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(なんでこんな目にあってるのかしら。。針持ちたいよう。本読みたいよう。。夜会から変な事ばっかり。。。。)
レイチェルは本日は馬車の中。
眼の前には己れの婚約者となったはずの男。
とても話が合う男ではあるが、情熱的な婚約劇とは裏腹に、その赤い眼に恋情の熱は感じられない。
だがゾイドは毎日毎日時間が許す限り子爵邸に通い詰めて、今日は己れの上司に自慢の婚約者を紹介したいと、急に王城に向かう羽目に。
レイチェルはゾイドと話をするのはとても楽しいのだが、大の苦手の社交にお誘いされてしまい、絶賛落ち込み中だ。魔法史資料館にもゾイドが多忙でやって来れない日にしかいけなくなってしまったので、今取り掛かっている新しい術式を手芸で展開する計画をずっと完成し損ねているので、知らない人とのお茶なんぞに出かけるくらいなら、引きこもって針を持ちたいのだ。
「レイチェル嬢、ここからゆっくり馬車で30分もかかりません。どうか緊張せず。気さくな方ですよ。きっとレイチェル嬢と話が合うはずです。」
「はあ。。。」
「庭園は今薔薇が見頃です。王妃が、王の誕生日に贈られた新種のバラが満開です。魔力で色を変えるので、魔術師達のささやかな悪戯で、毎日夜中に色が変えられていますが、今日は匂うような紫色でした」
なかなかロマンティックなお誘いを演出したとゾイドは自らに及第点を与えていたが、当のレイチェルは全くもって迷惑な話だ、と本気で思っているのだからつける薬もない。
王城は乙女の憧れ。
ましてや王妃の庭にてのお茶会など、夢みがちな乙女であれば飛び上がるほどうれしいお誘い、の、はずである。
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ヘロルドは徒らに年を重ねてきたわけではない。
あれほど王都を騒がせた二人の婚約だが、ゾイドがレイチェルに、タブロイドで大きく書かれている様な、麗しい恋をしているか、という部分については、父の目から見てはだはだ疑問だ。
仲はいいらしいが、うまく行っている政略結婚のような二人を見るにつけ、大変不可解なのだ。
ゾイドに全く益をなさない、地味な子爵の娘との婚約。
一体何が狙いだというのだ。このしがない我が家をどうこうしても何もないぞ。
そして今日は、レイチェルはゾイドの婚約者として、非公式に王城にお茶会のお招きに預かっている。
ゾイドの上司が是非会ってみたいとの事。
ちなみにヘラルドは王城に参上した事は片手で数えて余るほど。まだヘラルドからすればほんの子供、それも相当な変わり者のレイチェルがどんな粗相をしやしないかと、深い溜め息と共に深々とソファに身を沈める。
(もう引退しちゃおうかな。。)