嬉し涙、悔し涙、知らぬ涙
龍の魔獣が姿を表す_____!
アアァァァァァァ!!!!
龍による風圧がアルマーを吹き飛ばし、アルマーは危うくも敵の攻撃を免れた。
しかし打ち所が悪かったのか、アルマーは地面に伸びたままだった。
ドコッ!!
空かさず攻撃を始める。
「か、勝ってしまうかもしれない……」
トワは小さく呟く。
龍による打撃が冴え渡り、敵は叫び声を上げる。
それに抵抗して敵魔獣は反撃を繰り広げる。
アアアァァァ!!
しかし龍の魔獣は屈しない。これは龍の、いや、シューラの意志が強く働いている。
勢いのある攻撃がシューラの勝利へと近づける。
グガァァァァァ!!
敵は逃げる体勢をしている。現在、魔獣出現から約1分。魔獣は時間を考えて後退を挑んでいるのではない。この状態は、明らかにシューラが操る龍に怯えている様子である。
しかし龍は止まらない。打撃打撃打撃で痛め付け、取り押さえ、逃がさない。
敵はほぼ瀕死で、抵抗する力も下がっていった。
大事な1秒1秒が刻一刻と迫る中、さらに打撃を加えようとするそのとき、トワが動き出す。
「シューラァァ!!ストップ!!!」
トワは2体が戦闘する危険な間に入り込み、両手を広げて仲裁に入った。
龍は殴る寸前でピタリと止まった。
それから静止したままであった。
敵魔獣は素早く場を離れ、姿を消す。
静止した龍は溶け始め、形が崩れた。
そして中から、意識を失い倒れているシューラの姿があった。
.
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目を覚ました。
「……あれトワ…?」
仰向けに起きると、さっきまでは晴れだった空からの曇り空が見えた。
「良かった無事で…!!」
トワはオレを抱き締めた。
「オレ魔獣と闘ってたような気がしたんだけど…」
「うん…!シューラが龍になってくれたおかげで私もおじさんも、皆助かった!!」
トワから、本当に良かったという想いがしみじみ感じ取られた。
「バカバカ!どうして龍の魔獣になれる力を私に黙ってたの!?そんな強いの持っていながら言わなかったの…」
「オレが…魔獣…!?ちょっと待て!オレは魔獣になっていたのか!?」
「記憶は……無いみたいね。その通りだよ。もう一度言うけど、シューラは私たちを助けてくれたの。龍のような形に化したシューラはとっても強くて守ってくれたから、魔獣は諦めて帰って行ったの。ホントにホントに…皆生きてて……嬉しいよ…!!」
トワはうっすらと涙を浮かべた。
「トワ、とにかくこのことは決して誰にも言うなよ…」
.
.
「おい起きろじじい(ペシペシ)」
「ん、んん…。あれ…生きてる…。魔獣は消えたのかい?」
ますますこの世界の仕組みがわからなくなった。
魔法とは何だ?科学的に証明できないこの異能力がどうして存在していて、そして使えるんだ?
魔獣とは何だ?どうして人を襲い、街を襲い、そしてすぐに消えるんだ?
「この景色は…酷い有り様だね…」
そしてなぜオレは魔獣になれる?
「とにかく家に帰ろっ。……壊れてなければいいね…」
オレは____自分の身体が…恐い。
_____
「良かった…ちょっとしか壊されてなく______」
「うえぇぇぇぇん!!!お母さぁぁぁぁん!!」
うっ…
瓦礫の下に血が垂れていて、生身が散っている。それを子供は、悲しそうに…
「ううう…」
ヒドイ。街は荒らされ、何度か視界に入るくらいの数の死者や重傷者、泣き声や叫び声に強く胸が打たれる。
それでもまだマシな方だ、魔獣は1分以内にいなくなるから。それがもし何分も滞在する奴らなら、言葉にできないくらいの大災害だ。
どうしてだ?どうしてこんな惨劇が?どうして悲しみばかりが?
どうして段々とオレの夢を遠ざけるんだ?
「携帯取ってくる。壊れてるかわかんねぇけど」
「家の中危ないから一旦掃除しないと…」
「んなこと言ってられねぇだろ…」
リビング辺りに外傷は無いけど、振動でカップやらガラスやらが割れて飛び散っている。
「よし、携帯生きてる」
なあウルバ。オレ、夢叶えるためにでっかい口叩いてたけど、なんか疲れてきた…。まだ始まったばっかなのに。
ちょっと、相談相手になってくれよ……
トゥルルルル…
そういえば人に相談するってあんま無かったな
トゥルルルル…
トゥルルルル…
おい、いい加減出ろよ。
…まあいっか。後でも、
いつでも_____