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テオも、ゾイドも生粋の大貴族の子弟なのだという事を、こうも思い知ったのは、初めてだと、レイチェルは思う。
高い丘を、グルグルと魔馬の馬車でのぼりながら、レイチェルはその風景に心を打たれていた。白鳥城という呼び名は、白鳥のごとく美しいその城の姿そのものと、その目の前に広がる、湖に遊ぶ白鳥を指しての事らしい。
羽ばたく白鳥の群れ。紫の小さなリンデンバーグの群生。
レイチェルは物語のお姫様になった気分だ。
「レレレレイチェル、ち、父上はあと数日、し、仕事で領地を離れているが、は、母上が、で、でむ、迎える。」
テオもゾイドも、屋敷の門が近くなると、上衣に袖を通し、きちんとボタンを首まで止めて、身だしなみを整える。髪に櫛を入れて、あっという間に煌びやかな貴公子の完成だ。
「あら!テオ様もゾイド様も麗しい!私、二人の王子様にエスコートされる姫君の気分ですわ!」
ゾイドも機嫌よく、冗談を飛ばす。
「レイチェルの王子であるなら、この面倒ごとばかりの外見も悪くはないな。」
レイチェルは、冗談のつもりだった。
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(な、なによ、ここ。。。)
馬車が止まったのは王宮の正門かと思わんがばかりの壮大な門。
壮大な門はツタの意匠の、黄金の作りになっている。
奥は見えない。
広すぎて、遠すぎて、見えないのだ。
(嘘よね、ここはまるで王宮じゃない。。)
豪奢な黄金の門の前に馬車が止まると、意外なことに、門は開かなかった。そのかわりにグルグルと渦が発生し、門に紫色の魔法陣が表れ、馬車は、馬ごと吸い込まれて行ったのだ。
「ゾイド、様、きゃああ!!」
レイチェルは驚いて、ゾイドの袖にしがみ付く。
。。そして気がつくと、馬車は正面の扉の前まで到着していた。
「ああ、魔法伯家は、仕掛けだらけだから、慣れないと驚きますね。」
ゾイドはクスリと微笑を称える。
(可愛いな。。)
これから過ごす、リンデンバーグでのレイチェルとの甘い日々を、ゾイドはうっとりと、思いをはせる。
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「おかえりなさいませ!!」
馬車を降りて、テオが何か白い光を放つ魔術を使って、これまた壮大で、そして複雑で重厚な、何やら魔石が入っている作りの正面扉を開くと、そこにはずらりと頭を垂れて、左右に別れて主人の帰館を待ち居並ぶ使用人の頭の、海だった。その数は、おそらく、王宮の離宮の使用人の数よりは、多い。
王都のリンデンバーグ家のタウンハウスですら、完全にレイチェルには許容量をおおいに、超えてしまっていたというのに、この領地の城は、完全に王宮そのもので、この二人の(レイチェルにとっては)変人は、このリンデンバーグ領では、まさに王子様そのものだ。
(か、数を数えるの、やめときましょう。。。心臓に悪いわ。。)
迎えられたその頭痛するほどの使用人の数に、レイチェルはもう考えることを放棄した。そうだった。ゾイドは色々と、規格外だったのだ。
(そうだったわ、テオ様だって、正直、ただの妙なお方だと思っていたけれど、ゾイド様も、テオ様も、雲の上の貴公子様だったんだわ。。。)
いつもは挙動不審のテオも、実家は安心できる場所らしい。
堂々と使用人達の労を労いながら、姿勢良く真っ直ぐに歩みを進める。
実家ではさすがにメガネもしない。無造作に髪を撫でつけて、金の瞳を無防備にあらわにしているテオは、正直、麗しい王子様のごとく。
(なるほど。。。この形態のテオ様に、ビオレッタ様は恋したわけね。。やっと謎が解けたわ。。。)
正直、ビオレッタほどの娘がテオに入れ込む理由など、レイチェルは今の今までさっぱり覚えがなかったのだ。
こうして貴公子然としたテオは、ゾイドと並んでも引けを取らないほどに、華やかな美貌を誇っている。
レイチェルはこの美しい二人の貴公子の間で、ヒョコヒョコと申し訳なさそうに歩みを進めるが、久しぶりに、改めてこの二人が、王家に程近い、この国で最も夫にと望まれる独身の貴族である事を痛感していたのだ。
そして、傅く使用人達の海・海のその先に、一人の絵画の少女の様な、清楚な美しい貴婦人が、妙なネコを腕に、3人を迎えて、待っていた。




