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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
二人の狭間で

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レイチェルがミスリルの扉を開けたその瞬間、水の流れに誘われるかのごとく、レイチェルとジジは、扉の向こうの部屋まで押し流された。水流は前回よりも勢いの力をましていて、ジジが泉に与えた魔力の大きさが伺える。


「ゲホ、ゴホ。。。」


ジジには負担が大きかったらしい。

小さな体を震わせて、飲み込んでしまったらしい水と格闘していた。


「はあ、はあ。。って何?この場所。。。」


小さな部屋にたどり着いたジジは、この度二度目の訪問になるので極めて冷静なレイチェルに、信じられないという目をむけた。


「。。これの為に私、フォート・リーまで誘拐されたらしいのよね。この内容を読んでしまうとまあ納得なんだけど、まさか本当にジジを呼んでくるとはびっくりしちゃったわ。。」


申し訳なさそうにレイチェルは言葉を濁らせる。

まさかアストリア国からジジを呼んでくるなど、絶対にありえないと思っていたからこそ、切った啖呵だ。

思い切りジジに迷惑をかけてしまったらしい。


ジジはレイチェルのいう事も耳に入ってこない。

必死で壁面に目を走らせる。この壁に書かれてある事項こそが、大いにこの国の魔道士達を混乱させている事項その物に違いない。ジジはゴクリと喉を鳴らして、理解できる範囲だけでも読み取ろうと必死だ。


「なるほどね。。。。」


ジジはある程度まで読み取ると、大きなため息をついた。

壁面の物語はロッカウェイ国で、民間伝承の類で聞いた事のある話ではあったが、正史にはその記録はない。

この呪いの泉の神殿の遺跡の解析には、どうしても「石」の、神殿の乙女が必要な訳だ。


レイチェルは、部屋の角にある石板まで、ジジの手を引いてやった。

ぼんやりと光るその石板こそが呪い発生源だ。


「まあ、そういう事らしいわ。。。ところでさ、ごめんね、ジジ。4つも石板あるんだけれど魔力足りる?」


ジジは大きくため息をつくと、ようやく現実に引き戻された。

そもそもこの石盤の呪いをどうにかする様為にこの国に呼ばれたのだ。

レイチェルのこの、極めて現実主義な部分はジジの大好きなレイチェルの長所だ。感傷的になるのはちょっとだけ。ちょっとが済んだらさっさとなすべきことは終わらせてしまおう。

この前代未聞の遺跡の記述を前に、まるで料理の材料を確かめるかの様に魔力の量を尋ねる口の利き方に、ふと己の赤い目の上司を思い出す。


(案外、似たもの同士なのね、この二人。)


ジジは本当に危ないんだけどな、本当に大丈夫なんだろうかとブツブツと呟きながら、足首につけていた細いアンクレットをちぎった。

その途端、ジジの体から、火の柱の様な魔力が溢れ出す。


「ジジ。。あんた何者なの??よく生きてるわね。。」


今度はレイチェルが、信じられないものを見る目でジジを見た。レイチェルは、ゾイドからジジの魔力は命の危険を及ぼすほどだと聞いていた。だが、ここまでとは。よくぞ成長不全ですんだものだ。


「この魔道具は、ゾイド様に作ってもらったのよ。死にたくなければ一生何があっても外すなって言われてた代物なんだけど」


ジジは炎の様なその魔力を、白い石板に叩きつける。石盤は音もなくその魔力を吸い続ける。


/////////////////////


夜明けだ。東の空は白い光に溢れ、鶏の鳴き声が夜の終わりを告げる。泉からは4つの緑の光の柱が立ち登っていた。

泉の水面から蠢く光が引いてゆく。水面は朝日を写して美しく光を反射している。呪いの元は消えたのだ。この泉はまた、聖水をたたえる聖なる泉として人の訪れを待つだろう。


ぴょこん、と茶色い頭が水面から飛び出た。


「「レイチェル!」」


二人の男の声が同時に響く。


赤い目の男と、金の目の男は苦々しそうにお互いを一瞥した。

一晩中この二人は、一言も言葉を交わすことなく、だがお互い身動ぎもせずに、そこにいた。

正確には、交わすべき言葉が見つからなかったのだ。


レイチェルはそんな二人に気がつかず、呑気な声を響かせた。。


「すみませーん、どなたかローブを二着投げてもらえますか?」


「おいレイチェル、無事か?ジジ様はどうした?」


ルークが前に進み出て、甘く優しい声をかける。ルークの少し高い美声は、よくとおる。レイチェルはルークの声に嬉しそうに手をふる。


「ルーク様、ジジも私も無事は無事なんですがねー、ちょっと乙女的な不都合がありましてー、こっちに大きいローブを投げてくださいな。」


乙女的な不都合の意味をよくルークは理解しなかったが、近くにいた魔道士が羽織っていたローブを手渡してくれたので、レイチェルのいうままに投げてよこした。


ゾイドはレイチェルの声を耳にして、氷の様に固まっている。

そばに控えていたローランドは、「表情の見えない」「赤い氷」の呼び名のこの男の顔をそっと確認して、そして目を伏せた。ゾイドの頬に、一筋、涙が伝っていたのだ。


レイチェルは、ゾイドに気がついていない。

ありがとう、と呑気な声を再び響かせるとこぽん、と水にまたしずみ、今度はローブを着込んで、それから同じローブに覆われたジジと思われる人間を引き揚げてきた。


今度はルークが氷の様に固まる番だった。ルークは目の前の現実が受け入れられない。


レイチェルの腕の中にいたのは、魔力による成長不全で子供の姿をした、悲劇の公女ジジではない。


(ディエムの園に遊ぶ、妖精だ。。。)


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