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ドクガネルの牙  作者: 無音
2/16

何もわからない

〈50〉

「シューラ…どうして……痛いよ…」


「どうしてかって?そんなの決まっている。皆に裏切られたから。皆を嫌いになったから。だから復讐だよ。でもわからないな。トワはオレの味方だったはずなのに、どうして邪魔をするんだ?」


「そんなの……バカな私だから…考えてもわからない……。でも、邪魔しようと…身体が動いてるってことは、これは悪いことだって……考えなくてもわかるから…」


「確かにそうだな。トワは正しいよ…。オレは今、悪いことをしている。…こんな前代未聞な復讐劇、もう取り返しがつかない…! オ、オレだって…なんでこうなったか、わからなくなっちまった…!前まで皆と楽しく学校生活を送って、家ではキミと、また違った楽しみがあって、そんなかけがえのない平穏な日々があったのに…もうわからなくなって……! …オレの心はもうグチャグチャだ。だから、本当に壊れるまで、ただ突き進むよ」


「突き進むって……本当に私を、殺すの…? …殺せるの……?  …殺せるくらい、もう私には価値が無いの……?」


「もう嘘はつかない。それに、あっちにも、恋的にオレのことを好きでいてくれる人がいる。他にも友好的な人たちがたくさんいる。好きでいてくれるからオレもそいつらを自然と好きになる。新しく大事な人ができた。過去に囚われず、より更新していく必要がある。人間関係ってそういうもんだとオレは思う。だからここにいる人たちはあまり必要がなくなった」


「必要ない…!? 、、、バカバカバカ!!どうしてシューラは…そんなこと言う人になったの!? おかしいよ……シューラをこんな目に遭わせた奴ら、許せない…。絶対に殺す…!」


〈51〉

「チッ!黙れ!!おかしいのはお前だ!オレの仲間にそんなこと言うんじゃねぇ!!」



ズバッ____________






_________________

__________________________________






「はっ!!」


バサッ



ハアハア…… 何の夢、見てたっけ……


血が、ドバッと________

「シューラくん!!」

「うわっ!」


側にクレハとアレクがいた。視界にないところから突然名前を言われたのでビックリした。


「大丈夫!?ケガしてないよね!?」

「何があった!? てかなんでお前あんなところにいたんだ?」

「あれ、ここ保健室?なんでオレ今ここに?」

「え、覚えてないの!?聞いた話だと、シューラくん音楽室にいたらしいけど、どう?それでも思い出せない?」


音楽室……  あっ、


「思い出した」

2人が慌てているようなので、オレは落ち着いた様子を見せて言った。


「あれだ、…魔獣が来た」


「えっ、たまたまシューラくんのところに!?」


「マジかよ…。そういや最近、魔獣の出現率低いかったからなぁ」


今回が初めてのことではない。

この世界には『魔獣』という化け物が突如として光を放ち現れる。もちろん、ある一定の時間に出現するというわけではなく、いつ襲来してくるかわからない。幼いときからこの現象があった。そして解明は未だ謎らしい。


思い返す。そういやあれは紫色の光だった。種族によって違うのかな?


ってあれ、あの子は助かったのか!?


「まあ1人でよく助かったもんだな」


「1人………いや違う、女の子も1人いたはずだ…!あの子は今どこだ?」


「女の子?アレクくん、そんな話聞いた?」


「いや知らねー。つーかお前…また違う女といたのかよ(羨ましっ!!)」


どういうことだ…!?じゃああの子は_______



幽霊か!!! 納得!!



「そろそろ行こっか。起きたばかりのシューラくんにも迷惑だし」


「そだなっ!行こうぜクレハちゃん!こんなヤツ放っといて」


あ~~~行かないでクレハさ~~ん!



.


.


.



「うわっ、結構暗いな」


保険の先生から大事を取れと言われ、長い間保健室に籠っていた。外に出たときにはもう夜になる頃だった。


「立ち読みでもしに行くか…」


漫画を(あさ)るため、本屋に寄る。



パラパラパラ_______


バイトが無いときの日課となっていた。でもこれもそろそろ飽き時か。

時間が経ち、本屋はほぼスカスカ状態で、オレが本屋から出たときにはさらに空が黒くなっていた。


飯買って帰るか…


別に家に帰るのはいつだっていい。帰ったところでオレを待つものは何もないから。


電車の駅から家までまあまあ時間が掛かるから、歩くのが面倒だし疲れが溜まる。



やっと家が見えた。


「ん?」


少女が1人、家の近くにいる。


しゃがんで制止している。真っ暗な中に1人ポツンと。

顔の知らない女の子が、こんな電灯の少ない暗い場所にいるなんてどう考えても不自然だ。


放っておくわけにはいかない。いや実際は放っといていいのだが、心配になって「せめて声だけは掛けよう」と本能的に動いてしまう。


「君、そんなところに座ってどうしたの?家に帰らなくて大丈夫か?」


彼女は顔を上げてこちらを見た。なんとも無表情な顔で。



________!!


「君、もしかして…」


思い出した。今日の朝バイト終わり、すれ違った際に何かオレに言ってきた女だ。



彼女はじっと見つめた。


「…そう、おそらく君が考えている人だよ。私の名前はトワ。あなたは?」


いきなり自己紹介が始まった。


「オ、オレはシューラといいます。それより君、どうしてこんな町外れなところに?」


彼女は立ち上がった。


「ねぇシューラくん。家、泊めてよ。今夜だけじゃなくてさ…これからずっと」


・・・は?


