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やはりと言うか、通常運転というか。
ジーン子爵はデビュタントのドレスをまとい、ささやかな宝石をつけた娘を、感慨深くそして半ば呆れて、そして愛おしそうに眺める。
レティシア、レイチェルも今日で大人だよ。
亡き妻に心で話をしたのは半刻も前か。
白いデビュタントのドレスを纏った娘は、娘らしく初々しさに溢れ、地味な娘なりに可憐な美しさで溢れていた。が。
「レイチェル、ちょっとやりすぎたんじゃないか?」
「ヘラルド様、私もお止めしたのですが。。」
マーサもヘラルドも遠い目をする。まあ誰が何を言っても無駄なのだが。
実際、レイチェルの少なくない手持ちのドレスの全てが似たような状況なのだ。
レイチェルのドレスは白いすっきりとした肩の開いたシンプルなラインのドレスで、よくも悪くも無難な、デビュタントにふさわしいドレスだった、はずだ。
目の前にいるレイチェルのドレスには、首まできっちり編み込まれたレースと、・・・屋敷の鍋敷と同じレース、であるのはまだヘラルドにはバレていないーと、そしてドレス中を舐めるように謎の記号や文様、外国の言葉が埋め尽くされている。ご丁寧な事に白い布、白いレース、白いビーズで装飾しているので、遠目にはただの地味なドレスにしか見えない。近づいて見ると奇妙な柄に覆い尽くされていて、異様な体なのだが、少なくとも素敵な殿方にダンスにお誘いいただいた際に、このドレスによって令嬢の魅力が引き立つことはなさそうな残念仕上げになっている。
まあヘラルドはレイチェルは独身でも構わないので、目の色を変えて男の興味を引くような話題やドレスを用意しなくても良い。このデビュタントのドレスも、ちょっと禍々しいが、カットも色もマナーの範疇であり、少し風変わりな娘のデビューが、満足のいくドレスであれば、子爵はいうことは何もないのだ。
「レイチェル、君はとてもきれいだよ。このドレスで満足かい?」
「お父様、もちろんですわ。最高のドレスをありがとう。」
屈託なく好きなドレスを纏った嬉しさで溢れている娘を、優しい眼差しでヘラルドは見つめる。あれやこれやと文様やら記号やらドレスに埋め尽くされた装飾の説明を受けるが、内容は何も入ってこない。
レティシア、私たちの娘は、風変わりな娘だねえ。。