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まーあそれから。ゾイドとレイチェルは大変に話し込んだ。
レイチェルは結局ゾイドの事は何一つわかりはしなかった。
なぜ夜会の日にあんな振る舞いをしたのか、大体ゾイドはなぜレイチェルと婚約を申し出たのか、それから趣味は、家族は、そういう会話は一切なしだ。
ゾイドも結局何もレイチェルの個人的な事は聞かなかった。二人は魔術の事で、それはそれは盛り上がったのだ。
「まー!ゾイド様わかりました?夜会の時のドレスは3重守護にしてみたんですよ、でも同じ系列の守護なんて工夫がないじゃないですか、だから祈祷文とー、紋とー、後一つなんだったと思います??」
「最高だよレイチェル嬢、あの祈祷文のあの部分を抜粋するなんて、並じゃないし、あの憎たらしい魔術の歪みは裏地にわざわざ歪みを生じる他の祈祷を入れてたのか!」
レイチェルとゾイドは二人にしかわからない魔術オタクトークで何時間も話し込んでいたのである。
レイチェルが資料館で少女時代のほとんどを過ごしたのは伊達ではない。王立魔術研究所でも、国内外、古き、新しきの魔術の紋について知識をもつ人材はそうそういない。彼女は手芸に使える紋にばかり知識が偏っているが、研究所の連中では考えられないくらいの遊び心で、考え付かないような組み合わせで魔術を縦横無尽に己のドレスに展開させているのだ。
「あれは全部白い糸だったので、色の力を頼れなくて結構大変だったんですよー」
「レイチェル嬢、色によって発動する出力が違うのか?」
「出力する魔力の質が違ってくるので、微調節するには色糸!なんですよ!でも今回裏が強くなりすぎちゃって、急遽サイズ変えたんですよー」「それは初耳だ。早速研究室で実験をしてみないと」
「あ、やっぱりピンクは魅了系に効きますよ。毒っぽいのは紫だと深く掘られたり。アップリケの場合は、アップリケの芯に増強する祈祷入れたら3割ましくらいになったり、裏技あるんですよ。」
夕陽もとっぷりくれた後ようやく、一見無表情のままのゾイドは、来たときと変わらぬ無表情で帰って行った。
「ああ本当!に楽しかったわ!明日もおいでにならないかしら。」
顔面蒼白で側で控えていた、マーサの気苦労も知らずに、レイチェルははじめて趣味の戦友を得た気持ちでご機嫌な一日だった。
明日どころか。その後ゾイドは一週間も連続でレイチェルの元に通い続けたのだ。