「いやいやいや!え、帰らないのか?もしかして家出してんの?」


「そんなんじゃない。私ね、記憶が無いの。だから帰る場所なんてわからないし、行く宛もない。いろんなとこ探して疲れたから、今たまたまここに座ってただけ」


「ぷっ、正直に家出しましたって言えばいいのに」


今考えたかのようなばかばかしい話に思わず微笑してしまう。



「はぁ!ホントだって!!」


うお!

さっきまでの無表情で冷酷そうな人物像が消えて今度は感情的になった。


「はいはいもういいよ。ちゃんと親と仲直りしろよ。それじゃあオレもうここ家だから」


「だから違うって!!!」


「はい、さようなら」


と言って家に向かおうとするオレを、腕を掴んで抑える。


「どうして……入れてくれないの……?そんなに嫌がらせする人なの…?」


彼女の弱々しい声がオレを困惑させる。作った表情かもしれないけど。


はぁー…、どうしたことか。


外は暗いし、どうやら帰るつもりではないので野放ししても仕方がなかった。それにありえないけど、もし本当に記憶が無い系なら、オレのやってることはおそらく酷いだろうな。


「はぁー……もういいよ。今日はもう泊まって」


ため息を吐き少女を家へと誘導する。


「いいの!?」


「いちいち聞き返すな」


「あ、ありがと……。でもどうせならもっと早くしてくれればいいのに」


「わかりました。じゃあ帰ってください」


「ウソウソ!冗談だって!!」


_______


家に入れたくない理由は2つ。1つ目は、この女、見た目オレくらいの歳もしくはそれより少し下なのでどうしても女子として意識してしまう。

2つ目は家庭環境だ。家はボロい、中は物が少なく寂しい、酒に酔い倒れる男がいる、まあこんなところだ。


「あ、シューラくんお帰り~~ってシューラくん、その子は?」


じじいは酒を飲んだ形跡を残してそう言う。


「初めましてお父さん!私、トワと申します!ちょっとお邪魔しに来ました!」


いきなり泊まりにきたとは言えないのだろう、トワは男に嘘を混ぜて礼儀正しく挨拶する。


「コイツは父さんじゃねえ」


「え?じゃあこの人は?」


トワはキョトンとした顔をする。


「ただのじじいだ。実はオレ、気づいたときにはもう両親がいなくて、顔も姿も一度足りと見たことないんだ。それで実親はコイツにオレを預けたらしい。だからこの人は親でも何でもない。初めはこのじじいに妻がいて3人暮らしで明るい家庭だったけど、別れてしまってな」


思い詰めるように、じじいに嫌味を言うように。


「ふ、複雑な家庭ね…。でも、長い間一緒にいるおじさんに『じじい』とかそんな言い方ないんじゃない??」


確かに育ててもらった人に対してそんな言い方間違っているってわかっている。けれどそうなった理由はある。


その事を語ろうとすると、じじい本人から口を出した。


「お嬢ちゃん、おじさんは間抜けなものでね、妻と別れたのも全部自分が悪いくせにイライラして酒に手を染めて時にはシューラくんに暴力を振ってしまったんだ。あんなにも励ましてくれたのに。昔はシューラくん、おじさんのこと『父さん』って呼んでくれたんだけどね、実の父でないとわかっていながら。でももちろんすべて受け入れたさ。なぜならそれが私の償いだからね」


「それにコイツは今無職でオレがバイトして生計立ててるからな。ホントに情けねーぜ」


オレが追加情報を付けると、彼女はオレの方へと向いた。そして____


ぺチッ


軽くビンタされた。


「イテッ!!何だよ急に!」


「あー、何だか空気悪くなってきた。ねぇ、夜ご飯まだでしょ?私つくるから台所貸して。てか食材ある?」


「トワちゃんがおじさんのために夜ご飯を作ってくれるの?」


い、いきなりだな…。せめてビンタの反省をしろ!

