんぐでんになってそのままここまで運ばれたんだよ。」
ぼうっとした頭ながら、少しずつ記憶が戻ってくる。神殿で仕事をした事は思い出して、それから。。
ガリガリと頭を掻きながら、ぼんやり大切な事を思い出してきた。
「!!!そうだ!私、術式は解除できたんですか??!!」
体をベッドから起き上がらせて大切な事を聞こうとして、すぐまた頭がぐわん、と白くなった。
「・・・無事に解除できましたよ、レイチェル。」
聞き覚えのある麗しい声が、ドアの閉める音とともに響いた。
声が近づいてくる。
「見事でした。風化するまでしばらくはかかりますが、実に大胆な方法でやり取り遂げてくれました。後にジーク殿下より褒賞があるでしょう。」
(頭痛い。。えーっと、今お話してるのはゾイド様だ。それから、、、とりあえず喉乾いたかも。。。)
「・・・レイチェル・・」
切なそうな声が聞こえる。
「おいゾイド、お嬢ちゃんさっき目がさめたばっかりだ。まだお前の全開になってる思いをぶつけるのは無理だって。ちょっと落ち着け。」
「ルイス、だが・・」
遠くで美貌の婚約者が何か言っているのが聞こえたような気がするが、実際今はゾイドどころではない。
何せ目が回るのだ。
「ルイス様、私なんでこんなに、目が回るんでしょう。」
「あー、お嬢ちゃん、酒は飲んだ事あるか?あんまり強い魔力に当てられて、酔ってるのさ。あの術式は無茶苦茶魔力が流されていただろう、魔力が体を抜ける時に体が揺れて、乗り物酔いみたいに酔ってしまうんだよ。心配しなくても今日の夜には多分抜けてるさ。こういう時はとにかく水飲んで寝る事だ。腹は減ってないか?ちょっと無理してでも何か口にした方がいい。」
ルイスは側に控えていたメイドにあれこれ何か指示を出した。
前々から思っていたが、ルイスは面倒見がいいなとレイチェルは痛む頭で思う。確かレイチェルと同じ年頃の、妹がいるとか。
「とりあえずこれを飲め。」
ルイスに渡されて素直にグラスを受け取る。
冷たい水を一息に飲み干すと、少し余裕ができた。
落ち着いた頃を見計ってルイスは少しずつ、レイチェルの体を労りながら話をしてくれた。
レイチェルが神殿入りしてから、合計でちょうど3日3晩、作業に入っていたらしい。レイチェルはひたすら作業に熱中していてよく覚えていないのだが、かなり鬼気迫る様子だったらしく、何度もゾイドは止めようと禁を犯して橋を渡りそうになったとか。
(最終的にゾイドは天蓋の部屋から放り出されたので、最後までレイチェルを見守ったのはやはりルイスである。)
「なんだか大変にお世話になったみたいで、ありがとうございました。私本当に天幕に入ってからは術式しか見えてなくて、正直ルイス様もゾイド様もいらしたの全然意識に入っていなくて。。。」
「そりゃそうだろうな、誰かいるのに気がついてたら、あんな大声で替え歌鼻歌混じりに歌ったりしないよな。「もしも魔法が使えたら」と「恋は魔法」の二曲をずっとループだったぜ。途中歌詞無茶苦茶だったし、もう笑えて笑えて。」
天幕の部屋はとても声が響くので、気持ちよく歌ってしまっていたのを思い出して、レイチェルはもう穴があったら入りたい。
ルイスはもう、おかしくておかしくて堪らないといった体でゲラゲラと笑っている。この男は本当に、笑上戸だとレイチェルは思う。
「ルイス様、そこまで笑わなくても。。」
「まあそれはそうとして、」
ようやく涙を拭って笑い止み、体を正して、ルイスは続ける。
「ともかく、レイチェル嬢、貴女の存在は間違いなく相手方には判明しているはず。今後の身辺警護についてはある程度の考慮がされると理解して欲しい。」
それは、そうだよね。
レイチェルも呑気に縫い取りをしながら、神殿で実は考えていた。
術式の解除がされた事が判明したら、きっとレイチェルの存在が判明してしまう。危険は承知の上だ。女神の為、アストリア国の為、後悔はない。でも、痛いのは嫌だな。
「・・・私が貴女の警護を担当する。」
ずっと物言いたげにしていたゾイドが、話に割って入ってきた。
「私がずっと貴女の側にいれば良い。すぐに私の館に移動を。レイチェル、私に貴女を守らせてくれ。」
声がうわずっている。いつの間にか側にきていたゾイドは、レイチェルの手を固く握り締め、ベッドに突っ伏している。いつの間にこのお方は、こんなに感情表現が豊かになったのかしら。
「・・ゾイド様・・・」
まだ頭がガンガンとする。
「ゾイド、だからな、お前ちょっと落ち着け。未婚の令嬢をお前の館に住まわせるってどういう意味合いになるのか説明するまでもないだろう。王宮の寮の方が安全だ。」
「未婚の令嬢だが、私達は殿下のお認めになられた婚約者だ。いずれは女神の祝福をうける関係だ。何らレイチェルに不名誉になることはない。」
ゾイドは、控えていたメイドに何やら指図を始めた。
頭がグルグルと回ってまだよく状況がわからない。
「おい、ゾイド、ちょっと待って。お嬢ちゃんの意見も聞けよ。ってか!殿下の許可ぐらい先にとってからにしろ、ちょっと待て!」
おなじみになってきたルイスの焦った声が頭の後ろに響く。
ちょっと横になっていいかしら。
何やらゾイド様とルイスが言い争っている声を聞きながら、レイチェルは再び緩やかに眠りについた。疲れているのだ、少し静かにしてくれたらいいのに。。。