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銀の矢のごときルークの愛馬は、二刻もせずに二人を泉まで連れて行った。馬車では半日以上の距離だったはずだ。
「レイチェル、驚かせて悪かった。目を開けて良い。」
地を割るような振動が止まり、優しい声が頭上から聞こえる。馬の嘶きの他に、何も聞こえない。どうやら泉についたらしい。
レイチェルは恐る恐る目を開けて、ルークから体を離した。
泉の周辺には大勢のローブの男達が何かを囲んでいる。誰かが溺れかけている。少女だ。男達は溺れかけている少女を前に、何もできずに見ているだけだ。レイチェルはその少女の顔を見た。
「ジジ!」
ジジだ。
レイチェルは弾けたように馬の背から飛び降りると、裸足のままで泉に駆け出した。
「レイチェル!まて!」
後ろでルークの声が追うが、レイチェルはそのままざぶざぶと、泉に飛び込んだ。
「ジジ!しっかり!」
レイチェルはジジの体を支えて、ようやくジジは大きく息をついた。水面ギリギリに顔をなんとか出していたらしい。
「死ぬかと思ったわ。。久しぶりね、レイチェル。。」
レイチェルに掴まりながら、ようやく息がつけたらしく、ほう、と大きな息をついた。
「ジジ、あんたこんなところで何してんの?」
レイチェルは目を丸くして、最もすぎる問いを投げかける。
「
あー、あんたを迎えにくるついでの調査協力よ。ローランドもいるわよ。」
遠くでこちらの方をむいて、手を降っている男は間違いない、ローランドだ。レイチェルは、胸がじんわり熱くなるのを感じた。
「レイチェル、あんたこんなところで随分良い男と知り合ってたのね。心配して損したわ」
カラカラと余裕を見せようと、ジジは笑うが、ジジの体温は低くなっている。それもそのはずだ。冬の入り口に差し掛かっている今、何刻も泉にその小さな体を浸しているのだ。ジジの体力にも限界がある。
「ばかね、ジジ。。ジジはああいう殿方が好みなの?」
レイチェルは涙をうかべ、口の減らない友人の無事を喜んだ。
「きてくれた早々悪いんだけど、さっさと呪いの源まで連れて行ってくれない?ここの泉は呪いを破らないと、どうやら私を開放してくれそうにないのよね。」
レイチェルは言葉なく頷くと、ジジの体を、ミスリルの扉まで促した。この扉の向こうに呪いの源があるのだ。
ジジは壁面に目を走らせながら、レイチェルの導きに従う。レイチェルは、ミスリルの扉の前まで導くと、そのとってに手をかけた。
「
。。ジジ、ここからは潜るわ。少し苦しくなるけど、覚悟はいい?」
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放った小鳥を追いかけて何刻の時が過ぎただろうか。ゾイドはキラキラと水面が昼間のように光流、泉のほとりに到着していた。
ゾイドは馬の背から降りると、歩みを進めた。ローランドがいる。
「。。。ゾイド様」
ローランドは低い声を投げかけた。全てを記憶するつもりなのだろう。ローランドの美しい緑の瞳の瞳孔は広く開いていた。ゾイドの与えた魔道具を使用したのだ。
「レイチェル嬢とジジ様は泉の中に。」
ローランドが指差す方向には、ジジの小さな体と、寝間着のままのレイチェルが、光輝く泉の真ん中に浮かんで見えた。レイチェルを中心として、泉には渦が発生している。
レイチェル、と声をかけようとしたその時、レイチェルの白い体と、ジジの小さな体が、小さな波紋を残して泉の中に消えた。水中に何かがあるらしい。
ゾイドの目に、白い美しい馬が写った。そしてその持ち主である太陽の騎士と呼ばれる青年も。太陽の騎士は、馬の側に立ち尽くし、水面を見つめていた。そしてその周囲を囲むように大勢の魔道士達が泉を囲んで、事の成り行きを見守っていた。
ゾイドは何も声が出せなかった。ここにいる全ての人々が、成り行きを固唾を飲んで見守っているのだ。
(それにしても。。)
ゾイドは心に思う。
(ここにいる全員がレイチェルの寝間着姿を見たとなると、、、誰から先に殺してやれば良いのやら)