なんかさっき会ったときからそうだけど、異常に生意気じゃねーか?この女。


「冷蔵庫確か腐りかけのやつあったような……、多分の大丈夫なやつ。あっ、オレの分いらないから」


「はぁー!!せっかく作ってあげるのに食べないなんてサイテーね!」


「でもさっき買ってきたものがあるから______」


「ダメ!それは健康に悪い!ちゃんと作ったものを食べなさい!わかったぁ?黙って私の言うこと聞きなさい。それに礼儀ってものがあるでしょ」


な、なんなんだこの女…。家に入れてあげたらこれかよ…

もうわかりました。初対面だし女子だからあえて言葉遣いに気をつけてたけど、もういい。


「そんなに言うなら、料理に自信あんのか?」


「当たり前でしょ、私は口だけの女じゃないの。今から全員の分つくるから待ってて。いい…?」


睨み付けるかのようにオレを見てから、素早く調理を始めだした。



_______


パクパクパク……


(あれ?フツーに上手い…)



「ねぇおじさん!名前は?」


「アルマだよ。でも名前で呼ばれることって最近ないなぁー」


「じゃあアルマおじさん!質問!長い間ここに住んでいい!?」


「はあ!?さっき一泊だけって______」

「あぁあぁお黙り」


トワはオレの口元へ、人差し指を上向きに立てて黙らせる。


じじいは驚くかのように一瞬目を大きく開いたが、すぐにいつもの平然な顔をする。


「いいよ、いいよ、おじさん嬉しいよ。こんな家に可愛い女の子が来てくれて、おじさんとっても幸せだよ」


「お、おじさん!?」

大層嬉しかったのか、じじいは涙を浮かべる。


「おい!本当にいいのかよ!?」

「シューラくん、ここもあの頃のように明るくなるかもしれない。だからおじさんは大歓迎さ」


チッ 暗くなったのはお前のせいだろうが。


「やった!じゃあ私、これ食べ終わったらさっそくお風呂に入るね」


「何言ってる。シャワーだけにしろ」


「べーーだ。あんたの言うことなんか聞くもんですか!」


よくもこんな態度の悪い生物を産みましたね親御さん!!(怒)


.

.

.

.


「私ベッド!あんた地面で寝なさいよ!!」


「はいはい…」

トホホ…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「初めてだから2人一緒に寝ればどうかな?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あのクソじじい……。トワもなんでそこは反論しないんだよ。


オレは仕方なくカチカチの地面に布団を敷いて寝ることにした。



「ハア」とため息1つつき、仰向けになる。


今日は最も忙しく、いろんな経験をした1日だった。クレハと席が前後になるわ、名前も知らない少女と話すわ、魔獣が出るわ、いきなり同居しろとか言う女と出会うわ。

疲れた。ずいぶんな女の子デーだった。


そういやアレクも質問してたけど、どうやってオレは魔獣から切り抜けたんだっけ?


仰向けになりながらボーッと考える。


多分、攻撃を受ける前には意識はあった。あの後結局どうなっていた?

どうしてか記憶が曖昧としている。


思い出せ。しばらく意識を失っただけだから記憶が飛ぶなんてことないはずだ。


ドクン


心臓の鼓動が大きくなる。



何か、


ドクン


確かに、


ドクン


1つ、


ドクン


ドクン


ドクン______________





グォォガアアアアアアーー!!!!



「キャアアアア!!!」



まずい!!魔獣だ! くそっ、間に合わない!!


もう目の前に…! せめてこの子だけでも…!!



グガアアアアアア!!!!



いや待て、庇ったとしてもこの子は無事か?庇う意味あんのか?しないにしても逃げられるか?囮ならいけるか?いや、オレの方に食いついてくれないかもしれない。


……ダメだ。魔獣はそんな甘くない。今までだってこいつのせいで何人の人たちが命を落としたことか。


もうダメなんだ。この子も死んでしまう。




ドクン



ドクン



やばい…、本当に死んじまうのかオレ…!?



新しい高校生活に晴れやかな気持ちになったばかりなのに!せっかくクレハとも話せたばかりなのに!



嫌だ嫌だ嫌だ!!



夢も、希望も、ダメになっちまう!


ガキの頃の、ガキのような夢までも…!



誰か……助けてくれ!




_



「だって私たち、本当の悪魔だもん」


え?


「お前、皆から見捨てられたんだよ」


痛いッ!ー


「アレスさん、さようなら」


時計……!??


何だこの文字…?


「死んでしまえ!」

苦しい

「美味しかったよ、兄さんの体」

苦しい

「ああ自由だ」

苦しい

「行こう、彼方なる道へ」



「全てを、支配する」




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ドクンッッ!!!



「うわああぁぁ!!!!」



「シ、シューラ!!どうしたの!?」


ハア ハア ハア ……


「ごめん、何でもない」


ハア ハア …


「怖い夢でも見た?」


「え…?」


「聞いただけ。……でもまあ、嫌なことがあったら相談してよね。これから一緒に暮らすんだし……今日のお礼として……」


「ははは…」


静かに笑顔を作る。トワの方へと向くと、彼女はそれに反応して、


「な、何よ!!」


あーヤバイ、可愛い…


もしかするとオレは、クレハよりも強くトワを意識しているかもしれない。


「何でもないよ。おやすみ」


また背を向けて、今度はしっかり目をつぶった。





「むうぅ…!」

.

.

.




スゥー… スゥー…

スゥー… スゥー…



「ありがとね、おやすみ」

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