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ローランドは、静かで生真面目な男ではあるが、大変有能な男である。
伯爵家の次男として、出生時より大変高い魔力を有しており、魔力の高い貴族の子弟を集めて英才教育を与える機関、通称「ギムナジウム」出身だ。
ギムナジウムでも優秀な成績を修めた者に与えられる青い盾ーグラン・ドヌーブの受賞者だという点のみからでも、ローランドの能力の高さはうかがえる。
近衛に選ばれてよりは、その大変優れた記憶力が重宝されて、新人の頃からよく諜報活動の共に連れて行かれた。
若くして第二王子の近衛副隊長に任命され、昼夜問わず第二王子の手となり、足となり活動しているのは家柄だけではなく、表には出てこない影の功績の大きさもある。
ローランドは写真記憶と言われる、みたものをそのまま写真のように記憶する能力があるのだ。
戦時では敵陣で展開された術式を記憶して、紙に書き起こして発動の再現をして魔道院に情報を渡したりするのだが、一度見た顔は決して忘れないという能力の方が第二王子には大変役に立っており、こうして平時はよく人物調査に利用されるのだ。
(レイチェル・ジーン嬢か、妙な術式をドレスにかけていたけれど、そんな面白い一人遊びしているような令嬢、何か良からぬことを企んでるに決まっているだろう。ゾイド様はすっかり魔術の事しか報告がなかったけれど。。)
ローランドはジークから言外に、レイチェルの人となりを探ってこいと言われているのだ。あのゾイドの魔術馬鹿では、面白い魔術を見せつけられたらもうそれ以外見えないと、ジークももうわかっている。ジークはレイチェルに興味をもったのだ。
ローランドはあまり仕事の対象に興味をもったりはしない。
仕事は仕事だ。
だが今回は少し別だ。
茶色い大きな目をした、雀斑だらけの地味な顔を思い浮かべる。
魔法史資料館に馬を急がせる。ゾイドによると、あの令嬢は四六時中かび臭い資料館に籠もって、遊びに利用する為の知識を東西南北からかき集めているらしい。
大変贅沢な、そして貴族令嬢としては本当に無意味な趣味だ。
彼女を観察するなど造作もない事だ。
白にブチの入った愛馬に乗って、おおよそ城から馬で20分。急ぐ事もない。ゆっくりとアブミを踏んで城を後にした。