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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ゾイドの心

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黒い竜の胸で、レイチェルはポツポツと、話をする。

姿を変えた、ゾイドに、レイチェルは何も恐怖はなかった。


「。。テオ様に教えてもらったの。何もない、私を、私自身を愛すると言う事を。」


「。。ごめん、レイチェル。私が悪かった。それを教えるのは、私の役割だったのに。。。」


ねえ、

レイチェルは、そう涙をためた瞳で、赤い竜の瞳を見つめる。


「私、お誕生日だったんですのよ。お忘れでしょう。」


「。。ごめん。私はなんと不誠実な夫だ。。だが、。。私は自分の誕生日も覚えていないんだ。。」


「私は、ずっと。。不安だったわ、ゾイド様。。。」


黒い雷雲は徐々に晴れて来て、静かな、光の満ちた、美しい花園が広がる。


レイチェルが、眼下の花園に目をやると、いつの間にか下に降りていたメリルは、竜の姿のままで、そっとテオの側に寄り添って、慰めてやっていた。


(そうね。。私の心の声が、聞こえたしまったのね。。)


空で叫んだ、心の声は、テオにも聞こえただろう。

優しくレイチェルの心に寄り添ってくれていた、優しいテオは、レイチェルの心を知って、傷ついただろう。優しい、優しいテオ。

レイチェルの胸が痛む。

もしもゾイドがここまで迎えに来なかったら。


(テオ様と一緒になっていたかもしれないわ。。)


漏れ出ていた心の声が、ゾイドに聞こえたらしい。


「ギャー!!!!嘘だ、嘘だろうレイチェル!!迎えに来て本当によかった、ああ本当に君はいつだって、どうしてそんなに男たちの心を捉えてしまうんだ、レイチェル、レイチェル、どうやって君を捕まえていればいいんだ。。」


///////////////////////////////////


「。。。おかえり、レイチェル。それから、しばらくぶり、兄上。。」


テオは、晴々とした顔をしていた。

黒い竜と、レイチェルは、ふわりと風に乗って、傷心の若い男の側に降りる。

花園の花びらが舞い上がり、一面は、花の嵐のようだ。


花の嵐がゆっくりと舞い降りて、一面に静寂が広がる。


「やっぱり、兄上には敵わない。私はどうやっても、竜になれなかった。」


ズズッと、鼻をすする。

テオの人生を賭けた、竜人と、竜への愛を持ってしても、テオは竜にはなれなかった。


「でも、それでこそ兄上だ。絶対に私には叶わない。」


テオは、何一つ、ゾイドに叶った事など、今の今まで一つもない。

身長も、魔力も、仕留めた猪の数も、学力も、そしてレイチェルの心も。何もかもだ。

テオにとって、崇拝者のごとく尊敬するゾイドの竜化は、喜びであり、誇りであり、そして、レイチェルの心が得られなかった、一人の恋に敗れた男にとっては、いっそ慰めであった。


テオはくるりとレイチェルに向き直り、晴々とした大きな笑顔を見せた。


「それから、レイチェルは素晴らしい女性だ。やはり私の兄上が、見染めた女性だけあった。」


清々しいまでの、敗北宣言だ。

空は鮮やかに晴れ上がり、黒い雲は一遍も見当たらない。

だと言うのに、どこからともなく、天気雨がさらさらと、テオの顔を濡らす。


「テオ。。」


「テオ様。。」


「レイチェル、兄上、おめでとう。二人の結婚に心からの祝福を。下に帰ったら、私が二人の永遠の愛を誓う書類に、署名をする栄誉を。」


(下。。!)


レイチェルは、思わずゾイドの腕を振り払い、テオのもとにかける。


「テオ様、本当に下界に帰りたいの?ここは夢の国だと、とても幸せそうにしていたのに。」


人付き合いが苦手で、女性は本当に苦手で、優しい心で、生きることが苦しそうに、声をつまらせていた、そんな下界に。


「。。私は、君への約束を果たさなくてはいけないからね。竜人の国に連れて来てくれた、私の夢を叶えてくれた恩人の君へ、せめて約束を、守らせてくれ。」


ビオレッタ嬢のエスコート。


「それに、君は私に愛を教えてくれた。恋の甘さを、教えてくれた。恋の痛みを教えてくれた。私は、もう恐れない。きっと君以外の、誰か君のように素敵な人を、私だけの人を、見つけてみせるよ。」


そして苦しそうに、そして愛おしそうに、そっとレイチェルを抱きしめた。


ゾイドはぎょっとする。

この困った弟は、女性に触れることができなかったはずだ。


「竜人の研究は、もう終わりだ。レイチェル、愛しい人。私の夢を叶えてくれてありがとう。君は、紛れもなく私の運命を変えてくれた、運命の乙女だ。」


そして、テオは一瞬だけ目をつぶった。

次にレイチェルが知ったのは、レイチェルの耳に、美しい緑色の、しずくのような形をした宝石が、光り輝いている事だった。

テオが、流した、特別な涙だ。


「。。君を手放そう。だが、私が、私が心の底から君を愛したと言う証だけは、どうか、残させて欲しい。」


何か言いたげなゾイドをテオは一瞥すると、そう言い放った。

レイチェルの耳に輝く光を見るたびに、ゾイドは、己の腕に抱く乙女が、どれだけの思いの果てに手放された乙女であるか、思い知るだろう。


テオの、ゾイドへの警告だ。

2度と、泣かせるな。


そして、テオはくるりと背をむけて、気の毒そうにテオを見ていたメリルの首を抱くと、


「では、私は先に帰っているよ。ギー、君もようやく、ここから解放されるんだろう?」


いつの間にか現れていたギーは、苦笑いだ。


「ああ、テオ、その通りだ。君はさすがだね。リンジーに恋して敗れた男は、この私だ。私はこれでようやく上の階層に、行く事ができる。」


レイチェルは、ギーとの永遠の別れを予感する。

涙があふれ、そしてなんの言葉も出てこない。言葉は本当に、この国では意味をなさないのだ。


「上には何があるの?」


レイチェルは、苦しそうに上擦った事で聞く。

下に降りるテオ。上に上がるギー。テオには何かが、感じられたらしい。

ギーは、呟く。


「何もないよ。全ての執着を失った私は、肉体を失い、ただの意識体となる。そこは永遠の平和と愛の場所だ。ここにいた古い魂は、皆私を残して皆上の階層に行ってしまった。」


そして美しい優しい微笑みをレイチェルと、そしてゾイドにむける。


「私は、どうしても、なぜこの美しい国を捨てて、私を捨てて、穢れに満ちた下界に降りて、下界の男の愛を選んだリンジーの思いが知りたかったんだよ。この下界にほど近い階層で、下を見ながら、待ってたんだよ。君たちのような、鮮やかな色の愛と苦しみを持つ者たちが、私に何かを教えてくれるのをね。」


つい、と歩みを進めると、ゾイドの前に立つ。


「全てを捨ててまで、激しく求めるほどの激情は、いっそ暴力的ですらあるね。こんな暴力的な、激しい愛の前には、どれだけ傷ついても、どれだけ苦しくても、抗えないと言う事か。火を吹く火山の美しさに、誰もが心を奪われてしまうかのごとくだ。」


ギーの姿が、どんどん薄くなってゆく。


「さようなら。そして、ありがとう。リンジーの子孫。下界の愛は、実に美しい。」


「ギー様!!!」


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