130
サンルームの美しい日差しの中にいたのは、地味極まりない若い娘と、少し美人と呼べるだろう、裕福な商人の妻と思われる女と、赤ん坊だった。
こちらを振り向かず、娘は赤ん坊のお包みに何か縫い取りをしているようだ。
「。。これでマリベル夜泣きしないといいけどね。ちょっとだけ横に揺れるようにしておいたから、夜泣き始まったらこの上にねかさせたらいいわ。」
「流石ね、やっぱりレイチェルにお願いするのが一番ね。」
どうやら私は無粋にも、若い姉妹の久しぶりの団欒を邪魔したらしい。
この美人の方から、水の魔力を感じるが、この地味な方からは、何も感じない。
息子が微笑んで歩み出る。
「可愛い人。あなたがあまりに美しいので、領地から招かざる客がきてしまいました。」
地味な方の娘は、そうですかー、と気の無い返事をしながらも手を止めない。
確かな手つきだ。
見事な縫い取りは、素晴らしい新しい生命への古い祝福の数々が縫い取られていた。なかなか渋い祝福の紋様の組み合わせに、この製作者である娘の深い知識が覗かれる。
そしてどういう訳だか、この娘が今まさに、蜂蜜のように甘い、息子の笑みには振り向きもせずに取り掛かっているのは、(そんな顔をしている息子を見たのは、10を超えてから、一度も無い)確かこれは、地の神の呪いの一種だ。こんなものを縫い付けたお包みなど、赤ん坊にどんな害を及ぼすか。。
美人の娘の方は、それでも私の顔に覚えがあるのだろう。
息子の言葉に反応して私の顔を見ると、真っ青に震え、立ち上がってぎこちなく淑女の礼を取る。
「これは、伯爵閣下におかれましては、ご機嫌麗しく。。。」
地味な方の娘は、私の存在に気がついてもいないらしい。
美人の方の娘が色々と私の方に注意を向ける様に小さな声で言っているが、まるで聞いていない。
ゾイドはニコニコと、愛おしそうに娘を眺めながら作業を見守っている。
手芸の事は何もわからないが、娘は糸の色を青に変え、何かブツブツといいながら芯を入れ、布をひっくり返し、ようやく完成した様に見えるお包みの上に、今度は赤ん坊を乗せた。
「姉様、上手くできたわ。もっと強い振動がいい様だったら、また持っていらして。」
お包みの上に乗せられてすぐ、薄い呪いが発動して、細かく布が振動した。赤ん坊は気持ちよさそうに、すぐにまぶたを閉じた。どうやらこの振動が気持ち良いのだろう。
。。。この娘、恐れ多くも地の神の呪いを使って、夜泣きの赤ん坊の為に、赤ん坊を乗せたら地の呪いに触れて揺れる様に、お包みを細工していたのだ。
(。。。見事だ。。そしてなんという呪いの無駄使い。。。)
罰当たりな、と思いそして思い直した。呪いは罰そのものなのだから、使い方としては間違いではないのか、いやなんだこれ。
娘はようやく私の存在に気がつくと、怯えた様にゾイドを見る。いや、私に怯えるくらいなら、先程縫い取っていた地の神の呪いの方がよほど恐ろしい、とは思えないのかこの娘。
ニコニコとついぞ存在すら忘れていた、エクボまでその麗しい顔の端に見せて、ゾイドは言った。
「ご紹介が遅れました。彼はウィルヘルム・ド・リンデンバーグ魔法伯爵。私の父、そしてこの屋敷の主人です。大方貴女の顔でも見に、先触れも出さずにやってきたのでしょう。どうぞお気になさらずに。」




