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月が中天に登っていた。
レイチェルが天幕に吸い込まれてからどのくらいの時が過ぎて行ったのだろう。
張り詰めた空気の中、男たちに出来る事はただ、見守るだけ。
完全な沈黙の中で、遠くにぼんやりと浮かび上がったレイチェルの影を見つめるしかなかった。
異変にいち早く気がついたのは、ローランドだ。
「。。。レイチェル嬢は一体何を。。?」
よく影を観察すると、術式の解除をしているはずの影の動きは、どう見ても天幕に登って、何やら解体作業?に勤しんでいる様子なのだ。
あろう事か祭壇で供物を捧げる台を足場に、天井まで手を伸ばしている様子、なのだが、影でしか様子が伺えないので、はっきりしない。
「あああレイチェル嬢!!その台は!女神降臨の年に神樹から作られた!貴重な!ああ~足なんかで扱って!!バチがあたりますぞ!!」
神殿長は泡を吹いて失神寸前である。
影の様子から、どうやら天幕の、術式の掛かっている部分の布を外そうとしているらしい。
邪魔だったのか、ドレスの裾をギュッと縛り出したのか、足元は大変くっきりとその形を見せている。。国宝の供物台に登って、その上足掛かりを増やしたいのか、燭台まで行儀悪く足で引き寄せているのも写しだされた。
この令嬢にあるまじき振る舞いに、事態の深刻さも忘れてルイスは吹き出してしまった。
神妙にことの成り行きを観察していたジークも、予想外のことに混乱してしまう。
「レイチェル嬢は術式のかかっている部分の布を外して、どうしようと言うのだ?確かにレイチェル嬢は「石」だから、術式に触れても発動はしないが。。」
ゾイドは表情が読めない。
赤い瞳はちょこまかと動く、影を一点をじっと見つめている。
レイチェルは、天幕の術式がかかっている部分の布を上手に裁断し、布を外した。
布を外したところで、天幕にかけられた術式自体がどうなるものではない。
それはレイチェルもわかっているはずだ。
成り行きを固唾を飲んで見守っていた男達は、それこそ信じられないものを目にすることになる。