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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
王宮暮らし
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緊迫していたルーズベルトの聖地で、ついに紛争の狼煙が上がったとの報告があったのは、二週間ほど前の事だった。


同じ女神を信奉する両国だ。

祈りの時間の場所の争いという小さな前線の兵による小競り合いが、緊張状態であった場所が場所であるだけに、すぐに両国の軍を巻き込んだ大掛かりなものとなった。緊迫はこれまでにない深刻なものとなった。


国内には緊急事態宣言が発令され、不穏な空気は王国中を埋め尽くした。

全軍臨戦態勢となり、第二王子の指揮の元、国防は厳戒体制を敷かれた。


もちろん、魔術研究所もその例外ではない。

普段は人気の少ないこの研究所も、軍務からの黒い軍服の参謀が何人も入る様になった。

防音の魔法陣が施された部屋から、ゾイドの隼が毎日飛び立つのを塔から見て、いいかげん箱入りのレイチェルも、この国の置かれている状況を少し理解し始めた。


毎日お昼ご飯を共にしているジジも、多忙を極めている。


「今日もね、兄様の密命で自白剤三十本よ。ポーション作りなんだと思ってんだか。」


ぶつぶつとサラダをつつきながら、ジジはこぼす。

今日のお昼は、サンドイッチと、サラダと、パイがなんと5種類も。

ジジが城下町まで薬品の材料を求めた際に、ついでに山ほど新作のパイを買ってきたのだ。

レイチェルはまだ外出許可が出ていないので、城下町の新作のデザートは、飛び上がるほど嬉しい。


今日は大急ぎで作った、パイがちょうどいい温度で温めなおせる術式を施したランチマットを用意して、レイチェルの部屋でのランチだ。


自白剤を作成できるほどの実力をもつ魔道士の中でも、ジジはその効能の高さ、正確さにおいて国内で右に出るものはいない。

一般的な魔道士では一本作成するのに二月ほど時間がかかる。

ジジはそのおおよそ三分の一の時間で、倍の数を作成できるというのだが、それにしても三十本とは、長期戦を見越しての準備であろう。


「私もゾイド様のお顔をもうずっと拝見していないわ。」


もしゃもしゃサラダを頬張りながら、レイチェルは赤い瞳を思う。あの人の事だから、また眠っていないのだろう。ご飯食べてるかな。。


「冗談じゃないわよね、無理やり婚約しといて無理やりこんなかび臭い研究所に放り込んでおいて、ちっともレイチェルを遊びに連れてってやりもしないし、贈り物の一つもしてないみたいじゃないの。」


婚約者失格よね、とプリプリとデザートのパイにかぶり付く。


ちなみに魔術師たちはみな一様に大食いだ。

魔力というものは、相当の熱量を消費するらしく、この少女のごとき小さなジジも一人でパイを3つでも4つでも食べてしまう。ジジほどの魔力保持者となると、一日中全速力で泳いでいるほどの熱量が、何もしないでも消費されるらしい。体の成長が止まってしまったのもうなずける。


最初は魔術師たちの食事量に目を丸くしていたが、もうすっかり慣れたもので、その食べっぷりの良さを見るだけでも、同僚達と食事を一緒にするのはとても楽しい。


「仕方ないわー、あのご多忙さですもの。それに蝙蝠石はいただいてるわよ。あ、ちょっとジジ、そのパイまだ私食べてない!半分寄越してよ!」


「あんなの贈り物のうちに入らないわよ。もうちょっと、花とかさ、ドレスとかさ、こう、乙女心をグッと掴むやつよ。レイチェルもおねだりすればいいのに、あなた達本当に枯れてるわよね。あ、レイチェルこそ、そのパイの中身全部食べた?ずるい!」


二人が、わいわい最後のデザートのパイに手をつけた頃、ノックもなしにドアがあいた。


「・・レイチェル嬢」


いく日かぶりに目にする、麗しの婚約者様だ。何日もまともに食事もしていないのだろう、

美しい瞳はくもり、頬は少しこけた様だ。もつれた銀の髪が気怠く、より色気が増して見える。


(つ、疲れているゾイド様も尋常でなく美しいなんて、やっぱりゾイド様、ディエムの神人の血縁かしら。。私が疲れたって吹き出物が出るだけなのに、、)


入室の許可も得ず、美しい男は少しよれたローブを引き寄せて、どっかりとソファに座り込んだ。


「レイチェル嬢、貴方に協力要請が出た。すぐに私と一緒に第二王子に御目通りを。ジジ、ポーションが全て完成するのはいつくらいになりそうだ。」


「・・何本必要ですか。期限は?」


「まずは六本。明日の月が昇るまでだ。」


ジジは先程までの子供の様な表情豊かな顔から一転、氷の様な冷徹な顔で一礼すると、言葉もなく部屋を出た。


レイチェルは、ようやく言葉を発した。


「ゾイド様、私に一体何ができるのでしょうか。」


ゾイドはソファに預けていた体をおこして、


「君の知識が必要だ。よりによって女神の神殿に術式が貼られた。解除できない場合は、おそらく開戦になるだろう。」


両国とも、女神信仰が篤い。

神殿が汚された場合、それが対立する国の仕業であると扇動された場合の国民感情は、両国ともに予想が易い。


「・・女神のお導きのままに」


震える膝を掴んで、それでも、レイチェルはそう答えた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポーション作りなんだと思ってんだか。」→ポーション作りをなんだと思ってんだか 助詞が抜けてますね
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