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ドクガネルの牙  作者: 無音
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変わること

人はそれぞれである。ある者は常に前を向き、ある者はずっと暗闇のまま、何かを変えることなく。

この男もまた、その1人であった。




「おい、今日の分のカネ出せ」


「だ、だめだ…!これはお父さんから貰ったおこずかいで…」


「あ?お前またボコボコにされてぇの?」


この男アイキョウは、イジメの被害に遭う1人であった。

アイキョウを囲う3人は、学食や飲み物その他何かものを買う度に小さな裏庭に連れ都合よくアイキョウからお金を取り上げるイジメ集団である。


「うっひょ~~う!1000円だぜおい!俺らで山分けしようぜ」


「んじゃねアイキョウくん、またよろしく~」




「………」


彼は去っていく3人を見つめながら黙り込んだ。



「……あ、あれ…!?帰りの定期券がないぞ…!どうしよういつもお金全然持ってきてないし足りないし、これじゃ家まで歩いて帰ることになってしまう!」


財布の中にあった券がいつの間にか姿を消していた。


(ま、まさか…あいつら!?)


焦りの中考えた結果、イジメ子たちを疑った。




___________________________________


「ふんふっふふ~ん♪ふふふっふふーーん♪ふっふふ…ってなんだ、人いるんかよ…」


アイキョウの前に現れたのはシューラであった。


「どうした君?もう放課後だぜ?それにこんな裏庭に……、はっ!もしかして女の子と会う約束だったりして…」


「ははは、そんなのじゃないよ。それに君こそどうしてこんなところに?」


「あー…秘密にしてほしいんだけどぉ…実はタバコ吸いに……ってか君も吸う?笑」


シューラはタバコの束を差し出した。


「い、いいよいいよ!!」


アイキョウは手を前に出してストップの合図をした。


「(もしかして、この人不良…?)」


「君背高いね。あれ?もしかして歳上だったり…」


「え?あ、僕は2年生だよ」


「あ、すいません。オレ1年生です。勝手に1年だと思ってついこんな口調になってしまって」


「いいよ全然! …それよりちょっと頼みごとあって…」


「何ですか?」


「タバコ秘密にする代わりに……電車代借してほしいっていうか……」


普段の自分とは逆の立場の人が使うような言葉に、アイキョウは中々はっきりと言うことができなかった。


「貸すっていうか、黙っててくれるならあげるよ」


「ほ、本当に!?」


「いいってことよ。えーー、まあ700円くらいあったら大丈夫しょ。はい」


シューラは700円を低く投げ渡した。


「あ、ありがとう!!それじゃあ!」



ピューーー!!


「うおお!!どっか行くの早!」


アイキョウは受け取ったお金をギュッと握りしめて素早くその場を去った。




「…まあそんなことより、あの件だよな……」


ふぅ…


オレはタバコから出る白い息を深く吐いた。


まさかアグニからあんなこと言われるなんて思わなかった。オレが魔獣?さすがに嘘だろ?本気で言ってんのか?でもアグニ真面目そうな人だからホントなのかもしれねぇ……

くそ…!てっきり助けたお礼に告白してくれるのかと思ったじゃないか!!


いやそんなことより!どうするよ?もしアグニ以外に見てた奴いたら。大きく盛られてスクープになるかもしれない。そしたらいろいろ面倒で…


あー!もうわかんねぇ!!


まあ幸いアグニは黙ってくれるから良かった…




__________________________________




ガタンゴトン______ ガタンゴトン______ 



最寄り駅に着いたとき、夕方で外はオレンジ色になっていた。


はあ……


いつからイジメられたのだろう。ある日突然ってわけではなく自然と始まっていて。でもなんとなくこうなるんじゃないかって気はしていた。なぜなら僕は身長が高いけど、それ故に猫背であることや身体が細いことが目立った。それに暗い性格で休み時間は勉強しかしてなくて。

でも教室でイジメが起きないのは本当に良かった。こんな僕でも好きな人がいるから。だからカッコ悪い姿なんてとても見せられない。


「ただいま…」


「お帰りなさい。今日は7時から塾があるからそれまでに学校の復習をしておきなさい」


「う、うん…」


2階へとゆっくり上がる。


両親は共に医者である。だからとても勉強に熱心で僕の気なんか知らず、毎日毎日医者になるよう勉強しろと押し付けてくる。それもあって、今日定期券を失くしたとは言えない。言ったって勉強以外は面倒事かけない人だし、そもそも失くしたなんて僕に言う勇気がない。



ガチャ


僕の部屋の隣の部屋からドアが開く。


「ん?あ?何見てんだよゴミ・不潔・陰キャ」


この人は僕の妹のアイシー。明るい女なのだが、僕の前では生意気な女。けれど僕は言い返せない。

彼女は勉強ができない代わりにバドミントン全国大会出場という実績があるので、勉強をしないのは家族から許容済みである。

そう、立ち場のない僕は嫌でも勉強にすがることしかない。


集中が続かず、時計の針は7時を差した。



「塾、行ってきます…」


「「……」」


誰も反応を示さない。いつものことだ。僕はいらない存在であろう。


誰も味方がいない。苦しい。



そしていつものように塾を終え、家に帰り、ラップがされたご飯を温め、食べ、風呂に入り、塾の復習をして、寝る。


もう何も変えられない。明日も学校で嫌な思いをして、家に帰ってまた嫌な思いをする。



もしも、僕に力があれば、違ったのかな……

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