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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
テオ、という問題児

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「綺麗。。。でも、なぜ。。」


レイチェルは、ハンカチから飛び立っていった光の柱に目を奪われていた。

明らかに、飛び立っていったのは蝶でなく、銀の竜。

そもそも、なぜ術式もかけていないただの刺繍が、飛び立っていったのか、レイチェルは呆然としている。


「綺麗だろう? あれがメリルの魔力だ。飛龍の魔力がそのまま、君の刺繍の中に閉じ込められたものを、兄上が解放した。」


テオの目は爛々と輝いていた。

テオの言葉に淀みがないのは、テオの心と言葉が完全に一致した証拠だ。

ジジは、淀みなく言葉を紡ぐテオを驚愕の目で見つめた。この男が淀みなく言葉を紡いだところは、初めて見たのだ。


「石の乙女か。。まさか、「石」の謂れが、ここからとは。。学説は全部、ひっくり返るな。貴女はいつでも私を驚かしてくれる。」


その横でゾイドは、おかしそう笑っている様子だ。


「え。。? 石の乙女の謂れは、呪いの泉でも石にならないからでしょ、ゾイド様。」


ジジは、呪いの泉での出来事を思い出した。「石」はあの泉からの呼び名だったはずだ。


「そうかもしれない。だが、古文書の中で「石」に関する記述が一番多いのは、竜の力を利用した魔術の記載の中に現れるんだ。

おそらく、現在では再現できなくなっていた古代の竜魔法は、石の魔術師の手が関わっているものだ。それで、全て説明がつく。」


テオは、銀の髪をかきあげて、爛々と光る金の瞳を真っ直ぐに、堂々とレイチェルを見据えた。

ゾイドによく似たその美貌だが、ゾイドとは違い、炎の魔力の持ち主だという。

金の瞳は、炎が宿った様に美しく、爛々と輝く。


(さっきまで、私に近づかれたくらいで逃げ回っていた男とは、大違いだわ。。)


ジジは、テオとは長い付き合いだが、メガネを外したテオも、言葉に淀みがないテオも、初めて目にする。

この男が、これほどの美貌の持ち主だったという事も、初めて知った。


(でも、ものすごく、面倒ごとが始まる予感がするのは、何故かしら。。)


レイチェルも、テオに見せてもらって、いくつか竜の魔力を利用したと言われる魔術の、魔法陣を刺繍してみたことがある。


非常に不思議な古代語で編まれてあり、刺している最中はとても楽しかったのだが、テオも最初から教えてくれていた様に、やはり発動は、しなかったのだ。発動したら暴風をもたらすとかなんとかで、古代の戦争で使われた事がある記録があるらしい。


何が鍵となってこの魔法陣が発動するのか、まだ判明していないとも。


「魔力は持ち主の竜の体を離れたその瞬間から、他の魔力に触れると、消滅していく。魔力は水の様なもの。水の流れの様に流れていた魔力が、他の魔力に阻害されて、消えてしまうんだ。魔力は、生命そのものだ。竜の骨や、皮や、牙に結晶化して残った魔力のかけらを媒体にして、道具として利用して作成するのが、魔道具。」


興奮しているのだろう、言葉が次々と、淀みなくテオの口をついて流れてくる。


「だがレイチェル、君は、魔力がない。持ち主の竜の体から離れた魔力を、君は阻害せずそのままに、利用することができる。そして、君は刺繍という魔法を使って、その魔力を邪魔せずに、そのまま発動させることができる、稀有な魔道士だ。」


すごい、すごいぞ、とテオは震え出す。


「。。レイチェル、私も見てみたい。この糸で、いつもの通り、何か祝詞か、陣を縫ってくれないか。簡単なものでいい。竜の魔力によって、いつもと違う発動をするはずです。」


ゾイドが、レイチェルのつむじに口づけを落として、レイチェルを促した。


「ゾイド様。。」


(蝶が飛んでくれたぐらいだし、祝詞だったら、、天上の音楽が流れてくれたりするのかしら。。)


レイチェルは、躊躇いながらも、いつもの様に、簡素な女神の祝詞を、残った銀の糸で刺してみる。

いつもであれば、少しの祝福が与えられるだけの、小さな小さな祝詞だ。


3人が熱い視線で見つめる中、レイチェルは一針、一針繋いでみる。

じわり、じわりと一針ごとに、竜の熱い魔力が糸を走る。


レイチェルが刺し終わった瞬間。


大きな光の渦が発生し、レイチェルも見たことのない様な、強力な女神の祝福が発動し、部屋中がキラキラと輝く光で満ちた。

そして、ミシミシとゾイドが作り上げた結界の壁を揺さぶり、そして壁は光に吸い込まれて行った。


ゾイドの魔力が、押され負けたのだ。


テオはゴクリ、と唾を飲み込むと、強烈な興奮で、だらだらと額から落ちる汗を拭うことも忘れて、立ち尽くしていた。

ゾイドはショックで、固まっている。


「うわ、ここまでの出力になるなんて!ちょっとゾイド様、これ、本当に、まずいんじゃ。。」


ジジは青くなる。ゾイドの魔力に匹敵する魔力の持ち主など、この大陸の中で、片手で数えられるほどしかいないのだ。


「ジジ、テオ、この件は他言無用だ。いいな。」


ゾイドは、それだけいうと、レイチェルが刺していた刺繍と、銀の糸を手に取ると、その場でぼう、と炎を出して、灰にした。


次の瞬間、


「ジジ様!何事ですか!!」


強力な祝福の光を目にした、公国からの警備隊と、そして王宮からの兵隊が部屋にバタバタと雪崩れ込んできた。

今やジジは、厄介な身分の頂点に君臨する様な、やんごとなき身の上なのだ。


ジジは、咄嗟に部屋に流れ込んできた兵達に、優雅にひらりとドレスの裾を翻すと、子供の様な振る舞いだった先ほどとは打って変わり、

次期大公にふさわしい、貴婦人のごとく笑みを浮かべて、威風堂々と大嘘を、言い放った。


「みな、ご苦労。公国への功績を称えて、女神の祝福を、この者達与えている所だ。」

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