始まりの予震
「皆さん聞いてください。とても急な話で申し訳ないのですが今日から約1週間、4時間授業になります。その期間、放課後のクラブ活動も禁止とします」
授業前の朝、担任のプレフ先生がクラスメイトにそう告げる。
「よっしゃー!って、部活も無しかよ!?」
「どうしてですか?」
「先週の魔獣の襲撃で、一時的に音楽室の調査が行われるみたいなので仕方ないです。皆さん入学して間もないですけど気持ちを抑えてください」
先生は冷静にその場を収めた。
「それとシューラくん、今から私と職員室に来て」
「え?」
「おいおいなんかやらかしたのかよシューラ?」
「い、いやオレ何も…」
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「率直に聞くわ。君が襲われていたとき、何があったの?」
プレフ先生は落ち着きながらも真剣な顔でオレに質問をした。
「え?いや…オレ必死になって逃げてたからあまり覚えてないですけど、何かあったんですか?」
冷や汗をかいた。知らないフリをしているけどアグニから言われたことが強く浮かび上がり、先生にマズイことを言われそうな気がして妙な緊張が走った。
「……そう、わかった。調査中だから他の子には秘密にしてほしいのだけどね、実は音楽室の酷い有り様の部分、つまりは襲撃場所のとこね。あそこレーダーで調べると魔力濃度0なんだよね」
「え、本当っすか!?」
これには自分もビックリだ。この世界には空気中に魔法粒子というのが存在している。オレたちが魔法を使えるのも、この魔法粒子が反応して働いているからだ。
それが濃度0だって?正直ありえない。今までにそんな事例はない。いや0の場所はあるんだけど、普通の場所にはない。だからこの状況がおかしい。オレが本当に魔獣になったかもだし、それと何か関係があるのかもしれない。
「まあいいわ。シューラくんと一緒にいた子にも聞いたのだけど、襲われた以外に特に何もなかったですって」
「そ、そうっすか…」
良かった、ちゃんと黙っててくれて。
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「ユークリッドの互除法というのは______お、シューラ早く席に着け」
教室に帰ってくるとすでに授業が始まっていた。
座ってボーッと黒板を眺めていると、トワの方向から紙飛行機が飛んできた。
「イテッ」
紙飛行機を分解して広げると文字が書かれていた。
『プレフちゃんと何話してたの?』
授業外で話せばいいことを、暇そうにしているトワはオレに問いた。
『特に大事な話やありません』っと。
飛行機を返しそれを見たトワは、ぷくーっとふてくした顔で睨んできた。
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「アグニ~、あんたが使ってた音楽室修復工事するらしいから部活どうするんや?」
「メイルちゃん先生の話しっかり聞いてたの?今日から4時間授業で部活なしだよ?」
「あ…あははー!聞いてた聞いてた忘れてた!そんじゃあ今日から一緒に帰れるな!」
「も~~メイルちゃんったらー…」
「それにしても気の毒やなー、まさかあんたが部活で使ってた部屋壊されるなんて……。そうや、ここは友達として帰りなんか奢ったるで!」
「も~~メイルちゃんったら~!!」
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「ただの聞き込み調査だよ。偶然現場にいたものとして」
授業が終わるとオレの周りに人が集まった。
「なんだそんなことか」
「え、そんな話聞いてないよ。シューラくん私たちに言ってくれれば良かったのにー」
「ちょっと待って?いったい何の話をしてるの?」
トワはちんぷんかんぷんな顔をしていた。
「トワちゃんシューラくん本人から聞いてないの?3日前学校でシューラくん魔獣に襲われたのよ」
トワはオレの方を向いた。
「はー!?あんた、どうして私という存在にそんな大事なこと知らせなかったわけ!??」
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「あれ?もう終わった。」
4時間授業といえど、いつもよりも早く終わった感覚がした。
……間違いない。今日の僕は気持ちがいい!今まで感じていた重りがなくて絶好調だ!初めてやった朝の家族会議は僕中心に動いたし自分で作った昼飯は以外とイケてペンは凄くスラスラ書けた!鏡見たら目のクマ薄れてて身体も柔らかい!
なんか僕、覚醒したみたい!!
