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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
結婚、そして

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天幕の外が騒がしい。


兵士たちが大騒ぎをしている様子。竜の子が生まれ、そして砂漠に雨が降った後だと言うのに、それ以上の大騒ぎだ。一体何事だ。


「一体何事だ、騒々しい。」


「ああユーセフ様!ゾイド様と、レイチェル様の、結婚式ですよ!」


前を走っていたアストリアの若者が、大きな笑顔で答えた。


「な、、結婚???」


「早く行かないと、見逃してしまう!ユーセフ様も急いで!」


/////////////////////////////////


ヒヤリと冷たい、薄薔薇色の花の上に、ゾイドはその素足を置いた。

目の前には、愛おしいレイチェルがいる。ゾイドは気が遠くなる。


(きっと、これは、夢か、幻だ。。)


レイチェルの左の手をゾイドの右の手を、肩のところで合わせて、ゾイドは右に回る。


「あなたの生涯の良き友である事、信頼のおける夫である事、そして永遠の恋人である事を、砂漠の神の名の下に、誓う。」


震える声で、教えられた砂漠の誓いの言葉で、ゾイドは永遠の愛を誓った。


そしてレイチェルは、満面の笑みで、ゾイドを見つめると、ゾイドの左に周って、誓った。


「あなたの生涯の良き友である事、貞淑な妻である事、そして永遠にあなたの恋人である事を、砂漠の神の名において、誓います。」


そしてレイチェルは、さっき2つ作ったばかりの、メリルの体に絡みついていた氷山に咲く花でできた花輪をゾイドと交換した。


そして、本来ならば、空に高く届くほどの高く作った甘い焼き菓子をお互いに食べさせあう。

だが、二人はレイチェルの持っているた、小さなすみれの砂糖漬けの入った、ささやかな飴玉をお互いの口に放り込んだだけ。


たった、それだけ。


そしてヤザーンが、長い祈りを砂漠の神に捧げた。

長い、不思議な抑揚のある、砂漠中に響き渡る、その祈り。


「アッカ」の神の名を知る神官は、その神の名の下に置いて、厳かに、レイチェル・ジーンと、ゾイド・ド・リンデンバーグの結婚を、宣言した。


メリルが大きく咆哮する。

その衝撃で、ゾイドも、レイチェルも、ヤザーンも。薄薔薇色の花の、絨毯の様に咲き誇るその上に、ひっくり返されてしまった。


レイチェルは大笑いだ。ゾイドも大笑いだ。

ヤザーンは、メリルにプリプリ怒りながらも、泣いて笑っている。

周りを囲んでいた皆は、大きな笑いと、そして祝福で大騒ぎだ。


このささやかすぎる、儀式を持って、レイチェルとゾイドは、夫婦になった。


////////////////////


ユーセフは、喧騒を眺めていた。


今日はおそらく、砂漠の一番の良日なのだろう。

砂漠は薄薔薇色の絨毯を敷き詰めた様な美しい花の乱舞。

砂漠に雨が降った後の、たった一日だけの奇跡だ。


生まれたばかりの白い子竜は、水晶のごとく美しい花を纏わりつかせて、ヒョコヒョコと踊り、まるで天界の生き物のごとくだ。


零れんばかりの情熱を隠そうともせず目の前に立ち尽くしていたのは、悪魔の様に美しい、砂漠の偉大なケマル・パシャ。

銀のその髪は、砂漠に落ちる月光の様。赤いその目は、砂漠の赤い星の様。その悪魔の様な完全に美しいその姿を包んでいるのは、簡素な魔道士のローブと、平服。そして裸足。


その男が、息も継げないほどの情熱を込めて見つめているのは、ユーセフも愛した、平凡で地味な娘。


砂漠の、古い黒い服をきて、真っ直ぐな茶色い髪に、化粧もしない、雀斑だらけの地味な顔。

裸足。今日は一段とまた、地味な装いだ。だと言うのに、砂漠の秘宝、竜の喉の石でできた指輪をはめて、みた事もないほどの、美しい青い石を首から下げている。この娘は砂漠の聖女。砂漠の大恩人だ。


二人は永遠に続く砂漠の花の絨毯の上で、楽団も、響宴も、花嫁衣装すらないと言うのに、実に幸せそうに見つめ合っていた。


この、世にも華やかで、世にも地味な二人の、ささやかで、そしてこの上なく贅沢な結婚式。


豪快に幸せそうに大笑いをしている、地味な花嫁。

幸せが極まって、花の絨毯から立ち上がれない悪魔のごとく美しい花婿。

感動で鼻水をだらだら垂らして泣いている、宦官。


その周りを、白い子竜が跳ね回り、アストリアの男達も、砂漠の男達も、皆二人の幸せを願って、とてもうれしそうだ。


その時である。


ユーセフと、ヤザーンははっと、顔を見合わせた。

確かに、風が吹いたのだ。その風は、とても弱いが、懐かしくも愛おしい、あの風。


ユーセフが後ろを振り返る。


一瞬。

ほんの一瞬だが。そこには、確かに、白く輝く、幻の馬の様な、生き物が、音もなく駆けていたのだ。


(「アッカ」の神よ。。。!)


神が、ヤザーンの祈りに答えたのだ。

若い二人への前途への、心の底からの、神官の祈りに、砂漠の神が答えたのだ。


後何百年かかっても、人々の真摯な祈りに耳を傾けて、砂漠を駆け回る日を、この神は待っているのだ。


神の姿を見たのは、ユーセフは初めての事だった。ユーセフは次々に溢れてくる涙も拭わずに、砂漠に立ち尽くしていた。


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