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その頃、ヤザーンは魔術で副都と交信していた最中だ。
砂漠で起こった出来事についての情報を通信しているのだ。
そんな真っ只中、いきなりやってきたゾイドに首根っこを掴まれて、レイチェルの前まで飛んで行かされて、何が起こったかさっぱりわからない。
「なななな、何をされるのですかパシャ!!」
この所、ヤザーンにはこんなことばかり起こるのは、どう言う事だろうか。
レイチェルが、満面の笑顔でヤザーンに近づいてきた。
レイチェルのこの笑顔は、可愛いのが要注意だ。
大抵面倒な事をお願いされるのだ。
ヤザーンは身構えて、どんな厄介を持ってきたのか、レイチェルの言葉を待つ。
偉大なケマル・パシャの焦りに焦った行動に、砂漠の男達がわらわらと集まってくる。
おおよそレイチェルの前以外では、感情の見えない落ち着き払ったこの男が、焦りをこうもあらわにするのは、やはり、大変珍しいのだ。
「ヤザーン様、ヤザーン様は砂漠の神の、神の名を知る神官だったのでしょう?」
ニコニコと、レイチェルは聞く。
何を言うのかこの娘、と言う目つきで、だが大変誇りを持っているのだろう。
砂漠の神の、その本当の名を知る神官は、最高位の神官なのだ。
少し胸を張って、ヤザーンは答えた。
「もちろんだ。言っただろうレイチェル?世が世であれば、私は辺境の部族の王の長子としてで、砂漠の神の神殿の神官の長であった。そもそも。。」
ここからの話はいつも長くしつこいので、レイチェルはさっさと話に割って入る。
「じゃあ、ヤザーン様、今すぐ私とゾイド様を結婚させて!砂漠の神のお許しがあれば、私、結婚できるのよね!」
アンリ先生から聞いた砂漠の結婚。
娘の織った2枚目の絨毯の上で、裸足になって、花婿が花嫁の右に回り、花嫁が花婿の左に回る。
そして神の名を知る神官によって、祝福を受け、夫婦とされる。
ヤザーンは何を言われたのか理解するのに少し時間がかかった。
そしてゆっくり、今レイチェルが、自分に大陸で最も名誉ある神官の役割を乞っていると理解をする。
ゾイドとレイチェルの、結婚。
砂漠の偉大なケマル・パシャと、砂漠の聖女、竜の母の結婚だ。
。。。いや。そうではない。
大切な馬鹿娘、レイチェルの嫁入りだ。
(そんな大役を、私などに。)
レイチェルが望めば、王都の最高神官が平伏してその役にあたるだろう。
国中が喜び、砂漠の全ての黄金が奉納されるだろう。
(だと言うのに、この私なぞに。)
ヤザーンの胸は熱くなる。
神官であったのは遠い昔。今は亡国の出身の、ただの宦官だ。レイチェルも知っているのに。
この手間のかかる馬鹿娘は、ヤザーンを、兄の様に慕っているのだ。
ヤザーンは目をつぶると、砂漠の神に、深い、深い感謝の祈りを捧げた。
そして、興奮して我を忘れている、砂漠の偉大なパシャに、ヤザーンは労る様に言った。
「。。。ではパシャ、その靴を脱いで、こちらに。」