「おーーいアイキョウくーん!また裏庭寄っていこっか~~」
いつもの3人が毎日同じように僕の方にやって来た。
「くく… いいよ」
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「シューラ~、この後カラオケ行かねえか?トワちゃん誘って男3女3だぜ?」
アレクがオレら2人を誘い込む。
「えー私も行っていいの!?シューラ行こうよ!」
トワは嬉しそうな顔をしている。けれどトワが入れば何かと怖いから引き止めた。
「いやすまん、オレちょっとバイトあるから。それにコイツもオレのとこ来るらしいし今日はパスで」
「え?なんで?皆と遊ぼうよ?」
「いーから行くぞ」
オレは食いぎみに半ばトワを強引に連れ出し、アレクたちの元を去った。
「なんだあいつら、付き合ってんのか?」
「向こうにも事情があるのよ。そ・れ・よ・り、早く行こうよアレク♥️」
「どうしたのかな…シューラくん」
クレハはシューラを心配そうに見つめていた。
「ねぇ、なんで引き止めたの?」
「…お前、記憶ないって嘘だろ」
「は、どうしてよ?」
「じゃあなんでそんなにも慎重じゃないんだ?まだこの世界のことも全然知らないくせに他の奴と関わると何やらかすのかわかんねぇし怖ーんだよ。それにカラオケは知ってるのか。それに喋れてるし言語も理解している。お前怪しいぞ?」
「だから前も言ったじゃん!私の『記憶がない』は『思い出が消えてる』って意味だって!」
「はーん、そんな都合のいい病気本当にあるのか?」
その後、お互いに難癖を言い合いながら家に帰ってきた。
「どうしていちいちパーカーに着替えてるのよ?」
「縛られてる感じがして嫌なんだよ。私服は心落ち着くし。お前も着替えねぇのかよ?」
そしてこの家も落ち着く。畳の床がオレに自然の豊かな気持ちを与えてくれる。ボロいけど。
オレはタバコを持ちながら2階のベランダに出てゆっくり黄昏た。
「え~~、いーじゃん制服。可愛いよほらほら!」
トワもベランダに出て『私の制服姿可愛いでしょ』と、構ってほしいようにオレの横に立った。
「そうだ、この前の続きしよう。お前まだこの世界のことわかってないし」
「えー勉強やだーー」
「ちょっと教えるだけだ。嫌ならさっさと嘘ついてましたって吐け。まあそうなった場合親元に返すけどな」
トワはぷくーっと怒った顔をした。
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「もう俺らアイキョウくんに関わらないからさー、その制約として最後に今手元に持ってる金全部くれねーかなー?」
「………」
「おい!返事しろよ」
「…そんなことより、僕と勝負しようよ」
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「だから言ってるだろ。円形に囲う見えない透明な結界があるからオレたちは遠い未知の地へ行くことができない。結界の先には何もない荒野が続いているのに、目の前で見えるのに、越えることができない。結界は魔力濃度0だから魔法は効かないし、結界つっても強固な壁だから爆弾も効かない。これ何回言わすんだ?もうさっさと覚えろ」
「だって信じられないもん!」
ため息をついた。まあ確かにそうだ。生まれたときからすでにそうだったからあまり何とも思わなかったけど、透明な壁のせいで外に抜け出せないっておかしな話だ。
「じゃあ先週延期した結界見学を今度休日行くか?近くの方まで」
「やった!どのくらいかかるの?」
「まー片道2時間くらい?電車って意外とおっせーからなあ」
自転車で行ったことあるけどあんまり電車と到着時間変わらなかった。
「はぁ2時間!?あんた免許持ってないの!?乗せてもらうつもりでいたのにー!」
「バーカあるわけないだろ。まだ高校1年だっつーのに」
トワはネタで言ってるのか本気で言ってるのかわからない。
「もうめんどくさーい。それにしても、あんたの学校もめんどくさい場所にあるよねー。学校がこの家から遠いのよ。あぁ~あ~、早く免許取れる歳になればいいのになぁ。そしたら車に乗って楽々ーに行けてー、いろんなところに旅行もできてー、あっ、でも女子高生のままでいたいから、うーん……迷い所だなぁー。一生jkのままでいたいって気もするしなぁ__________」
「おいトワ」
「な、何よ?私喋ってるから割り込まないで___」
「車って何だ?」